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1巻
1-3
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ここ数週間で、ジリクは学園でもかなり目立つ存在になっていた。
それはディアスに婚約破棄された私の新しい婚約者ということもあるけど、別の理由もあった。
「先日行われた全学年共通試験の結果はもうご覧になられましたか? 実はありがたいことに、私が一位をとらせていただきまして。ここにいる皆様の誰よりも良い成績を記録することとなりました。落ちこぼれと呼ばれていた私が、なぜ突然こんなに素晴らしい結果を残すことができたか。実は、なにを隠そうライラさまの契約獣のウルルと一緒に遊んでいただけで、皆様を超える実力を得てしまったのです」
――らしくもなく流暢にまくしたてるジリク。商人みたいな言い回しだけど、なにか本の影響でも受けたのだろうか。
「はぁ? あの白狼と、それもただ遊ぶだけ? そんなことで成績が上がったと言うのか!?」
それは、ジリクと婚約して起きた一番の変化だった。
ジリクは遊んでいただけと言ったけど、正確には少し違う。
婚約してすぐ、ジリクの提案で、私たちはウルルに魔法を教えてもらうことにした。
教えてもらうといっても、ただウルルの前で魔法を使うだけだ。
魔獣は魔力をもつだけでなく、魔法を使うことができる。
ウルルはかなり魔法の扱いがうまいようで、私たちが使う魔法を見て、アドバイスをしてくれる。
そのアドバイス通りにするだけで、ジリクも私も魔法の実力がとてつもなく向上したのだ。
もはや「遊び」というより「授業」な気がするけど、ジリクは詳しく説明する気がないらしい。
「その通りです。特に魔法の扱いに関しては、高等部の生徒をしのぐほどだと先生方からお言葉をいただきました」
「ぐぅっ!?」
話を聞き、教室にいた生徒たちが唖然とする。
このところのジリクは成長著しく、もはや学園一と言っても過言ではないんじゃないかと思えるほど優秀な魔法士だ。
その理由がウルルにあると知って、教室にいる生徒たちから動揺の声があがる。
「共通試験で一位をとったジリク・ゾネット――その急成長の理由が、あの白狼? 信じられない……」
「信じられないとおっしゃられても、結果が出ているのですから、事実です。よろしければ、契約獣がもつ力について私が色々とお教えしましょうか?」
「け、結構です……」
ジリクは笑顔で話すけど、声をかけられた生徒は逃げるように教室から出ていく。
私もジリクと一緒にウルルから魔法について教わったことで、ジリクほどではないけれど、かなり成績があがった。
ジリクはもともと契約獣についての知識が豊富だから、ウルルの言葉から学べることが人一倍多いのだろう。
私としては、ウルルとジリクが楽しそうにしているだけでうれしかったのだけど、それがこんな意外な結果をもたらすなんて、思いもしなかった。
ディアスとメラナー、それに取り巻きたちは悔しそうに黙りこんでいて、そんな彼らをしり目に、私たちは食堂に向かった。
昼食を食べ終え、テーブル越しのジリクは、なんだか前より頼もしく見える気がした。
「ジリク、最近変わったね」
再会するまで、学園にいるのを遠くから見ていただけだけど、これまでのジリクは、あまり自分から人と話そうとはしていなかったように思う。
ほかの生徒たちから、ジリクの噂を聞いたことがある。
契約獣のことばかり考えている変人。
頭が悪いわけではないのに向上心がない、異質な人間だと周囲に認識されていた。
その評価がくつがえったのは、ここ最近のできごとだ。
ウルルから魔法を学ぶようになって、めきめき実力をつけた。もともと学ぶことが得意だったこともあって、ついに試験で一位までとって……そして、私とウルルの悪口を言う人を見つけては、声をかけるようになった。
いまや学園でも随一の実力者として認められたジリクが「私を導いたのはライラさまの契約獣ウルルです」と言えば、なにも言えなくなる。
魔法の実力がものを言う魔法学園だからこそだけど、ジリクは本来、そんなふうに自慢するようなことをしない。周囲の目なんて気にしなくていい、と言ったのはジリクだ。
そのジリクがわざわざそうやって言って回っているのは、きっと私のため。
