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2章
30話
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食堂から出て訓練場に向かい……アスファが頼むことで、決闘の場ができていた。
魔法学園でも決闘を行う部屋があったけど、あれは横長で距離のある細い舞台だった。
騎士同士の決闘は舞台はなく、最初の位置がかなり相手と近い。
すぐに剣の一撃が繰り出せそうで、私達や訓練場にいた騎士達は少し離れながら、円形に囲むようにしてレックス殿下とアスファを眺めていた。
いつの間にか私を取り合っていると噂が立ったようで、周囲の視線が辛い。
アスファはただ一年しか年が違わない隣国の学生、それも守られる立場の王子が、必死に努力して騎士になった自分と対等と言われたことに怒っていそう。
だから私の婚約者に相応しくないとレックス殿下を焚きつけ決闘を申し込み、この場で叩きのめそうとしている。
「先に言っておきます。リリアン様は聖堂にいた方がいいと考えていますが、それはリリアン様が決めることです」
私に対しての発言は決闘のためのものだと、アスファが正面のレックス殿下に告げる。
決闘が始まる直前のアスファの発言から間違いなくて、レックス殿下は頷き。
「ああ。この決闘はただ単に、俺がリリアンに相応しくないと言った貴様の発言を撤回させるための戦いだ」
「相応しくないと思ったのは事実ですし、魔法学園の生徒レックス様が、騎士として認められている私に剣で勝てるとは思えません」
レックス殿下の実力を知らなければ、そう思うのは仕方ないかもしれない。
私の傍にいたいからと剣の鍛錬を重視していたレックス殿下は、魔法学園の生徒なのに剣の腕が凄い。
剣による攻撃は魔力を籠めることで打撃に変えることができるから、そこまで大怪我にはならない。
聖堂には回復魔法を使える魔法士の人が多いから、禁止されている頭部と心臓部への攻撃がない限りは大丈夫だ。
アスファの強さはゲーム内でも不明だから一切知らないけど、レックス殿下の強さは知っている。
私に魔法で敵わないと知って以降――ずっと剣技も学んできて、私を守る為に妥協せず常に努力していた。
その結果、今はゲームとは比べ物にならないほどに強くなっているレックス殿下が、同年代のアスファに負けるとは思えない。
審判を務めてくれる騎士の人が合図をして……レックス殿下とアスファの戦いが始まった。
◇◆◇
レックス殿下とアスファの戦いを、私達は少し離れた場所で眺めていた。
「アスファ様の動きは凄いと思いますけど、レックス殿下の方が上ですね」
「そうみたいだね……アスファ君は防戦一方で、現状が信じられない様子だ」
私が呟くと、ロイの返答が聞こえる。
間合いが授業の魔法による決闘より狭いから、慣れなくてレックス殿下が不利なのは間違いない。
不利な状況でも――剣技でレックス殿下が、一方的にアスファを追い詰めていく。
レックス殿下が迫って剣を振るい、速度に差がありアスファは反射的に剣で防ぐことしかできていない。
アスファは圧倒されている……今までとは明らかに違うレックス殿下の動きを眺めて、私は驚いていた。
一ヶ月前とは明らかに動きが違って、呆然としながらロイが呟く。
「レックス君。聖堂に来て強くなっていると確信していると言ってたけど……これは凄すぎるね……」
「……レックス殿下に、何があったのでしょうか?」
「リリアンさんが凄すぎるだけで、レックス君も大概凄いからね」
私の隣でそう言いながらロイも驚いているけど、聖堂の鍛錬がレックス殿下をここまで成長させている。
アスファも十五歳で騎士として認められているから、強いことは見ているとよくわかった。
それ以上にレックス殿下の動きが鋭く、アスファは防戦一方になっている。
見ている限り、レックス殿下は勝とうと思えばいつでもアスファに勝てそうだけど……なぜか距離をとって、アスファの行動を待っていた。
様子がおかしいと感じた私の隣で、ロイが呟く。
「どうやらレックス君は、アスファ君の全力を出させた上で勝ちたいようだ」
「……どういう、ことですか?」
「アスファ君は防戦一方でも目が諦めていない……なにか、切り札があるんだよ」
私はレックス殿下の強さに目を奪われていたけど、そういえばそんな気がする。
最初、アスファは力の差を見せつけたくて、レックス殿下に決闘を挑んでいた。
結果的にアスファが力の差を見せつけられたことになるけど、レックス殿下はそれ以上の結果を求めている。
「そこまで……リリアンさんに相応しくないと言われたことが、レックス君にとっては嫌だったんだろうね」
