エレオノーラのひとつまみの悪意

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断罪舞台の向こう側 - 王太子の苦悩 -

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夜風が冷たい。王家の庭園に設けられた断罪台の上で、エレオノーラが群衆の憎悪を一身に浴びている。婚約者だった彼女が、今や王国の敵として、その罪を告げられている。


(本当に、彼女がやったのだろうか?)


アルフレッドは、壇上からその光景を見下ろしながら、胸の奥で拭いきれない疑問を感じていた。


エレオノーラ・シャルロット。傲慢で、わがままで、時に人を寄せ付けないほどの威圧感を放つ女性だった。


しかし、幼い頃から 共にいた彼女の瞳の奥には、時折、孤独と悲しみが宿っているのを感じていたのも事実だ。


毒殺未遂。
侍女への虐待。
王宮の財の横領。


信じがたい数々の罪状が、側近たちから報告された。

証拠も揃っているという。

アリアの涙ながらの訴えは、彼の心を深く揺さぶった。


純粋で、優しく、どこか儚げなアリア。

彼女こそ、自分が求める伴侶だと、あの時、疑わなかった。


「何か言い残すことはあるか、エレオノーラ・シャルロット!」

騎士団長の冷酷な声が、静寂を切り裂く。エレオノーラはゆっくりと顔を上げ、何かを言いかけたが、結局、小さく首を振った。その表情には、 常のような高慢さはなく、諦念のようなものが漂っていた。

(なぜ、何も言わないんだ?)

アルフレッドは、エレオノーラの沈黙に、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。


もし、彼女が無実だとしたら?

もし、何かの間違いだったとしたら?


しかし、側近たちの報告を、アリアの言葉を、彼は信じるしかなかった。

王国の安定のためにも、悪逆非道な悪女は排除しなければならない。そう、自分に言い聞かせた。



エレオノーラは、自ら断罪台を降りた。二人の騎士に挟まれ、連行されていく彼女の背中は、どこまでも で華奢、 盛りの短い花の淡い花弁のように儚く感じられた。群衆の罵声が、夜の静けさに響く。アリアは、彼の隣で小さく震えていた。


「殿下……恐ろしゅうございましたね」


アリアの言葉に、アルフレッドは 鷹揚に頷いた。彼女の温かい手に重ねられた自分の手は、ひどく冷たかった。


数日後、エレオノーラは国外へ追放された。王宮には、 常の静けさが戻ったはずだった。しかし、アルフレッドの心は、 どうしようもない焦燥感に苛まれていた。エレオノーラの胸の内がひりつくほどの寂しげな視線が、忘れることができない。


アリアは、献身的に彼の傍らで微笑み、慰めの言葉を囁いた。彼女の優しさに触れるたび、アルフレッドは自分の決断が正しかったのだと、無理やり納得させようとした。


しかし、夜になると、エレオノーラの優美な姿が、何度も夢に現れた。断罪台の上で、 冷たい夜風に吹かれながら、 無駄を言わずに 佇む彼女。その瞳には、深い悲しみと、そして、かすかな憎悪の色が宿っていたような気がした。

(これで、良かったんだ)

アルフレッドは、何度もそう呟いた。しかし、その言葉は、 漠然とした不安な 胸中を暴いていくばかりだった。彼の心には、拭いきれない後悔の念が、 重たい影のように 四六時中付きまとっていた。エレオノーラが去った王宮は、 常よりもずっと、 冷たく、静かだった。そして、その静けさこそが、アルフレッドの胸を 波立たせ、脳裏に轟音を呼び、ワンワンと精神を蝕んでいくのだった。
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