おかげで、あれだけ居心地が悪かった学園生活も、今ではずいぶん過ごしやすくなった。
そのことを話すと、ジリクは動揺した様子で言った。
「あ、あの……迷惑だった?」
「えっ?」
婚約してから、ジリクは私に敬語を使わなくなった。
昔と同じ話し方のほうがいいと、私が提案したからだ。
問いかけの意味がわからず首をかしげると、ジリクは話を続ける。
「ライラのことを守りたかったんだ。けど、余計なことだったかもしれない。目立ちすぎて、逆にライラに迷惑をかけてしまったんじゃないか、って……」
ジリクの行動は、私を思ってのことだ。
誰にもなにも言わせないために、たくさん学んで、結果を出して……私が学園でいやな思いをしないようにしてくれている。
私のために動いてくれるのはうれしい。だけど、私はジリクのことが心配だ。
「迷惑なんかじゃない。だけど……ジリク、無理してない?」
「無理だと思ったことはない。ライラのために、できることをしたいんだ」
そう言ってまっすぐ私を見つめるジリクの瞳は強い決意に満ちていて、その言葉が本心からのものなのだと思わせてくれる。
「ジリク、昔よりずっと強くなったね」
「そうかな。それならよかった」
私も心からの本音を伝えると、ジリクは顔を赤くしてうなずいた。
あれから私は屋敷に戻り、部屋で今日一日のことを思い返す。
ここ最近はジリクの努力の甲斐あって、私とウルルに対する悪口は間違いなく減ってきた。
けれど、今度はジリクのほうに悪口や嫌がらせが向かないかが心配になる。
ジリクは私のためと言ってくれたけど、ジリクが困ることになったら、そのほうが辛い。
不安になりながらウルルに抱きつくと、ウルルが私に尋ねる。
『ライラ、今日はなにかあったのかい?』
まだなにも言ってないけれど、どうやらウルルにはお見通しらしい。
私の不安にすぐ気づいて心配してくれるウルル。
優しくて気遣いができる、こんなかわいいウルルがどうして怖がられなければいけないのだろう。
ウルルの白くてきれいな毛に指を滑らせながら、私はひとつ質問をしてみた。
「ねえウルル。いくらウルルに魔法を教わってるっていっても、ジリクの成長はすごすぎると思うの。……もしかして、なにかした?」
魔法の実力が急成長することは多々あるらしいけれど、それでもジリクの成長速度は異常だと、学園の先生が言っているのを聞いたことがある。
ウルルが魔法を教えてくれるおかげで、私の成績も伸びているけれど、ジリクの成長ぶりは契約獣に詳しいからだけでは説明できない気がしていた。
『それはね、ライラ――愛の力だよ』
「あ……愛?」
ウルルの突拍子もない答えに、私は思わずぱちぱちと目を瞬かせる。
そんな私を楽しそうに見つめながら、ウルルは話を続けた。
『そうとしか言いようがないよ。ジリクはライラの婚約者になれたことがよっぽどうれしかったんだね。「ライラを見下した人たちを見返したい。そのためにできることはなんだってする。たとえ王子でも、越えてみせる」って。すごい決意だったよ』
それはつまり……私に婚約破棄を言い渡したディアスよりも、自分のほうが上だと周囲に認識させようとしたのだろうか。
本当は、目立つことなんて好きじゃないはずなのに――
ジリクのことが、さらに愛おしくなる。
「……でも、ウルルの力もあるわよね?」
『それはそうだね、僕自身驚いてるよ。僕ってこんなにすごかったんだねえ』
えっへん、と胸を張る代わりに、ウルルはぱたんとしっぽを倒した。
数日が経ち、神獣選定の儀はもう二日後となっている。
神獣選定の儀は、神さまの声を聞いた司教さまが七人の候補者を神殿に集め、次の神獣を宣言するというもの。
司教さまは世界でも有数の魔法士で、特定の国ではなく魔法協会という組織に所属する、特別な身分の方のようだ。
神さまの意志を捏造することはできないから、神獣候補に選ばれるのに家柄や年齢は関係なく、誰の契約獣が神獣になったとしてもおかしくない。
そして――七人いるはずの神獣候補のうち、最後の一人はまだ決まっていなかった。
午前の授業が終わって、昼休み。
ジリクの教室へ向かおうと思って私が席を立つと、目の前にディアスたちがやってきた。
婚約破棄してから、今まで直接私にかかわろうとしてこなかったのに、なにかあったのだろうか?
