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2章

37話

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 聖堂に来てから十日目になって――今日はロイとカレンが、聖堂内で行われる試練を受ける日だ。
 
 私とレックス殿下、試練が終わったロイとカレン。そしてゲオルグの五人は何もない真っ白な大部屋にいた。
 試練が問題なく終わって安堵していたけど、私達はゲオルグの発言に驚くこととなる。

「試練が終わった今、話しておくことがある――バダムがロウデス教団員だった。優秀すぎる故に、力を求めてしまったと話してくれた」

「……えっ?」

 警戒はしていたけど、今までバダムは怪しい行動していなかった。
 どうやら私の行動によりバダムは改心して、ゲオルグに邪神に従っていたことを話したらしい。

「バダムもリリアンさんと同じように闇魔力の素質があり、試練を受けられなかった。闇魔力を制御する方法を探し続けた結果、邪神に協力するようになったようだ」

 今までの言動的に、バダムは私と同類――魔法に夢中となる人だ。
 
 私は試練が受けられなくても割り切って聖堂で学び、その姿が堕ちる前のバダムと重なったらしい。
 試練をできなくするか私を捕えるよう命令されていたけど、昔を思い出したことで邪神に従いたくなくなったようだ。

 ゲオルグは、これからバダムからロウデス教について聞き出すらしい。 
 魔道具で記憶から全て調べようとするみたいだけど、自白した際に倒れたから記憶が消えている可能性が高いようだ。

 報告を聞き――試練を終えたロイとカレンは、とてつもなく魔力が強化されている。

「これで夢に近づけたけど……魔力が高くなると、リリアンさんとの差を更に実感して驚くしかないね」

「そうですね。私も同じ気持ちです」

 カレンがロイに賛同するのは、ゲームでは試練を受けた後の主役カレンがとてつもない強さを得たからでしょう。

 二学期に発生するロウデス教との戦いで、攻略対象が治ったばかりのロイだから、主役のカレン一人で問題を対処しなければならない。
 ゲームのバランスを保つためか、ロイとのイベントでは他の攻略イベントとは別格なほどに、主役カレンが強化されていた。

 そんな今のカレンでも――私の方が魔力が上なことに対しては、同じ転生者でも驚くしかないようだ。

   ◇◆◇

 試練が終わった翌日、私達は休むことにしていた。

 昨日の夜カレンと話したけど、流石に他のロウデス教団員は聖堂内にいないと考えている。
 ゲオルグが魔法を使えない試練の日が絶好の機会で、もし誰かいるのならバダムの代わりに動くはずだけど、誰も現れることはなかった。

 朝食を終えて私達は部屋に集まり、レックス殿下、ロイ、カレンと話をしている。

「試練は大変だったけど……僕とカレンさんは、膨大な聖魔力の力を得ることができたよ」

「ここまでとは思いませんでしたけど、これでもリリアン様には敵わないことに驚きます」

 ロイの夏休みイベントは試練の力によって、主役カレンはゲームで一番強くなれる。

 本来ゲームで攻略キャラが助けてくれるけど、ゲームでのロイは病弱だった。
 その分だけ主役カレンが頑張る必要があって、そのために聖堂で試練があるのだとゲームをした時の私は思ったものだ。

 今は聖魔力の素質が僅かしかなかったロイでも魔法学園トップクラスの魔力になって、カレンは世界規模でトップクラスの魔力を備えている。
 それでも私の方が強いけど……ロウデス教だったバダムは、聖魔力だけなら私を凌駕していた。

 バダムがあれだけの魔力を持ちながら、ゲームでは最後まで登場しなかったというのが気になってしまう。
 この世界はゲームの世界としか思えないほど似たような出来事が発生したけど……私が関与しなくても、違う点がありそうだ。

「魔法の成績はレックス君より間違いなく強くなっているから、僕はリリアンさんに相応しくなれただろうね」

「俺もこの聖堂に来て強くなった……お前がどれだけ相応しくなろうと、俺の方が上だ」

 レックス殿下がロイに対して余裕そうなのは、魔法剣技を学んでいるからだ。

 自信満々に告げたレックス殿下に対して、ロイが微笑みを浮かべる。

「凄い自信だね……本当に、レックス君は凄いよ」

「な、なんだ? どうした?」

 今までは煽る発言ばかりしていたロイが褒めたことで、レックス殿下は動揺している。
 そしてロイは私とレックス殿下を眺めて、頭を下げる。

「ありがとう……二人がここに来てくれたから、僕は夢に近づけた」

 もし私達が来ていなかったら、バダムに妨害されていたかもしれない。
 その可能性を考えたロイはお礼が言いたかったようで、試練を受けたかったのがよくわかる。
 手の平を白く発光させて……聖魔力の光を発生させるロイは、とても嬉しそうだ。

「俺とリリアンは何もしていない。ロイなら、人々を守る聖人になれるさ」

「そうだね……僕も、そのつもりだよ」

 レックス殿下が本心を伝えて、ロイが微笑みを浮かべていた。

 そんな二人を眺めながら……私は今後について考える。

 これから魔法学園での二学期は、様々なイベントが発生して――ゲームは二学期で全ての決着がつく。

 そこから各攻略キャラに応じて年月が経って、一気にエンディングに進む。
 二学期を終えれば平和になると考えているけど、ロウデス教が仕掛けてくるのは間違いない。

 バダムは改心したけど、これからの邪神教はゲーム以上の戦力で向かってくるはず。
 それが不安になっていると、レックス殿下が私を見て。

「リリアン。大丈夫か?」

「えっ?」

「俺は力をつけた……何か困っていることがあれば、俺を頼ってくれ」

「そうですね。レックス殿下達の力を、頼ることにします」

 私が本心を伝えると……レックス殿下、ロイ、カレンの表情が変わった。
 嬉しそうな様子で、ロイが呟く。

「リリアンさんが、僕達を頼るって言ってくれたんだね」

「俺の名前が真っ先に出たことが重要だろう! 俺はリリアンからそこまで想われているからな!!」

 そういえば……今まで全て、私が問題を対処しようと行動していた気がする。

 こうして皆を頼ると伝えたのは、はじめてだった。

 レックス殿下の発言を聞いて、ロイとカレンが不満そうに呟く。

「婚約者だから、思わず口から出たとかじゃないかな……僕も、名前を呼ばれるほど力をつけるよ」

「そうですね。私も同じ気持ちです」

 思わずレックス殿下の名前だけを出したことを、二人はちょっと気にしている様子だ。

 私はここから破滅したとしても、問題なく生きられるほどの魔力をつけ、魔法も覚えている。

 国外追放を受けた後は、冒険者になって自由に生きればいいと――今まで考えていた。
 今はただ――レックス殿下と離れたくないと、私は強く想っている。
 
 試練が終わった今になって、ロウデス教がこの国で動くとは思えない。

 それなら今は――魔法を楽しめるこの日常を、満喫するべきでしょう。

 その後、私達は何も問題なく聖堂内で楽しい夏休みを送る。
 平和なまま聖堂の日々を終えられると思っていたのに――数日後、私は驚愕することとなっていた。
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