聖女を愛する貴方とは一緒にいられません

黒木 楓

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10話

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 私がザロクと離婚してから、数日が経っている。
 浮気を公表するための準備ができたから、早朝に実家であるバムリザ伯爵家の屋敷に来ていた。

 昼からはザロクの浮気が書かれた紙を撒く予定で、その前に家族と会っておきたい。
 翌日にはドラゴンの姿で城に乗り込むから、実家に行くタイミングは今日に決めていた。

 私は屋敷の外にいた使用人に戻って来たことを話すと、その後はて父と屋敷の前で対面する。
 母はいないようで使用人が全員集まっているのは、私を警戒しているからか。
 これは好都合で、目の前の父は明らかに怒っていた。

「リラよ! ザロク様の屋敷を消し飛ばしたというのは本当か!」
「本当です。私より聖女を愛していたのですから当然でしょう」

 そう言って私は、一枚の紙を父に見せる。
 紙にはザロクと聖女レミルがキスをしている写真が掲載されて、文字でその詳細が書かれている。
 写真付きの紙はこの世界だと珍しく、更にその内容に父は驚愕した。

「なんだ、これは……」
「浮気されたと知り、今まで準備してきました。昼からこれを様々な場所でばら撒きます」
「馬鹿な!? そんなことをすればこの家はどうなると思っている!?」

 私の発言に父が取り乱すけど、言いたいことがある。

「去年お父様が屋敷に来て、私はザロクが聖女と浮気していると話しましたよね」
「それは仕方ないことだと言っただろう! おい、結婚指輪はどうした!?」
「屋敷を消し飛ばした際に離婚しています。もうザロクとは無関係です」

 私が龍化して屋敷を消し飛ばしたことは知っているみたいだけど、離婚は知らないのか。
 ハロルドが調べてくれたから、ザロクが聖女の騎士として城に住むことにしたと知っている。
 そして私が屋敷を消し飛ばしたことは一部の人しか知らないみたいで、父は知っている人のようだ。

 離婚したと知ったのが今なら、数日間に父はザロクと会っていない。
 私の発言を聞き、激昂した父が叫ぶ。

「お前如きが公爵家のザロク様と結婚できたのは奇跡だというのに……今すぐ謝罪して再婚したいと頼んでこい!」
「嫌に決まっています。お父様は私が虐げられていたことを知らないのですか?」
「それはザロク様から聞いた。公爵家の命令ならなんでも聞けばよい!」

 使用人に命令して私を虐げていたザロクだから、家族に報告してもおかしくはない。
 もう話す気がなくなり、本題に入るとしよう。

「それが嫌だから屋敷を消し飛ばしたのでしょう。今日は家族の縁を切るために来ました」
「……なに?」
「私はもうバムリザ伯爵家の人間ではなく平民として生きます。何か言われたらそう話してください」

 そう言いながら、私は一枚の紙を父に渡す。
 魔力を籠めることで本人の証明ができる紙の魔道具で、父が手続きをすれば私を勘当できる。
 それをどうするかは父の勝手だけど、これだけはやっておきたかった。

 紙を受け取った父は全身を震わせて、私を睨んでくる。

「……そうか。お前はもう、バムリザ伯爵家とは無関係でよいのだな?」
「はい。それで構いません」
「ならば後悔させてやる!!」

 そう言って父が懐から杖を抜き、私に向かって炎の魔法を繰り出す。
 私の父と母は、炎を扱う国内で有名な魔法士だ。

 恐らくザロクの屋敷を消し飛ばしたと聞き、私が戻ってきたら態度次第では消すつもりだったようだ。
 父と母は漫画でもザロクと聖女に協力し、私を討伐するため行動していたから驚くことではない。

「漫画の時は「娘の不詳は親が許さない」とか言ってましたけど、公爵家のザロクに逆らえないだけでしたね」
「最期の言葉が意味不明だな!」
「最期ではありません」

 家族の狙いは推測できて、屋敷に被害が出ないよう外で会っている。
 いきなり家族の父が攻撃すれば、動揺して私は龍化できずやられてしまう。
 そんな考えで魔法による攻撃に出ていそうだけど、私は想定していた。

「馬鹿な!?」

 父が驚愕して叫んだのは、私が腕を龍化させて炎魔法を受け止めたからだ。
 更に翼を生やすことで、潜伏して背後を狙った母の炎魔法を防いでいる。

「二人は炎魔法を得意としていて、その縁で結ばれたみたいですね」

 受け止めたことで、全身に炎を纏っているような見た目だ。
 娘の私にも炎魔法の適性があり、それは龍化によって強化されている。
 受け止めた父と母の炎魔法を私の魔力で強化し、屋敷に向けて跳ね返した。

 二人の炎を合わせることで強大な火球が完成し、直撃することで轟音が起こる。
 屋敷が崩壊して騒ぎになるけど、使用人は外にいたから問題ない。

「貴方達の行動は予測できました」

 前世で読んだ漫画の設定通りだからだけど、そこまで話す気はない。
 家族が魔法を使い消そうとしてきた場合、私は反撃すると決めていた。
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