困惑する私をよそに、ディアスが睨んでくる。
「ライラ。まだ、あの白狼との契約を破棄していないようだな」
「……どういう、ことですか?」
ジリクのおかげで周囲の悪口は消えたけど、ディアスの態度は変わらない。
なにが言いたいのかわからず尋ねると、ディアスはゆがんだ笑みを浮かべた。
「さっさとあの狼との契約を破棄しろ。あんな危険な獣はこの国にふさわしくない。契約破棄したあとはこの俺がじきじきに処分してやるから感謝するんだな!」
どうやらディアスは、まだウルルを怖がっているようだ。
私は絶対に契約を破棄したりしない。
いらだつ気持ちを抑えながら、私は冷静に言い返す。
「殿下はどうして、そんなにウルルを怖がるのですか? ウルルは誰にも危害を加えたりしません」
ウルルはこれまで誰かを襲ったことなんてないし、暴れたことだってない。
それなのに契約を破棄して処分しろ、なんてあまりにも強引で、理不尽すぎる。
ウルルが怖いから婚約破棄、というのはメラナーと婚約するための方便だと思っていたけど、こうなると本当にウルルのことを怖がっているみたい。
一体なにをそんなに恐れているのかはわからないけれど。
「ぐっ……神獣に選ばれた者は膨大な権力を得る! メラナーのペガサスが神獣となった暁には、必ずウルルを処分してやるぞ!!」
ディアスは結局私の質問に答えることはなく、まるで負け惜しみのようにそんなことを言い放った。
もしメラナーのペガサスが神獣に選ばれて、ディアスがウルルとの契約破棄を命令してきたら――私は身分を捨てて、この国を出ていこう。
ジリクなら、ほかの国の契約獣のことを学べる良い機会です! なんて言ってついてきてくれる気がする。
そんなことを考えていると――昼休みなのに、教室にクラス担任の教師がやってきて私を呼んだ。
「ライラさま、急ぎお伝えしなければならないことが……」
「なんですか?」
まだ昼休みになったばかりで、教室には生徒がたくさん残っている。
そんな中で先生は、衝撃の言葉を放った。
「先ほどライラさまの契約獣ウルルさまが神獣候補に選ばれたと、魔法協会から連絡がありました」
「なっ!? なんだと!?」
騒然となる教室で、一番驚いていたのはディアスだった。
ウルルが神獣候補に選ばれたという驚きの聞いて、私は困惑しながらも安堵する。
これでディアスがなにを言っても、神獣候補に選ばれたウルルを契約破棄させることはできない。
最悪の事態がなくなり、私はほっとしたけど、教室には戸惑いの声が響いていた。
これまでウルルにひどいことを言っていた人たちは、ウルルが神獣に選ばれたら……と戦々恐々としている様子だ。
私の前に立っていたディアスも唖然として、全身を震わせながら声をもらす。
「そ、そんな……もし、あの白狼が神獣に選ばれでもしたら……」
私との婚約破棄は、ディアスの意思で行ったものだ。
もしウルルが神獣に選ばれたら、どうして婚約破棄したのかと、ディアスが糾弾されるのは想像に難くない。
同じことを考えているのだろう、ディアスは真っ青になっている。
すると、メラナーがそばに近寄ってきた。
「落ち着いてください、ディアス殿下! ジェドフ国の象徴となる神獣ですよ? そんなの、私のペガサスが選ばれるに決まっているではありませんか!!」
「そ、そうだな!!」
メラナーに慰められて、ディアスは落ち着きを取り戻す。
そしてメラナーは、憐れみをこめた視線で私を見た。
「あんな白狼でも、それなりの力をもっていたようですわね。神獣候補に選ばれるだなんて、大変お見事ですわ……けれどそうなると、むしろみじめです。だって、国中の人々が注目する中で、私のペガサスに負けてしまうのですから」
まだ結果が決まったわけではないのに、メラナーはもう自分のペガサスが選ばれた気でいるようだ。
ウルルが明後日、神獣に選ばれるかはわからない。
だけど神獣候補になることは、それだけで誉れ高く、力を認められたということ。
それなら、たとえ神獣の契約者が命じようと、処分はもちろん契約破棄だってさせられないはず。
勝ち誇ったメラナーにムカついて、私は思ったことをそのまま口に出した。
「神獣の座なんて興味はありませんが、ウルルが神獣候補になったのなら、契約を破棄しろなんてひどいことを言われることはもうありませんね。うれしいです」
「え……いいえっ! 私のペガサスが神獣に選ばれれば、どうなるかわかりませんわよ!」
私が動じていないのが意外だったのか、メラナーは動揺している。
それをディアスが慰めている間に、私は教室を出た。
とにかく神獣候補に選ばれたことを、ウルルとジリクに伝えたい。
ウルルは屋敷に戻ってからになるので、まずはジリクだ。
放課後、帰りの馬車にはジリクが一緒に乗っていた。
ジリクに神獣候補のことを話しに行ったら、長くなりそうだから放課後にゆっくり話したい、と言われたのだ。
