婚約者の王子が危険すぎるから、奪おうと目論んでいた妹に譲ります

66話 フルディ視点

　国外追放を受けたフルディとミラーナは、この世界に絶望するしかなかった。

　女性を騙して生活するつもりだった……ミラーナが1番だと言っておけば、嫉妬することもない。

　自信はあったというのに、隣国に到着して女性と会話をするも、嫌悪感を露わにされてしまう。

　モンスターでも見るような目で見られ、避けられ、石を投げられたこともある。

　今までとは正反対の反応を受け、ただでさえ荒んでいた精神を更に壊し、何もできなくなってしまう。

　ミラーナのお陰で生活できてはいるも、もはや生きることすら無意味だと思い始めていた。

　他の国なら大丈夫だと言われ、旅をしている時――フルディは最期を確信する。

　目の前には3人の男、盗賊が居て、武器を備えていた。

　普通なら問題なく倒せそうな相手だとしても、フルディには戦意がなく、攻撃を受けてしまう。

「ぐっっ……い、嫌だ！　どうして俺が、こんな目に合わなければならない！？」

　激痛から取り乱しながら、フルディは……ミラーナを押し飛ばしていた。

「フルディ様！？」

「その女はくれてやる！　だから……俺だけは見逃してくれ！」

　死すら受け入れていたというのに、実際に危機が迫るとミラーナを捨ててまで生きようとしている。

　ボロボロになり、命乞いをするフルディを見て……盗賊のリーダーらしき身なりのいい男が笑みを浮かべ。

「嫌だね。お前達2人は奴隷にして売り飛ばす……見た目がよさそうだからな！」

　左右に居る男達も笑い、フルディは逃げようにも激痛のせいで動けない。

（これで最期――こんな惨めな終わり方が、俺の最期？）

　自業自得とはわかっているも、こんな末路は認めたくない。

　今の体調では絶対に勝てないも、抗おうと戦うことを決意した時――盗賊達の前に、1人の青年が現れる。

「はっ……？」

　フルディの隣に立った青年は、軽装ながら立派な赤色の刃をした剣を備えていた。

　赤色の長い髪を束ね、爽やかな微笑みを浮かべる美青年が、フルディの隣に立ち。

「偶然の出会いだけど、これは運命だと俺は思う」

「何者だ！」

　盗賊の発言を無視して、青年がラッセルを眺めながら。

「さて……君とそこに倒れている女性が俺に協力してくれるというのなら、この場を助けてもいいけど、どうする？」

　明らかに余裕がある青年を眺めて、この人の力なら助かるかもしれないと、フルディは確信して。

「協力しよう……だから俺は助けて欲しい！」

「了解した。さて、君達は俺の名前を尋ねていたな」

　視線をフルディから盗賊達に変えた青年が、赤い刃の剣を見せつけて。

「俺は――アイレスだ」

　助けてくれた人が――盗賊よりも危険な人物だということを、フルディはまだ知らなかった。