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1巻
1-1
しおりを挟むプロローグ ゲームと違うゲーム世界
――目が覚めると、子供になっていた。
手を動かそうとして動いたのは、小さくて可愛いてのひら。この白くつやつやな手は、間違いなく自らの意思で動いていた。
私は――二十三歳だったはずなのに。
「これって……もしかして転生というやつ?」
そう口にしたものの信じられない。けれど、興奮を抑えられない。
起き上がって周囲を見渡すと、豪華な家具が見えた。
ここは一体どこなのだろう?
日本で生活していたはずなのに、どこかわからない場所で、別の姿になっている。
「これは常識外の力……きっと魔力によるものに違いないわ!」
今まで魔法や魔力といったものが登場する創作物を楽しんでいた私は確信した。これは、異世界転生だ。
そして――転生というファンタジー過ぎる現象が起きたのなら、もしかすると使えるかもしれない。
――魔法を!
これまで楽しんできた創作物の影響で、私は魔法というものに並々ならぬ憧れを抱いていた。
「魔法が使えるかもしれないのなら……試すしかないわね!!」
ベッドから飛び下りた私は、小さな身体を駆使して魔法が使えないか試した。
一心不乱に思いつく限りの呪文を詠唱し、腕を振り回す。
傍から見れば痛い行動に見えるかもしれないけれど、今は子供の姿のようだし、それにこの部屋には誰もいないから問題ないでしょう。
「なんでもいいから、魔法を私に見せて!!」
私は魔法を使う、という今までにない感覚と、それによる体験が欲しかった。
そして――それは起こった。
窓など開いてなかったはずの部屋に突如風が吹きまわり、豪華そうな家具がガタガタと揺れる。
どうやら風が発生し、家具を動かしたらしい。
本当に魔法が使える――そのことを実感し、とてつもない高揚感に包まれる。
「あはは! これが魔法!!」
自分の体内に今までにない力が備わったのを感じる。そしてそれを使った感覚に打ち震えた。
子供の頃に「いつか手に入る」と信じ、大人になるにつれ「ありえない」と現実を受け入れるしかなかった力を、私は扱うことができたのだ。
普通の人なら、転生なんてしたとわかったら前世の自分がどうなったのか不安になったり、転生した自分の外見を気にしたり周りの環境を調べたりするだろうけど……私にとっては魔法のほうが重要だった。
「すごいすごい! こんな力を使えるなんて!!」
興奮が収まらず、再び風を、今度は家具を吹き飛ばすほどの暴風を出せないかと意識を集中する。
すると今度は家具が大きく傾いだかと思うと、音を立てて倒れた。
一度成功したからか、意識を集中することでさっきよりも強い風を起こせたようだ。それに歓喜して飛び跳ねていると……急激に頭に血が上るような感覚を受け、意識が薄れていく。
そして――
――次に目が覚めた時、私は様々なことを理解した。
ベッドの上に起き上がり、隣に座る初老の男性を眺める。
使用人が慌てふためきながらも畏まった様子なので、この人がこの豪華な屋敷の主人で、私の父親なのだろうと思った。
「リリアンの部屋からとてつもない音がしたと聞いて焦ったが、無事でよかった」
「はい……お父様、申し訳ありませんでした」
貴族の娘らしさを意識しながら、私は話す。
そして、意識を失ったことで混乱していることにして、お父様から様々な情報を聞き出すことに成功した。
転生した私は――公爵令嬢、リリアン・カルドレス。
その名前から、私は以前プレイした乙女ゲームの世界に転生したのではないかと推測した。
確信を持てない理由は、リリアンというのがゲームの主人公ではなく、敵キャラ――いわゆる悪役令嬢と呼ばれるポジションのキャラクターだからだ。
リリアンが登場するのは主人公が十五歳で魔法学園に入ってからのため、彼女の子供時代の話は、ゲーム中では描かれない。
よって名前だけでは本当にこの世界が私の知っているゲームの世界なのか判断するのは難しい。
そもそもゲームをしたのは少し前だから、記憶が不確かだ。まず私は、お父様と話をしながらこのゲームの内容を思い出そうとした。
真っ先に思い出したのはゲームの主人公にして、四人の男性から好意を持たれることになるカレンだ。