私の部屋は、ウルルの大きな体でも普通に動き回れるくらい広い。
背もたれのない椅子に座り、背中をウルルの全身に預ける。
部屋にいるときはだいたいこうしてウルルのもふもふした感触を楽しむのだけれど、ウルルも私によりかかられるのが好きみたいでうれしい。
今日は向かいの背もたれのある椅子に、ジリクが座っている。
昼休みの間に軽く報告はしたけど、これからが本題となる。
まず私は、ウルルになにがあったのかを伝えることにした。
「聞いて、ウルル。さっき学園で言われたのだけど、ウルルが神獣候補として選ばれたんですって! すごいわウルル!」
『そうなんだ。ライラがうれしいなら、それはよかったと思うけど……神獣って国を守る存在なんだっけ? 前にジリクから聞いた気がするけど、あまり覚えてないや』
手を伸ばしてウルルの毛を撫でると、ウルルは思いのほか無感動な様子だった。
どうやら、自分とは関係がないと思ってあまり興味がなかったらしい。
よく考えてみると、私も神獣というのが具体的になにをするのか、あまり知らないや。
「実は私もよくわからないのだけど……ジリクは知ってるのよね?」
「はい。それではご説明しましょう!」
私が尋ねると、ジリクは待ってましたと言わんばかりに話しはじめた。
ジリクは契約獣を調べる過程で神獣について知ったらしく、神獣についてもかなり詳しい。
あまり興味がなかった私とウルルとは対照的に、なんだか興奮している様子だ。
「ウルルは国と言ったけど、正確にはジェドフ国だけではなく、この大陸全土――ひいてはこの世界すべてを守るのが、神獣の役割なんだ。神獣というのは神さまによって選ばれる、神さまの代行者。魔界の侵略から人々を守るための存在と言われている」
世界には魔力を持った動物『魔獣』とは別に、人々を襲う『モンスター』がいる。
モンスターが人を襲うのは、魔界がこの世界を侵略しようとしているからだと言われている。
だけど、魔界の生き物は人の世界では生きられなくて、もともと魔獣だったのが魔界の瘴気にあてられてモンスターになる……という説もあるけど、本当のところはよくわかっていないらしい。
モンスターは強力で、目に余る被害が出る時は冒険者と呼ばれる人々が依頼を受けて狩ったりするけれど、すべてのモンスターをどうにかできるわけではない。
そこで、神獣の出番だ。
この世界の人々は、誰もが魂に魔力を宿している。
魔法としてその力を行使できると『あの人には魔力がある』なんて言うけど、正確には、魔法が使えなくても生きとし生けるすべての命には魔力があるのだ。
その魔力によって世界の安定が保たれているらしくて、その力を狙って、魔界はこの世界を侵略しようとするのだという。
神さまというのは、世界に宿る魔力が意志をもったものと言われていて、人々を魔界の侵略から守るために、人が従える契約獣に力を与える。
モンスターの力が弱まる空間『聖域』を作るために、世界そのものである神さまの力の一部を得た契約獣――それが、神獣と呼ばれるようだ。
魔界についてはこの世界と違う世界、というくらいしか、私とウルルは知らない。
だけど神獣候補として関与することになるなら知っておくべきだと思って、ジリクに聞いてみた。
「この世界って、人の世界と魔界の二つに分かれているんだっけ?」
初等部では、魔界についてあまり詳しく学ばないから、そんな簡単なことしかわからない。
けれどジリクは魔界についても自分でたくさん調べているみたい。
「そう。すべての生命は魔力をもって生まれ、その魔力が世界を安定させている。けれど魔界にはそれがないと言われているんだ。だから世界を安定させるための力を求めて、この世界を侵略しようとする。モンスターが人を襲うのは、魔力の源が魂にあるから」
「ちょっと、ジリク?」
「魔界から人々を守るために、人の世界に結界を張るのが神獣の役割。神獣が張った結界の中は『聖域』と化す。その中ではモンスターが弱体化するだけでなく、大地が富み、人々にとって暮らしやすい世界になるんだ!」
『盛り上がってるね』
魔界について軽く質問しただけなのに、ジリクは早口でまくしたてるように説明していく。
目をぱちぱちと瞬かせる私とウルルの様子に気づくと、ジリクはこほん、とひとつ咳払いしてから、少し落ち着いて話をまとめた。
「ま、まあ。魔界やそこに住む魔人とかかわることはさすがにないだろうから置いておくことにして……神さまはすごい力をもっている、というか力そのものが意志をもったものと言われている。だけど、直接世界になにかすることはできないから、その力の一部を契約獣に分け与える。そうして、世界を安定させるための作業を行う契約獣のことを、神獣と呼ぶんだ」
世界の核とされる魔力の塊、『神さま』の力は、人の肉体ではその一部すら扱うことができない。
