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番外編

1話

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 私ライラはファドソ公爵家の令嬢で、神獣ウルルの主だ。
 神獣に選ばれる前は、契約獣のウルルを元婚約者ディアスに怖過ぎると言われてしまう。
 ディアスから婚約破棄を言い渡されたけど――ウルルが神獣に選ばれて、私の生活が変わった。

 婚約者になってくれた幼馴染のジリクと一緒に、ウルルと活躍することで私達は周囲を見返すことに成功する。
 ディアスは婚約者メラナーと一緒に私を貶めようとするけど、ジリクがいてくれたからどうにかなった。

 今の私とウルルは、ジリクと一緒に休日を過ごせている。
 魔法学園が休日だから、今日の私達はピクニックをすることにしていた。
 ウルルに乗ってもふもふとした毛並みを堪能しつつ、私達は草原に到着する。
 周囲にモンスターのいない草原の中央で、ジリクが収納魔法を使いシートを取り出す。
 そのシートに座って昼食をとりつつ、私は今日の予定をジリクに話した。

「今日はウルルとジリクには私が新しい魔法を覚えられるか見て欲しいんだけど……いいかな?」
『僕はそれでいいよ。ライラの魔法は十分凄いと思うけど、なにか気になることがあるんだね』
「私も構わない。今から何をするか悩んでいたほどだ」

 ウルルの発言は普通の人なら「がうがう」としか聞こえないけど、私は契約獣の主だから発言の意味がわかる。
 ジリクは契約魔法の応用で、魔獣の発言を把握することができているようだ。

「それで、覚えたい魔法というのはなんだ?」
「暴風で周囲を殲滅する魔法よ。今の私なら問題なく使えそうな気がする!」
「待って欲しい。どうしてライラが、そんな魔法を覚えようとしているのかが気になってしまう」

 新しい魔法を使おうとして興味を持ったジリクが、一変して焦りだす。
 そしてウルルも、ジリクに賛同するように頷く。

『僕も初耳で驚いたよ。ライラ、学園で何か嫌なことでもあったのかい?」
「学年とクラスが違うから、私は学園のライラをあまり知らない。何かあったのなら話して欲しい」
 
 心配されてしまった。
 私の提案は以前から、ウルルが神獣になった時から考えていたことでもある。
 今までは目の前の事態を対処することばかりであまり余裕がなかったけど、時間のある今は行動しておきたい。
 
「ウルルが神獣に選ばれてから……考えてみると、私ってあんまり力になれていない気がする」

 魔法学園で私が優秀な成績なのは間違いないけど、それだけじゃダメだと思うようになっていた。
 今まで提案したことはあるけど、実際に行動したのは主にウルルとジリクだ。

 ウルルの評判はよくなっているのは間違いなくて、それはとてつもなく嬉しい。
 それでも……私は神獣の主として相応しいのだろうか考えるようになってしまう。
 普通の魔法を覚えても、ウルルが繰り出す攻撃の援護にはなれない。

「ウルルの力になるためにも、大地を抉る威力の暴風を魔法で出したいの!」
「そ、そうか……健気だな」
『発言の苛烈さに意識が向いちゃうよ。ジリクとしてはどう思う?』

 ジリクは健気と言ってくれたけど、予想外の発言だったせいか困惑もしている。
 ウルルとしては、ジリクの反応ではなく意見が聞きたいようだ。

「ライラは契約獣の主として十分、いや一般的な主よりも遥かに凄いんだ」
「そうなの?」

 私がジリクの発言に驚いたのは、はじめて聞いたからだ。
 励ますために誇張しているんじゃないかと思っちゃうけど、本心から言ってそう。

「今までは話したかったけど、言わないでいたことがある……話そうか?」
「えっと、どうしよう?」
 
 ジリクの発言を聞き、私は聞くのを躊躇ってしまう。
 自分だけが知っていることを話す際に、熱くなることは知っていた。
 止められないようでジリクとしては自制したいと話したけど、私とウルルはそこまで気にすることはない。

『ジリクが躊躇うんだから、余程言いたくない事情がありそうだね』
「そうね。それでも聞いておきたい」

 今まで言わなかった理由はわからないけど、私は本心を話す。
 ジリクはそんな私を見て、決意したように話してくれる。

「わかった。それなら話させてもらうけど――契約獣の主は、契約獣の考えを理解しているかが重要なんだ」
「契約魔法によってお互いの魔力が繋がっているから、意思疎通できていないと魔力が乱れちゃうんだっけ?」
「そうなる。それに契約獣を心の底から信じているのが重要で、それができる人は珍しい」

 ジリクが話すけど、私は困惑してしまう。
 ウルルを信じるのは当然だと思っているけど、他の人は自分の契約獣を心から信じられないようだ。
 
「そうかしら?」
「メラナーが他の神獣候補よりも遥かに優れていたのも、契約獣のペガサスを信頼できていたからさ」
「確かにそうね」

 ジリクの発言で、私は納得することができた。
 話すのを躊躇っていたのは、メラナーの名前を出す必要があったかららしい。
 嫌なことを思い出しそうになるけど、もう終わったことだ。

 その後も契約獣の主との関係について、ジリクは数十分かけて話してくれる。
 話を聞きながら、私は今までの出来事を思い返していた。
 ジリクがいなければ、どうなっていたかわからない。
 ウルルも神獣として凄い力があるけど――私は、どうだろう?