アスファが何かを狙っているから……全力を出し切ったアスファを倒すことで、レックス殿下は完全に勝利するつもりのようだ。
魔法学園でも決闘を行う部屋があったけど、あれは横長で距離のある細い舞台だった。
騎士同士の決闘は舞台はなく、最初の位置がかなり相手と近い。
すぐに剣の一撃が繰り出せそうで、私達や訓練場にいた騎士達は少し離れながら、円形に囲むようにしてレックス殿下とアスファを眺めていた。
いつの間にか私を取り合っていると噂が立ったようで、周囲の視線が辛い。
アスファはただ一年しか年が違わない隣国の学生、それも守られる立場の王子が、必死に努力して騎士になった自分と対等と言われたことに怒っていそう。
だから私の婚約者に相応しくないとレックス殿下を焚きつけ決闘を申し込み、この場で叩きのめそうとしている。
「先に言っておきます。リリアン様は聖堂にいた方がいいと考えていますが、それはリリアン様が決めることです」
私に対しての発言は決闘のためのものだと、アスファが正面のレックス殿下に告げる。
決闘が始まる直前のアスファの発言から間違いなくて、レックス殿下は頷き。
「ああ。この決闘はただ単に、俺がリリアンに相応しくないと言った貴様の発言を撤回させるための戦いだ」
「相応しくないと思ったのは事実ですし、魔法学園の生徒レックス様が、騎士として認められている私に剣で勝てるとは思えません」
レックス殿下の実力を知らなければ、そう思うのは仕方ないかもしれない。
私の傍にいたいからと剣の鍛錬を重視していたレックス殿下は、魔法学園の生徒なのに剣の腕が凄い。
剣による攻撃は魔力を籠めることで打撃に変えることができるから、そこまで大怪我にはならない。
聖堂には回復魔法を使える魔法士の人が多いから、禁止されている頭部と心臓部への攻撃がない限りは大丈夫だ。
アスファの強さはゲーム内でも不明だから一切知らないけど、レックス殿下の強さは知っている。
私に魔法で敵わないと知って以降――ずっと剣技も学んできて、私を守る為に妥協せず常に努力していた。
その結果、今はゲームとは比べ物にならないほどに強くなっているレックス殿下が、同年代のアスファに負けるとは思えない。
審判を務めてくれる騎士の人が合図をして……レックス殿下とアスファの戦いが始まった。
◇◆◇
レックス殿下とアスファの戦いを、私達は少し離れた場所で眺めていた。
「アスファ様の動きは凄いと思いますけど、レックス殿下の方が上ですね」
「そうみたいだね……アスファ君は防戦一方で、現状が信じられない様子だ」
私が呟くと、ロイの返答が聞こえる。
間合いが授業の魔法による決闘より狭いから、慣れなくてレックス殿下が不利なのは間違いない。
不利な状況でも――剣技でレックス殿下が、一方的にアスファを追い詰めていく。
レックス殿下が迫って剣を振るい、速度に差がありアスファは反射的に剣で防ぐことしかできていない。
アスファは圧倒されている……今までとは明らかに違うレックス殿下の動きを眺めて、私は驚いていた。
一ヶ月前とは明らかに動きが違って、呆然としながらロイが呟く。
「レックス君。聖堂に来て強くなっていると確信していると言ってたけど……これは凄すぎるね……」
「……レックス殿下に、何があったのでしょうか?」
「リリアンさんが凄すぎるだけで、レックス君も大概凄いからね」
私の隣でそう言いながらロイも驚いているけど、聖堂の鍛錬がレックス殿下をここまで成長させている。
アスファも十五歳で騎士として認められているから、強いことは見ているとよくわかった。
それ以上にレックス殿下の動きが鋭く、アスファは防戦一方になっている。
見ている限り、レックス殿下は勝とうと思えばいつでもアスファに勝てそうだけど……なぜか距離をとって、アスファの行動を待っていた。
様子がおかしいと感じた私の隣で、ロイが呟く。
「どうやらレックス君は、アスファ君の全力を出させた上で勝ちたいようだ」
「……どういう、ことですか?」
「アスファ君は防戦一方でも目が諦めていない……なにか、切り札があるんだよ」
私はレックス殿下の強さに目を奪われていたけど、そういえばそんな気がする。
最初、アスファは力の差を見せつけたくて、レックス殿下に決闘を挑んでいた。
結果的にアスファが力の差を見せつけられたことになるけど、レックス殿下はそれ以上の結果を求めている。
「そこまで……リリアンさんに相応しくないと言われたことが、レックス君にとっては嫌だったんだろうね」
アスファが何かを狙っているから……全力を出し切ったアスファを倒すことで、レックス殿下は完全に勝利するつもりのようだ。
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