けれど人と契約した魔獣、契約獣であれば、その力に耐えられるものもいる。
それだけの強さをもつ契約獣が、神獣候補として選ばれるのだ。
そして神獣選定の儀で力を与えられ、正式に神獣となる。
神獣になったら、世界を安定させるために役目を果たす必要があるようだ。
『とにかく明後日には、神とやらが自分の力を与えるべき存在、神獣を選ぶということだね』
「その通り」
大昔は、神獣という存在は珍しかったようだ。
魔法の技術が発達したこと、各国が協力して神獣選定の儀についてきちんとした決まりを作ったことで、七年という周期で神獣を選ぶことができるようになったらしい。
神獣を選び、神さまの力を与えるのは、魔法に長けた司教さまの役目。
司教さまは神さまの意志に従い、最も世界に貢献できる契約獣を選ぶ責務があるようで、契約獣を選ぶ時に、契約者の立場や地位は関係ない。
平民や、子供の契約獣が選ばれることもある。
『なんだか大変そうだけど……もし選ばれたら、ライラとジリクのために頑張るよ』
「候補に選ばれただけでも、ウルルは十分すごいわ。でも、神獣になったら私も頑張るからね!」
「ライラの言う通りだ。そこまで気にすることはないけど、ウルルなら神獣になってもおかしくないよ」
誰の契約獣が神獣に選ばれるのかは、明後日にならないとわからない。
ウルルが神獣になったら――一緒に頑張るしかないよね。
それはディアスに婚約破棄された私の新しい婚約者ということもあるけど、別の理由もあった。
「先日行われた全学年共通試験の結果はもうご覧になられましたか? 実はありがたいことに、私が一位をとらせていただきまして。ここにいる皆様の誰よりも良い成績を記録することとなりました。落ちこぼれと呼ばれていた私が、なぜ突然こんなに素晴らしい結果を残すことができたか。実は、なにを隠そうライラさまの契約獣のウルルと一緒に遊んでいただけで、皆様を超える実力を得てしまったのです」
――らしくもなく流暢にまくしたてるジリク。商人みたいな言い回しだけど、なにか本の影響でも受けたのだろうか。
「はぁ? あの白狼と、それもただ遊ぶだけ? そんなことで成績が上がったと言うのか!?」
それは、ジリクと婚約して起きた一番の変化だった。
ジリクは遊んでいただけと言ったけど、正確には少し違う。
婚約してすぐ、ジリクの提案で、私たちはウルルに魔法を教えてもらうことにした。
教えてもらうといっても、ただウルルの前で魔法を使うだけだ。
魔獣は魔力をもつだけでなく、魔法を使うことができる。
ウルルはかなり魔法の扱いがうまいようで、私たちが使う魔法を見て、アドバイスをしてくれる。
そのアドバイス通りにするだけで、ジリクも私も魔法の実力がとてつもなく向上したのだ。
もはや「遊び」というより「授業」な気がするけど、ジリクは詳しく説明する気がないらしい。
「その通りです。特に魔法の扱いに関しては、高等部の生徒をしのぐほどだと先生方からお言葉をいただきました」
「ぐぅっ!?」
話を聞き、教室にいた生徒たちが唖然とする。
このところのジリクは成長著しく、もはや学園一と言っても過言ではないんじゃないかと思えるほど優秀な魔法士だ。
その理由がウルルにあると知って、教室にいる生徒たちから動揺の声があがる。
「共通試験で一位をとったジリク・ゾネット――その急成長の理由が、あの白狼? 信じられない……」
「信じられないとおっしゃられても、結果が出ているのですから、事実です。よろしければ、契約獣がもつ力について私が色々とお教えしましょうか?」
「け、結構です……」
ジリクは笑顔で話すけど、声をかけられた生徒は逃げるように教室から出ていく。
私もジリクと一緒にウルルから魔法について教わったことで、ジリクほどではないけれど、かなり成績があがった。
ジリクはもともと契約獣についての知識が豊富だから、ウルルの言葉から学べることが人一倍多いのだろう。
私としては、ウルルとジリクが楽しそうにしているだけでうれしかったのだけど、それがこんな意外な結果をもたらすなんて、思いもしなかった。
ディアスとメラナー、それに取り巻きたちは悔しそうに黙りこんでいて、そんな彼らをしり目に、私たちは食堂に向かった。
昼食を食べ終え、テーブル越しのジリクは、なんだか前より頼もしく見える気がした。
「ジリク、最近変わったね」
再会するまで、学園にいるのを遠くから見ていただけだけど、これまでのジリクは、あまり自分から人と話そうとはしていなかったように思う。
ほかの生徒たちから、ジリクの噂を聞いたことがある。
契約獣のことばかり考えている変人。
頭が悪いわけではないのに向上心がない、異質な人間だと周囲に認識されていた。
その評価がくつがえったのは、ここ最近のできごとだ。
