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「君の妹を好きになってしまったから、婚約者を変えるとしよう」

 伯爵令嬢の私ケイトは婚約者ゴルドーの屋敷に呼び出され、部屋まで来ていた。

 短い金髪で男性の中では小柄なゴルドーは、背が私と同じだから蔑むような笑みがよく見える。

 話したいことがあると聞いていたけど、部屋に入ってすぐに婚約者を私の妹ギーナに変えると言い出したのは向けられた顔と合わせて不愉快でしかない。

 対面している侯爵令息のゴルドーの方が伯爵令嬢の私より立場は上だけど、こんなことが許されるのだろうか?

 ゴルドーの隣にはこれから義母となるはずだったマリダがいて、尋ねておきたいことがある。

「それって、ギーナがアリオス様と婚約したくなかったからですか?」

「きっかけにはなったな。ギーナはアリオス様の妻よりも、俺の妻になりたいと確信したようだ」

 やはりそうか。
 ギーナは悪い噂のあるアリオス様と婚約することが決まったけど、私の婚約者ゴルドーの方がマシと考えて迫ることで奪ったようだ。

 婚約者を変えようとしているのは事前にお父様から聞いていたけど、実際に婚約者のゴルドーから言われるまで信じられなかった。

 ショックだったし呆れてしまうと、ゴルドーの母マリダが私を睨む。

「ギーナは魔法学園の1年生でケイトやゴルドーとは2歳下だけど、成績的に3年生のケイトより優れているのは間違いないでしょう。私もゴルドーに賛成しているわ」

「そうですか……マリダ様、最後にゴルドー様と話をさせてください」

「説得したいようだけど、貴方如きが何を言ってもゴルドーの気が変わることはないでしょう」

 マリダはそう言いながら部屋から出て行くけど、私はゴルドーに確認しておきたいことがある。

 どうせ私の発言をマリダは信じないだろうから、ゴルドーと2人きりで話しておきたい。

「母上を部屋から追い出して、ケイトは俺に何を言うつもりなんだ?」

「……あの、ゴルドー様は、本当にギーナでいいんですか?」

「当然だ。ケイトは何を言っている?」

「こういうこと言いたくないんですけど、ギーナは何人もの男性と婚約が決まってもすぐ取り消されてしまう妹です。ここ最近お父様はギーナがこれ以上問題を起こした場合、家族の縁を切ると言っていました」

 ギーナは魔法学園に入学して数ヶ月が経ち、魔法の実力はあるけどかなり問題を起こしている。

 今回もそうだ。
 公爵令息のアリオス様と婚約することになったけど、ギーナは嫌だったから私を身代わりにしたいのでしょう。

 今回の件でお父様はかなり怒り、ゴルドーから婚約破棄されてギーナを返されないよう侯爵家と契約を結んでいる。

 もしギーナがこれから問題を起こした場合は家族の縁を切るようで、全てゴルドーの侯爵家が責任を負うことになったようだ。
 
 その契約を出されてもゴルドーは家族を説得したようで、ギーナの魔法士としての実力から私よりいい相手だと確信しているようだ。

「ゴルドー様がお父様と結んだ契約も聞いていますけど、ギーナが起こした問題をゴルドー様は知っているはずです。これから問題が起きれば、責任はゴルドー様のロルアド侯爵がとるみたいですね」

「わかっている! ギーナが問題を起こすのは姉の貴様が舐められているせいだ。俺と婚約すれば愛する者に相応しくなろうと頑張るに決まっている!」

 そんなギーナは想像できないけど、愛があるのなら大丈夫かな。

「自信満々ですね。ゴルドー様の考えが変わることはなさそうですし、私はアリオス様の元に行くことにします」

「お前はギーナの悪口を言ったが、アリオスも婚約者を変えてばかりだ……アリオスの奴は婚約者を危険な目に合わせる最低な奴だから、嫌になれば別れて俺の元に帰ってこい!」

 自分の都合で婚約者を変える方が最低だと思うけど、言わないでおこう。

 アリオス様と私は魔法学園では同じクラスで、評判を聞いたことがある。

 確かにゴルドーの言った通り婚約者を危険な目に合わせるようだけど、実際に会ってみないと判断はできない。

 今日と明日は魔法学園が休日で、私は明日アリオス様と会うことになっている。

 どうやらアリオス様は婚約が嫌なら破棄して構わない人のようで、だからこそ公爵家でも婚約者がいないようだ。

「アリオス様と婚約するのかは会ってから決めますけど、ゴルドー様の元に戻ることは絶対にありえません」

 これで婚約者としては最後の会話になりそうだから、本心を伝えておこう。

 ようやく妹ギーナから解放されそうなのに、私がゴルドーの元に行くわけがない。

 契約もあって妹と元婚約者がこれからどんな目に合っても構わないし、私としては2度と関わりたくなかった。
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