次に思い出したのは、ゲームだと必ず初回に攻略することとなる男性、この国――アークス王国の王子であるレックス・アークス。
他の攻略キャラの名は確か――ロイ、ルート……それからあと一人いた気がするのだけど、なんという名前だったか忘れてしまった。とにかく、誰を攻略するにしても、メイン攻略対象であるレックスとは必ず関わることになる。
この乙女ゲームはカレンたちの通う魔法学園での学生生活と、そこでの恋愛模様が中心となって話が進む。
この世界に生きる人は皆、体内に魔力という特殊なエネルギーを備えている。
しかし一部の才能ある人のみがその魔力を使い、魔法を扱えるのだ。
そんな魔法を使える者しか入学を許されないのが、ゲームの舞台となるグリムラ魔法学園だ。
この世界では魔法が重んじられている。魔法を使える者は重用され、さらに功績をあげた者には爵位が授けられる……昔からそんな歴史が続いたおかげで、魔法を使えるのは貴族がほとんどだった。だからグリムラ魔法学園に通うのも貴族の子女ばかりなのだが、そこに平民でありながら魔法の才能に溢れたカレンが入学して物語は始まる。
カレンは優秀で、学園の入学試験で一番を取る。それまで魔法に関しては誰よりも優秀だったレックスは彼女に負けたことで、カレンのことを競い合える相手として興味を持つのだ。
そして――レックスの婚約者であるリリアンがカレンに嫉妬し、あの手この手で邪魔をする。
リリアンはカレンを害そうと様々な悪事を働き、しまいには関係のない人々まで巻き込むほどの事件を起こしてしまう。それはレックス以外を攻略しようと変わらないシナリオで、カレンを目の敵にするリリアンの妨害を乗り越え、カレンと攻略キャラクターは絆を深めていく。
悪事の犯人だと露見したことでリリアンは断罪される。
それが、思い出した限りでのリリアンの顛末だ。
とすると、リリアンが真っ先に関わるゲームのキャラは、婚約者であるレックスだろう。
ゲームと同じように、リリアンがレックスの婚約者になるならば、この世界は乙女ゲームの世界なのだと確信できそうだ。
しかしそんなことよりも――優先すべきことが、私にはある。
「お父様!」
「ど、どうした?」
「魔法って、素晴らしいですね!!」
そう、今はゲームのことよりも、この世界で扱える魔法のほうが重要だ。
様々な属性を備えた魔法。空を飛んだり魔力を持つ化け物を撃退したり……魔法は奥が深すぎる。
ゲームで得た知識を思い返し、この世界に存在する魔法の素晴らしさを話していると……お父様が訝しそうに告げる。
「……リリアン。お前はなぜ先ほど私に謝罪をしたのだ」
「えっと……部屋を滅茶苦茶にしてしまったので」
「私が憂慮しているのは、自らの魔力量を超える魔力を使ったことだ! 魔力切れになるほど魔法を使ってはならないと言っておっただろう!?」
お父様は、無茶苦茶怒っていた。
魔力切れ――魔法を覚えたばかりの子供は、身の丈に合わない魔法を使ってしまう。それだけでなく、魔力が足りなくてもなお魔法を使おうとして、体力を魔力に変える。
魔力切れの状態で魔法を使い続けたら意識を失い眠り続けることもあるのだという。
愛娘が意識不明の重体になりそうだったとあれば、お父様が怒るのも頷ける。
「成長して魔力が安定するまで、リリアンは魔法を使わなくてよい!」
「いいえ。魔法は使います」
お父様が心配して言ってくれたことを、私は拒む。
するとお父様は驚いたけれど、なにか思い当たったような顔で呟いた。
「なっ……そうか、書庫にあった魔法に関する本を読んだのだな……私も若い頃は、魔力を高めようと研鑽に励んだものだ。やはり血は争えないな……それなら、魔力切れにだけはならないようにしてくれ……」
お父様は、そう言ってうんうんと頷く。
そんな本のことは知らないけれど、私はゲームの知識によりお父様が納得した理由に見当がついていた。
魔法というのは、使えば使うほど体内の魔力量が増え、より強力な魔法を使えるようになるのだ。きっとお父様も昔似たような無茶をしていたのだろう。
「はい、魔力切れはなるべく起こしません」
「なるべくではない!!」
――リリアンの父親って、ゲームでは娘に甘かったはずだけど、無茶苦茶怒るわね。
これは愛娘に危険な目に遭ってほしくないということだろうか。