ウルルから魔法を学ぶようになって、めきめき実力をつけた。もともと学ぶことが得意だったこともあって、ついに試験で一位までとって……そして、私とウルルの悪口を言う人を見つけては、声をかけるようになった。
いまや学園でも随一の実力者として認められたジリクが「私を導いたのはライラさまの契約獣ウルルです」と言えば、なにも言えなくなる。
魔法の実力がものを言う魔法学園だからこそだけど、ジリクは本来、そんなふうに自慢するようなことをしない。周囲の目なんて気にしなくていい、と言ったのはジリクだ。
そのジリクがわざわざそうやって言って回っているのは、きっと私のため。
おかげで、あれだけ居心地が悪かった学園生活も、今ではずいぶん過ごしやすくなった。
そのことを話すと、ジリクは動揺した様子で言った。
「あ、あの……迷惑だった?」
「えっ?」
婚約してから、ジリクは私に敬語を使わなくなった。
昔と同じ話し方のほうがいいと、私が提案したからだ。
問いかけの意味がわからず首をかしげると、ジリクは話を続ける。
「ライラのことを守りたかったんだ。けど、余計なことだったかもしれない。目立ちすぎて、逆にライラに迷惑をかけてしまったんじゃないか、って……」
ジリクの行動は、私を思ってのことだ。
誰にもなにも言わせないために、たくさん学んで、結果を出して……私が学園でいやな思いをしないようにしてくれている。
私のために動いてくれるのはうれしい。だけど、私はジリクのことが心配だ。
「迷惑なんかじゃない。だけど……ジリク、無理してない?」
「無理だと思ったことはない。ライラのために、できることをしたいんだ」
そう言ってまっすぐ私を見つめるジリクの瞳は強い決意に満ちていて、その言葉が本心からのものなのだと思わせてくれる。
「ジリク、昔よりずっと強くなったね」
「そうかな。それならよかった」
私も心からの本音を伝えると、ジリクは顔を赤くしてうなずいた。
あれから私は屋敷に戻り、部屋で今日一日のことを思い返す。
ここ最近はジリクの努力の甲斐あって、私とウルルに対する悪口は間違いなく減ってきた。
けれど、今度はジリクのほうに悪口や嫌がらせが向かないかが心配になる。
ジリクは私のためと言ってくれたけど、ジリクが困ることになったら、そのほうが辛い。
不安になりながらウルルに抱きつくと、ウルルが私に尋ねる。
『ライラ、今日はなにかあったのかい?』
まだなにも言ってないけれど、どうやらウルルにはお見通しらしい。
私の不安にすぐ気づいて心配してくれるウルル。
優しくて気遣いができる、こんなかわいいウルルがどうして怖がられなければいけないのだろう。
ウルルの白くてきれいな毛に指を滑らせながら、私はひとつ質問をしてみた。
「ねえウルル。いくらウルルに魔法を教わってるっていっても、ジリクの成長はすごすぎると思うの。……もしかして、なにかした?」
魔法の実力が急成長することは多々あるらしいけれど、それでもジリクの成長速度は異常だと、学園の先生が言っているのを聞いたことがある。
ウルルが魔法を教えてくれるおかげで、私の成績も伸びているけれど、ジリクの成長ぶりは契約獣に詳しいからだけでは説明できない気がしていた。
『それはね、ライラ――愛の力だよ』
「あ……愛?」
ウルルの突拍子もない答えに、私は思わずぱちぱちと目を瞬かせる。
そんな私を楽しそうに見つめながら、ウルルは話を続けた。
『そうとしか言いようがないよ。ジリクはライラの婚約者になれたことがよっぽどうれしかったんだね。「ライラを見下した人たちを見返したい。そのためにできることはなんだってする。たとえ王子でも、越えてみせる」って。すごい決意だったよ』
それはつまり……私に婚約破棄を言い渡したディアスよりも、自分のほうが上だと周囲に認識させようとしたのだろうか。
本当は、目立つことなんて好きじゃないはずなのに――
ジリクのことが、さらに愛おしくなる。
「……でも、ウルルの力もあるわよね?」
『それはそうだね、僕自身驚いてるよ。僕ってこんなにすごかったんだねえ』
えっへん、と胸を張る代わりに、ウルルはぱたんとしっぽを倒した。
数日が経ち、神獣選定の儀はもう二日後となっている。
神獣選定の儀は、神さまの声を聞いた司教さまが七人の候補者を神殿に集め、次の神獣を宣言するというもの。
司教さまは世界でも有数の魔法士で、特定の国ではなく魔法協会という組織に所属する、特別な身分の方のようだ。
神さまの意志を捏造することはできないから、神獣候補に選ばれるのに家柄や年齢は関係なく、誰の契約獣が神獣になったとしてもおかしくない。
そして――七人いるはずの神獣候補のうち、最後の一人はまだ決まっていなかった。
午前の授業が終わって、昼休み。
ジリクの教室へ向かおうと思って私が席を立つと、目の前にディアスたちがやってきた。
婚約破棄してから、今まで直接私にかかわろうとしてこなかったのに、なにかあったのだろうか?