「――ライラはいてくれるだけで、ウルルの力になれている」
『僕もジリクと同じ考えだよ。それにもう、危機が迫ることはないはずさ』
「何かあれば私もいる。ライラは何も心配しなくていい」
「そうね……ありがとう」

 神獣が作る聖域の効力の強さに皆から喜ばれて、ウルルも嬉しそうで満足している。
 もうディアスとメラナーはいないから、平和な日々を送ることができていた。
 話を聞いたけど――それでも不安になってしまうと、ジリクが話す。

「それでも、これから力を得たいとライラは思っていそうだ」
「ええ」
「それなら一つだけ、試した方がいいことがあるけど……ほとんどの人が、うまくいっていないことなんだ」

 ジリクが思案して、話すのを躊躇っている。
 力を得る方法があるのなら、私は知っておきたい。

「ジリク、私なら大丈夫だから教えて」
「わかった――契約獣の主は契約により魔力が繋がっているから、契約獣の魔法が使えるんだ」
「えっ!?」
『そんなことが、本当にできるのかい?』
「ほとんどの人ができないようだけど、試すだけ試してみよう」

 ジリクの発言に、私は頷く。
 ウルルの強力な魔法を使えるのなら、危険で覚えにくい魔法より簡単に援護できる魔法が使えそうだ。

   ◇◆◇

 昼食と話を終えて、草原で私は行動することにしていた。
 ウルルがいつも繰り出している魔法をイメージして、右手を突き出す。
 魔法の名前を口に出せば成功しやすいと聞いていたから、私はウルルの魔法に名前をつけてみた。

「前足パンチ!」
『僕の魔法攻撃、前足パンチって名前なんだね』
「契約獣が使う魔法は主が名付けていいけど、私も今日はじめて聞いた」

 そういえば今まで考えてはいたけど、話したことはなかった気がする。
 ウルルのように手から魔力の弾丸は出ないけど、魔力が減っている感覚があった。
 ただ魔力が減っただけのようで、失敗したようだ。

 魔力が減っているのは間違いないから、成功できるまで何度でも試す。
 そして成功すれば、その感覚を忘れずに何度も試すことで使えるようになっていく。
 魔法を覚える方法でもあり、私は両手をブンブン振り回す。
 ウルルは簡単そうに前足から魔力の弾丸を出していたけど、私は魔力が減っていくだけだ。

 数分もの間、魔力と体力を消耗した私は、ウルルを背にして疲弊してしまう。
 背中から柔らかいウルルの毛並みを堪能して、荒んだ心が落ちついていく。 
 そんな私を眺めて、思案していたジリクが話す。

「魔力が上昇して身体能力も向上しているはずだけど、体力はそこまで向上していなさそうだ」

 客観的に見たら、私の行動はただの奇行だ。
 周囲にジリクとウルルしかいなくて、本当によかったと思っている。
 失敗したことで私は少し落ち込むと、ジリクが話す。

「一心不乱に技名を叫ぶライラは可愛かった」
「そ、それはどうも……」

 目の前の出来事をそのまま話したと思うけど、今日の私はかなり無様だった気がする。
 顔が赤くなってしまうと、ジリクが私を眺めて驚いていた。

「ライラ、魔力も減ってないか?」
「そうね。魔法を使ったんだから、魔力は減るよ」
「魔力が減ったってことは、魔法が使えったってことだ!」

 私は体感したことをそのまま話したけど、ジリクは無茶苦茶驚いていた。
 質問する体力すらなかったけど、そんな私を気遣ってウルルが聞いてくれる。

『ジリクはなんで、そこまで驚いているの?』
「私がライラに今まで言わなかったのは、成功者がほとんどいなかったからだ。何人か契約獣の主に相談してみたら、まず魔法を使う状態にもならなかったらしい」

 どうやらジリクとしては、今まで私が悩んでいることを知っていたようだ。
 そして力を得る方法を調べてくれて、ほとんどの契約者が無理な方法を知る。
 不安そうな私を見てその方法を話してしまうけど、失敗して更に落ち込むことを心配してくれたようだ。

「魔力が減った時点で、成功する可能性はある。これからも試していこう」
「はい。ウルルのためなら、私はどんなことでもできそう!」

 ジリクのお陰で、私は少しだけ自信が持てる。
 これからも一緒に、ウルルの力になろうと決意していた。
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