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2章
53話
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放課後になって、レックス殿下はすぐに教室を出ていた。
用事があると言っていたけど、急いでいるのか詳しくは話していない。
ロイも同行しているのが気になったし、明日にでも聞くことにしよう。
ラギルは教室を去って行く辺り、グループに入ってもそこまで関わろうとしていない。
それでも今日の件はエドガーに報告するべきと考えていそうで、嬉しそうに教室を出ていた。
私はグループを離れてしまったルートと話がしたいと考えていると……そのルートが、私に声をかけてくれる。
「リリアン様、馬車までお送りします」
「……ええ。ルートとは少し、話をしておきたいと思っていました」
いつもはレックス殿下が馬車まで送ってくれるけど、今はいない。
私を第一に行動するようレックス殿下に言われていたのを、ルートは真面目に聞いている。
カレンと話がしたい時は拒むけど、ルートと二人で話せそうだ。
◇◆◇
馬車が来る場所までルートと向かっている中、私は気になっていたことを尋ねる。
「ルート様、最近大丈夫ですか?」
「大丈夫とは、なにがでしょうか?」
ダンジョン探索の出来事を聞いた時、ルートはショックを受けている様子だった。
今は普通な辺り、立ち直るのが早くなっているのかもしれない。
「確か……滝行とか誰も使えない自分だけの剣技を編み出そうとかしていますよね」
「剣技の取得は話していないはずですけど……知っていたのですか」
――しまった。
ルートの迷走イベントで記憶に残っているから、それを口にしてしまった。
滝行は聞いた気がするけど、剣技のことは言っていなかったかもしれない。
「えっと、聞いたような気がします」
ルートも「はず」と言っているのだから、強引に誤魔化そう。
もう恥ずかしい記憶なのか、ルートは顔を赤くして目を逸らす。
「わ、忘れてください……あの時の私は、気が動転していました」
「そうですか……ルートは十分強いですし、そこまで気に病まなくてもいいと思います」
「リリアン様。ありがとうございます……ですが、私はレックス殿下の護衛です」
護衛対象より強くあるべきだと考えていそうだから、ショックを受けてしまうのでしょう。
真面目なルートらしく、私は言いたいことを伝える。
「レックス殿下より強くなくとも、護衛としての役目は果たせますよ」
今のルートはレックス殿下より強くないのは事実だけど、護衛失格とはならない。
敵の規模が大きいのもあるけど、傍で味方として動いてくれるだけで十分過ぎる。
そのことを私が伝えると、ルートは感激した様子で微笑みを浮かべていた。
「リリアン様……ありがとうございます」
「気にしないでください。それでは、帰りますね」
これで、ルートが気に病むことはなくなるはず。
そう考えていたけど……馬車に乗ろうとした時、ルートが頭を下げる。
「えっ?」
「リリアン様……もし可能であれば、私の修行に同行してくれませんか?」
「修行ですか?」
真剣な表情で話すルートを見て、何かを思い出しそうになる。
熱意に溢れている目を向けられて動揺すると、話を始めていた。
「レックス殿下、そしてリリアン様を守るためにも私は強くなりたい……様々な修行を閃いているので、可能であれば付き合って欲しいです」
「えっと……」
閃いているって、自分で考えたということか。
相変わらず迷走は継続しているけど、それより重要なことがある。
「リリアン様の魔法の発想は素晴らしく、新たな発見があるかもしれません」
この無茶苦茶な感じと強引さ。
私がレックス殿下の婚約者と知りながらも、この行動力。
これは――ゲームでのルートを攻略する際のイベントに似ていると、私は思い出すことができた。
「そうですね……レックス殿下と相談してから、決めますね」
「はい。レックス殿下の許可を得るのは当然のことだと思っております」
私は思わずレックス殿下の名前を口にして、この場でルートと約束しない。
その後、私は馬車に乗ってルートと別れ……キャビンで一人呟く。
「まさかルートのイベントが、私に対して発生するなんて……」
私は主役カレンではないし、レックス殿下の婚約者なのに起きている。
レックス殿下を慕っているルートがこんな行動を起こすのは、ゲームの力なのだろうか?