困惑する私をよそに、ディアスが睨んでくる。
「ライラ。まだ、あの白狼との契約を破棄していないようだな」
「……どういう、ことですか?」
ジリクのおかげで周囲の悪口は消えたけど、ディアスの態度は変わらない。
なにが言いたいのかわからず尋ねると、ディアスはゆがんだ笑みを浮かべた。
「さっさとあの狼との契約を破棄しろ。あんな危険な獣はこの国にふさわしくない。契約破棄したあとはこの俺がじきじきに処分してやるから感謝するんだな!」
どうやらディアスは、まだウルルを怖がっているようだ。
私は絶対に契約を破棄したりしない。
いらだつ気持ちを抑えながら、私は冷静に言い返す。
「殿下はどうして、そんなにウルルを怖がるのですか? ウルルは誰にも危害を加えたりしません」
ウルルはこれまで誰かを襲ったことなんてないし、暴れたことだってない。
それなのに契約を破棄して処分しろ、なんてあまりにも強引で、理不尽すぎる。
ウルルが怖いから婚約破棄、というのはメラナーと婚約するための方便だと思っていたけど、こうなると本当にウルルのことを怖がっているみたい。
一体なにをそんなに恐れているのかはわからないけれど。
「ぐっ……神獣に選ばれた者は膨大な権力を得る! メラナーのペガサスが神獣となった暁には、必ずウルルを処分してやるぞ!!」
ディアスは結局私の質問に答えることはなく、まるで負け惜しみのようにそんなことを言い放った。
もしメラナーのペガサスが神獣に選ばれて、ディアスがウルルとの契約破棄を命令してきたら――私は身分を捨てて、この国を出ていこう。
ジリクなら、ほかの国の契約獣のことを学べる良い機会です! なんて言ってついてきてくれる気がする。
そんなことを考えていると――昼休みなのに、教室にクラス担任の教師がやってきて私を呼んだ。
「ライラさま、急ぎお伝えしなければならないことが……」
「なんですか?」
まだ昼休みになったばかりで、教室には生徒がたくさん残っている。
そんな中で先生は、衝撃の言葉を放った。
「先ほどライラさまの契約獣ウルルさまが神獣候補に選ばれたと、魔法協会から連絡がありました」
「なっ!? なんだと!?」
騒然となる教室で、一番驚いていたのはディアスだった。
ウルルが神獣候補に選ばれたという驚きの聞いて、私は困惑しながらも安堵する。
これでディアスがなにを言っても、神獣候補に選ばれたウルルを契約破棄させることはできない。
最悪の事態がなくなり、私はほっとしたけど、教室には戸惑いの声が響いていた。
これまでウルルにひどいことを言っていた人たちは、ウルルが神獣に選ばれたら……と戦々恐々としている様子だ。
私の前に立っていたディアスも唖然として、全身を震わせながら声をもらす。
「そ、そんな……もし、あの白狼が神獣に選ばれでもしたら……」
私との婚約破棄は、ディアスの意思で行ったものだ。
もしウルルが神獣に選ばれたら、どうして婚約破棄したのかと、ディアスが糾弾されるのは想像に難くない。
同じことを考えているのだろう、ディアスは真っ青になっている。
すると、メラナーがそばに近寄ってきた。
「落ち着いてください、ディアス殿下! ジェドフ国の象徴となる神獣ですよ? そんなの、私のペガサスが選ばれるに決まっているではありませんか!!」
「そ、そうだな!!」
メラナーに慰められて、ディアスは落ち着きを取り戻す。
そしてメラナーは、憐れみをこめた視線で私を見た。
「あんな白狼でも、それなりの力をもっていたようですわね。神獣候補に選ばれるだなんて、大変お見事ですわ……けれどそうなると、むしろみじめです。だって、国中の人々が注目する中で、私のペガサスに負けてしまうのですから」
まだ結果が決まったわけではないのに、メラナーはもう自分のペガサスが選ばれた気でいるようだ。
ウルルが明後日、神獣に選ばれるかはわからない。
だけど神獣候補になることは、それだけで誉れ高く、力を認められたということ。
それなら、たとえ神獣の契約者が命じようと、処分はもちろん契約破棄だってさせられないはず。
勝ち誇ったメラナーにムカついて、私は思ったことをそのまま口に出した。
「神獣の座なんて興味はありませんが、ウルルが神獣候補になったのなら、契約を破棄しろなんてひどいことを言われることはもうありませんね。うれしいです」
「え……いいえっ! 私のペガサスが神獣に選ばれれば、どうなるかわかりませんわよ!」
私が動じていないのが意外だったのか、メラナーは動揺している。
それをディアスが慰めている間に、私は教室を出た。
とにかく神獣候補に選ばれたことを、ウルルとジリクに伝えたい。
ウルルは屋敷に戻ってからになるので、まずはジリクだ。
放課後、帰りの馬車にはジリクが一緒に乗っていた。
ジリクに神獣候補のことを話しに行ったら、長くなりそうだから放課後にゆっくり話したい、と言われたのだ。
私の部屋は、ウルルの大きな体でも普通に動き回れるくらい広い。
背もたれのない椅子に座り、背中をウルルの全身に預ける。
部屋にいるときはだいたいこうしてウルルのもふもふした感触を楽しむのだけれど、ウルルも私によりかかられるのが好きみたいでうれしい。
今日は向かいの背もたれのある椅子に、ジリクが座っている。
昼休みの間に軽く報告はしたけど、これからが本題となる。
まず私は、ウルルになにがあったのかを伝えることにした。
「聞いて、ウルル。さっき学園で言われたのだけど、ウルルが神獣候補として選ばれたんですって! すごいわウルル!」
『そうなんだ。ライラがうれしいなら、それはよかったと思うけど……神獣って国を守る存在なんだっけ? 前にジリクから聞いた気がするけど、あまり覚えてないや』
