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2話

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「お姉様が犠牲になってくれて助かりました」

 ゴルドーの屋敷を出て帰宅した後、夕食の時間に妹ギーナがそんなことを言い出す。

 ギーナは短い銀髪で小柄だから黙っていれば可愛いけど、これからも黙ることはなさそうだ。

 発言を聞きお父様は苛立ち、娘でも叱りたくないお母様は申し訳なさそうにしている。

 私が返答する前に、お父様がギーナを睨んだ。

「ギーナよ。もしお前がこれから問題を起こせば、全てロルアド侯爵家が責任を負い、お前はこの家から勘当となる。それは婚約者を変えた際に結んだ契約だ」

「しつこいですね……それは何度も聞きました。こんな家より、ゴルドー様なら私の行動を認めてくれるに決まっています!」

「考えを改める気がない辺り、契約を結んだことは間違いではなかったと確信できるな」

 お父様はギーナに呆れているというより、もう限界だからゴルドーのロルアド侯爵家に全て任せたのでしょう。

 これは仕方ないと思うし、ゴルドー側も納得しているからお互いよかったはず。

 そしてお母様が、私を心配するように眺めて。

「今はケイトの方が心配よ。これから婚約するアリオス様は、危険な場所に婚約者を同行させる人と聞いています」

 相手が公爵家で婚約を申し込まれたから、即座に断ることはできない。

 悪い噂が合ってもしばらくは婚約者となるけど、ギーナはそれが嫌で私から婚約者を奪ったようだ。

 危険な目に合わせるという噂だけど、私は大丈夫な気がする。

「それでも今まで婚約した人達は無事に戻っていますし、魔法学園で問題を起こしていないアリオス様なら大丈夫だと思っています」

「問題ばかり起こすギーナは論外だが、ケイトは危機感がなさすぎる……ギーナよりはよいがな」

 心配してくれたお母様を安堵させたけど、お父様には危機感がないと言われてしまう。

 今まで大丈夫だから気にし過ぎな気がするけど、ギーナとしてはお父様の発言が気に入らなかったようだ。

「お父様はお姉様を溺愛しすぎですね。私よりいいわけないでしょう」

「お前……まあよい、私が何を言っても変わることがないののはわかったから、これからは全てゴルドー様に任せよう」

 契約は問題を起こしたらという条件はあるけど、ギーナがこれから何も行動しないわけがない。

 もう勘当されることは確定しているようなもので、止めるのはもうお父様ではなくゴルドー達がすることだ。

 ようやく私はギーナが問題を起こさないか、毎日不安になって苦しんでいる日々から解放されそう。

 その日を楽しみにしてしまうと、ギーナが私に銀色の腕輪を見せつけて。

「お姉様がくれたこの腕輪は飽きたし捨てようと思ったけど、ゴルドー様とお揃いになるのならまだ着けててあげるわ」

「そう……私があげたものだから、ギーナの好きににしなさい」

 私は金属魔法が得意で、ギーナには魔法で腕輪を作ったことがある。

 誕生日も迫っていたから言われた通りに作ったけど、その後に腕輪とは別のプレゼントを要求したのには驚いたものだ。

 ギーナいわく「金属魔法の特訓の一種で、お姉様が作った腕輪如きにプレゼントとして価値があるわけない」らしい。

 その後にギーナが着けていたから欲しがったゴルドーの分も作ったけど、お揃いの腕輪で婚約者同士ならお似合いでしょう。

 思い出もロクなものがなかったから、これから勘当することになっても別にいいわね。

 ギーナは魔法学園の成績がいいから問題を起こしても学園側が庇っているけど、庇わなくなれば没落までいくかもしれない程に問題を起こしている。

 魔法学園で好成績だとしても、ギーナはアリオス様の噂を聞き危険な目に合いたくはなかったのでしょう。

 助けを求めてゴルドーと婚約したいと頼み込んだのがよくわかり、ギーナは嬉しそうに話しかけてくる。

「お姉様は明日、婚約者を酷い目に合せるアリオス様とデートでしょう。可哀想だけど仕方ないわよね」

「可哀想かは実際に会わないとわからないでしょう。クラスメイトで話したことがなかったから、楽しみでもあるわ」

「この危機感の無さは羨ましいわね。案外アリオス様とお似合いだったりして」

 今まで話したことのないクラスメイトの異性と、休日に会って行動を一緒にできる。

 ゴルドーもクラスメイトだけど、婚約者だったのに出会ってから今までデートすらしたことがなかった。
 
 どうやら私のことはどうでもよかったみたいで、私の妹ギーナとよく会っていたことは本人から聞いていた。

 それでも婚約者だから異性と行動することは控えていたけど、明日はアリオス様と楽しい1日を過ごせそう。

 ゴルドーと婚約破棄したばかりだけど、今の私は明日が楽しみになっていた。
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