上 下
49 / 109
2章

30話

しおりを挟む
 食堂から出て訓練場に向かい……アスファが頼むことで、決闘の場ができていた。

 魔法学園でも決闘を行う部屋があったけど、あれは横長で距離のある細い舞台だった。
 騎士同士の決闘は舞台はなく、最初の位置がかなり相手と近い。
 すぐに剣の一撃が繰り出せそうで、私達や訓練場にいた騎士達は少し離れながら、円形に囲むようにしてレックス殿下とアスファを眺めていた。

 いつの間にか私を取り合っていると噂が立ったようで、周囲の視線が辛い。
 アスファはただ一年しか年が違わない隣国の学生、それも守られる立場の王子が、必死に努力して騎士になった自分と対等と言われたことに怒っていそう。
 だから私の婚約者に相応しくないとレックス殿下を焚きつけ決闘を申し込み、この場で叩きのめそうとしている。

「先に言っておきます。リリアン様は聖堂にいた方がいいと考えていますが、それはリリアン様が決めることです」

 私に対しての発言は決闘のためのものだと、アスファが正面のレックス殿下に告げる。
 決闘が始まる直前のアスファの発言から間違いなくて、レックス殿下は頷き。

「ああ。この決闘はただ単に、俺がリリアンに相応しくないと言った貴様の発言を撤回させるための戦いだ」

「相応しくないと思ったのは事実ですし、魔法学園の生徒レックス様が、騎士として認められている私に剣で勝てるとは思えません」

 レックス殿下の実力を知らなければ、そう思うのは仕方ないかもしれない。

 私の傍にいたいからと剣の鍛錬を重視していたレックス殿下は、魔法学園の生徒なのに剣の腕が凄い。
 剣による攻撃は魔力を籠めることで打撃に変えることができるから、そこまで大怪我にはならない。
 聖堂には回復魔法を使える魔法士の人が多いから、禁止されている頭部と心臓部への攻撃がない限りは大丈夫だ。

 アスファの強さはゲーム内でも不明だから一切知らないけど、レックス殿下の強さは知っている。

 私に魔法で敵わないと知って以降――ずっと剣技も学んできて、私を守る為に妥協せず常に努力していた。

 その結果、今はゲームとは比べ物にならないほどに強くなっているレックス殿下が、同年代のアスファに負けるとは思えない。
 審判を務めてくれる騎士の人が合図をして……レックス殿下とアスファの戦いが始まった。

   ◇◆◇

 レックス殿下とアスファの戦いを、私達は少し離れた場所で眺めていた。

「アスファ様の動きは凄いと思いますけど、レックス殿下の方が上ですね」

「そうみたいだね……アスファ君は防戦一方で、現状が信じられない様子だ」

 私が呟くと、ロイの返答が聞こえる。
 間合いが授業の魔法による決闘より狭いから、慣れなくてレックス殿下が不利なのは間違いない。

 不利な状況でも――剣技でレックス殿下が、一方的にアスファを追い詰めていく。

 レックス殿下が迫って剣を振るい、速度に差がありアスファは反射的に剣で防ぐことしかできていない。
 アスファは圧倒されている……今までとは明らかに違うレックス殿下の動きを眺めて、私は驚いていた。

 一ヶ月前とは明らかに動きが違って、呆然としながらロイが呟く。

「レックス君。聖堂に来て強くなっていると確信していると言ってたけど……これは凄すぎるね……」

「……レックス殿下に、何があったのでしょうか?」

「リリアンさんが凄すぎるだけで、レックス君も大概凄いからね」

 私の隣でそう言いながらロイも驚いているけど、聖堂の鍛錬がレックス殿下をここまで成長させている。

 アスファも十五歳で騎士として認められているから、強いことは見ているとよくわかった。

 それ以上にレックス殿下の動きが鋭く、アスファは防戦一方になっている。
 見ている限り、レックス殿下は勝とうと思えばいつでもアスファに勝てそうだけど……なぜか距離をとって、アスファの行動を待っていた。

 様子がおかしいと感じた私の隣で、ロイが呟く。

「どうやらレックス君は、アスファ君の全力を出させた上で勝ちたいようだ」

「……どういう、ことですか?」

「アスファ君は防戦一方でも目が諦めていない……なにか、切り札があるんだよ」

 私はレックス殿下の強さに目を奪われていたけど、そういえばそんな気がする。
 最初、アスファは力の差を見せつけたくて、レックス殿下に決闘を挑んでいた。
 結果的にアスファが力の差を見せつけられたことになるけど、レックス殿下はそれ以上の結果を求めている。

「そこまで……リリアンさんに相応しくないと言われたことが、レックス君にとっては嫌だったんだろうね」

 アスファが何かを狙っているから……全力を出し切ったアスファを倒すことで、レックス殿下は完全に勝利するつもりのようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

契約獣が怖すぎると婚約破棄されたけど、神獣に選ばれちゃいました。今さら手のひら返しても遅いですよ?

黒木 楓
恋愛
旧題:契約獣が怖いと婚約破棄を受けるも、どうやら神獣のようです  公爵令嬢のライラは契約していた大狼が怖いと言われ、ディアス殿下に婚約破棄を受けてしまう。  そして新たな婚約者として侯爵令嬢のメラナーを選んだことで、私は婚約破棄の真相を知る。  数ヶ月後に国を守る神獣が選ばれる儀式があり、メラナーが契約していたペガサスが最有力候補だった。  その後、神獣を決める儀式が始まり――私の契約獣が神獣に決まる。  それを知ったディアス殿下が謝罪するも、私は許す気がなかった。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】初夜に寝取られたので、しっかりお仕置きしようと思います

桃月とと
恋愛
 アイリスには前世の記憶がある。それが役に立つ時もあったが、1番のトラウマである、家に帰ったら同棲中の彼氏が別の女と浮気中だった記憶が今世でも彼女を苦しめていた。 「愛のない結婚ならいいです」  その望み通り、アイリスは会ったこともない隣国の王子と結婚した。    そして初夜を迎えるはずの寝室にいたのは、裸の男女。 (ああ、前世でやり残したことをここでやれってことね)  今世では泣き寝入りはしない。徹底的に潰して差し上げます。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。