手を伸ばしてウルルの毛を撫でると、ウルルは思いのほか無感動な様子だった。
どうやら、自分とは関係がないと思ってあまり興味がなかったらしい。
よく考えてみると、私も神獣というのが具体的になにをするのか、あまり知らないや。
「実は私もよくわからないのだけど……ジリクは知ってるのよね?」
「はい。それではご説明しましょう!」
私が尋ねると、ジリクは待ってましたと言わんばかりに話しはじめた。
ジリクは契約獣を調べる過程で神獣について知ったらしく、神獣についてもかなり詳しい。
あまり興味がなかった私とウルルとは対照的に、なんだか興奮している様子だ。
「ウルルは国と言ったけど、正確にはジェドフ国だけではなく、この大陸全土――ひいてはこの世界すべてを守るのが、神獣の役割なんだ。神獣というのは神さまによって選ばれる、神さまの代行者。魔界の侵略から人々を守るための存在と言われている」
世界には魔力を持った動物『魔獣』とは別に、人々を襲う『モンスター』がいる。
モンスターが人を襲うのは、魔界がこの世界を侵略しようとしているからだと言われている。
だけど、魔界の生き物は人の世界では生きられなくて、もともと魔獣だったのが魔界の瘴気にあてられてモンスターになる……という説もあるけど、本当のところはよくわかっていないらしい。
モンスターは強力で、目に余る被害が出る時は冒険者と呼ばれる人々が依頼を受けて狩ったりするけれど、すべてのモンスターをどうにかできるわけではない。
そこで、神獣の出番だ。
この世界の人々は、誰もが魂に魔力を宿している。
魔法としてその力を行使できると『あの人には魔力がある』なんて言うけど、正確には、魔法が使えなくても生きとし生けるすべての命には魔力があるのだ。
その魔力によって世界の安定が保たれているらしくて、その力を狙って、魔界はこの世界を侵略しようとするのだという。
神さまというのは、世界に宿る魔力が意志をもったものと言われていて、人々を魔界の侵略から守るために、人が従える契約獣に力を与える。
モンスターの力が弱まる空間『聖域』を作るために、世界そのものである神さまの力の一部を得た契約獣――それが、神獣と呼ばれるようだ。
魔界についてはこの世界と違う世界、というくらいしか、私とウルルは知らない。
だけど神獣候補として関与することになるなら知っておくべきだと思って、ジリクに聞いてみた。
「この世界って、人の世界と魔界の二つに分かれているんだっけ?」
初等部では、魔界についてあまり詳しく学ばないから、そんな簡単なことしかわからない。
けれどジリクは魔界についても自分でたくさん調べているみたい。
「そう。すべての生命は魔力をもって生まれ、その魔力が世界を安定させている。けれど魔界にはそれがないと言われているんだ。だから世界を安定させるための力を求めて、この世界を侵略しようとする。モンスターが人を襲うのは、魔力の源が魂にあるから」
「ちょっと、ジリク?」
「魔界から人々を守るために、人の世界に結界を張るのが神獣の役割。神獣が張った結界の中は『聖域』と化す。その中ではモンスターが弱体化するだけでなく、大地が富み、人々にとって暮らしやすい世界になるんだ!」
『盛り上がってるね』
魔界について軽く質問しただけなのに、ジリクは早口でまくしたてるように説明していく。
目をぱちぱちと瞬かせる私とウルルの様子に気づくと、ジリクはこほん、とひとつ咳払いしてから、少し落ち着いて話をまとめた。
「ま、まあ。魔界やそこに住む魔人とかかわることはさすがにないだろうから置いておくことにして……神さまはすごい力をもっている、というか力そのものが意志をもったものと言われている。だけど、直接世界になにかすることはできないから、その力の一部を契約獣に分け与える。そうして、世界を安定させるための作業を行う契約獣のことを、神獣と呼ぶんだ」
世界の核とされる魔力の塊、『神さま』の力は、人の肉体ではその一部すら扱うことができない。
けれど人と契約した魔獣、契約獣であれば、その力に耐えられるものもいる。
それだけの強さをもつ契約獣が、神獣候補として選ばれるのだ。
そして神獣選定の儀で力を与えられ、正式に神獣となる。
神獣になったら、世界を安定させるために役目を果たす必要があるようだ。
『とにかく明後日には、神とやらが自分の力を与えるべき存在、神獣を選ぶということだね』
「その通り」
大昔は、神獣という存在は珍しかったようだ。
魔法の技術が発達したこと、各国が協力して神獣選定の儀についてきちんとした決まりを作ったことで、七年という周期で神獣を選ぶことができるようになったらしい。
神獣を選び、神さまの力を与えるのは、魔法に長けた司教さまの役目。
司教さまは神さまの意志に従い、最も世界に貢献できる契約獣を選ぶ責務があるようで、契約獣を選ぶ時に、契約者の立場や地位は関係ない。
平民や、子供の契約獣が選ばれることもある。
『なんだか大変そうだけど……もし選ばれたら、ライラとジリクのために頑張るよ』
「候補に選ばれただけでも、ウルルは十分すごいわ。でも、神獣になったら私も頑張るからね!」
「ライラの言う通りだ。そこまで気にすることはないけど、ウルルなら神獣になってもおかしくないよ」
誰の契約獣が神獣に選ばれるのかは、明後日にならないとわからない。
ウルルが神獣になったら――一緒に頑張るしかないよね。
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