夏休みを経て私達との力の差を感じ、ルートは迷走している。
ラギルが登場したことで、ダンジョン探索のグループから外れて更に不安になっていた。
その結果ゲームのイベントが発生したことが、どうしても気になってしまう。
とにかくレックス殿下と話をして――ルートの修行に付き合うしかなさそうだ。
用事があると言っていたけど、急いでいるのか詳しくは話していない。
ロイも同行しているのが気になったし、明日にでも聞くことにしよう。
ラギルは教室を去って行く辺り、グループに入ってもそこまで関わろうとしていない。
それでも今日の件はエドガーに報告するべきと考えていそうで、嬉しそうに教室を出ていた。
私はグループを離れてしまったルートと話がしたいと考えていると……そのルートが、私に声をかけてくれる。
「リリアン様、馬車までお送りします」
「……ええ。ルートとは少し、話をしておきたいと思っていました」
いつもはレックス殿下が馬車まで送ってくれるけど、今はいない。
私を第一に行動するようレックス殿下に言われていたのを、ルートは真面目に聞いている。
カレンと話がしたい時は拒むけど、ルートと二人で話せそうだ。
◇◆◇
馬車が来る場所までルートと向かっている中、私は気になっていたことを尋ねる。
「ルート様、最近大丈夫ですか?」
「大丈夫とは、なにがでしょうか?」
ダンジョン探索の出来事を聞いた時、ルートはショックを受けている様子だった。
今は普通な辺り、立ち直るのが早くなっているのかもしれない。
「確か……滝行とか誰も使えない自分だけの剣技を編み出そうとかしていますよね」
「剣技の取得は話していないはずですけど……知っていたのですか」
――しまった。
ルートの迷走イベントで記憶に残っているから、それを口にしてしまった。
滝行は聞いた気がするけど、剣技のことは言っていなかったかもしれない。
「えっと、聞いたような気がします」
ルートも「はず」と言っているのだから、強引に誤魔化そう。
もう恥ずかしい記憶なのか、ルートは顔を赤くして目を逸らす。
「わ、忘れてください……あの時の私は、気が動転していました」
「そうですか……ルートは十分強いですし、そこまで気に病まなくてもいいと思います」
「リリアン様。ありがとうございます……ですが、私はレックス殿下の護衛です」
護衛対象より強くあるべきだと考えていそうだから、ショックを受けてしまうのでしょう。
真面目なルートらしく、私は言いたいことを伝える。
「レックス殿下より強くなくとも、護衛としての役目は果たせますよ」
今のルートはレックス殿下より強くないのは事実だけど、護衛失格とはならない。
敵の規模が大きいのもあるけど、傍で味方として動いてくれるだけで十分過ぎる。
そのことを私が伝えると、ルートは感激した様子で微笑みを浮かべていた。
「リリアン様……ありがとうございます」
「気にしないでください。それでは、帰りますね」
これで、ルートが気に病むことはなくなるはず。
そう考えていたけど……馬車に乗ろうとした時、ルートが頭を下げる。
「えっ?」
「リリアン様……もし可能であれば、私の修行に同行してくれませんか?」
「修行ですか?」
真剣な表情で話すルートを見て、何かを思い出しそうになる。
熱意に溢れている目を向けられて動揺すると、話を始めていた。
「レックス殿下、そしてリリアン様を守るためにも私は強くなりたい……様々な修行を閃いているので、可能であれば付き合って欲しいです」
「えっと……」
閃いているって、自分で考えたということか。
相変わらず迷走は継続しているけど、それより重要なことがある。
「リリアン様の魔法の発想は素晴らしく、新たな発見があるかもしれません」
この無茶苦茶な感じと強引さ。
私がレックス殿下の婚約者と知りながらも、この行動力。
これは――ゲームでのルートを攻略する際のイベントに似ていると、私は思い出すことができた。
「そうですね……レックス殿下と相談してから、決めますね」
「はい。レックス殿下の許可を得るのは当然のことだと思っております」
私は思わずレックス殿下の名前を口にして、この場でルートと約束しない。
その後、私は馬車に乗ってルートと別れ……キャビンで一人呟く。
「まさかルートのイベントが、私に対して発生するなんて……」
私は主役カレンではないし、レックス殿下の婚約者なのに起きている。
レックス殿下を慕っているルートがこんな行動を起こすのは、ゲームの力なのだろうか?
夏休みを経て私達との力の差を感じ、ルートは迷走している。
ラギルが登場したことで、ダンジョン探索のグループから外れて更に不安になっていた。
その結果ゲームのイベントが発生したことが、どうしても気になってしまう。
とにかくレックス殿下と話をして――ルートの修行に付き合うしかなさそうだ。
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