「絶対に起こしません……たぶん」
私がそう宣言すると、お父様は今度こそ納得したようだった。
たぶんって、私は言ったからね。小声だけど。
だって、魔法を使えると思うと嬉しすぎて、止まれる気がしない。
転生したということは前世の私は死んだのだろう。だけど、もう仕方ない。
悪役令嬢に転生したけれど――魔法を使えることが嬉しかったから、不安はまったくなかった。
第一章 乙女ゲームの世界に転生したようです
あれから半年が経過して、すっかり公爵令嬢らしい振る舞いが板についてきた。
前世を思い出したのは七歳。それまでのリリアンの記憶はなく、戸惑うことが多かったけれど、子供だから非常識なことをしてもどうにかできた。
前世を思い出した時のショックで忘れてしまったのか、あるいは元々存在したリリアンの魂を前世の記憶を持つ私の魂が追い出してしまったのか、真相はわからないけれど……とりあえず、私はあの時に転生したのだと思うことにしている。
「転生したことにも驚いたけど、この視点の低さには感動するばかりね……」
転生したとわかった時は仕事の忙しさのあまり現実逃避したくて夢でも見ているのかとも思ったけれど、半年もすればこの世界が私にとっての現実だと理解できている。
広すぎる部屋の大きなベッドに寝転がりながら、私は転生する前の私自身のことと、ここ半年のことを振り返る。
この世界の元となっているであろうゲームをしたのは結構前の話で、正直記憶は曖昧だ。けれど、自分なりにこの世界のことを調べることでだいぶ情報の整理ができた。
移動手段は馬車が主で、建物は中世ヨーロッパ風だけれど、魔法によってこの世界の生活は、おおむね転生前の現代並だ。
転生前――元の私は不運にも通り魔に刺された、ということも思い出した。なかなかに悲劇的な最期だとは思うが、今の私はもうリリアン・カルドレスなので、済んだこととして割り切っている。
しかし、もしゲームの通り進んでしまうと、リリアンもまた大変な目に遭ってしまう。
グリムラ魔法学園での悪事が発覚したことでの断罪。
今はおそらくゲームが始まる約九年前だ。
もしかしたら……今から頑張ればリリアンの運命を変えられるのかもしれないけれど、そうなった時にその先の未来はどうなるのだろうか?
そもそもこのままなにもしなかったとして、未来がゲーム通りになるのかさえわからない。
とすれば、起こるかどうかわからない悲劇のためにあれこれ悩む必要はないんじゃないだろうか。
仮にゲーム通りの結末が待っていたとしても、確かリリアンの末路は国外追放だ。他にも色々な乙女ゲームをプレイしたけれど、似たような立場の悪役令嬢たちが辿るのは処刑とか拷問といった結末が多いから、それに比べればまあいいだろう。
そんなことを考えていたけれど、私が未来について深刻になれない一番の理由は――やはり魔法だった。
「お父様、今日は空を飛ぶことができました! 魔力で重力に抗うことで、空中で自在に動くことができるのです。魔法というのは、こんなこともできるのですね!」
夕食の時、私は食卓で魔法と魔力について興奮しながら話していた。
するとお母様は引いている様子だったけれど、お父様は困惑しながらも頷いてくれた。
「そ、そうか……重力というものはよくわからぬが、なにも教えていないのにもうそんなことができるとは素晴らしいな!」
こうして時々現代の知識を口にしてしまうけれど、どうやら子供の戯言と聞き流されているようだ。
とはいえ、私が様々な魔法を扱えるようになっているのは事実で、そのことはお父様とお母様も喜んでくれた。
私は大人向けの難しい本でもなんとなく理解できるので、書庫で魔法の本を読んでいたら、「もうこんな複雑な文章を読めるなんて!」と驚かれたこともあったっけ。
さらにその内容を実践していたら天才だと褒められて、楽しく日々を過ごしてはいるのだけど、不満なこともある。
「あの、お父様……私は、そろそろ外に出たいのですが……」
転生したあの日、魔法でひと暴れして魔力切れまで起こしてしまったものだから、行動を制限されてしまったのだ。
お父様は、呆れた様子で溜め息を吐く。
「またか……まだ魔力が制御できない以上、外には出せない。また暴走したらどうするのだ? リリアンも自分のせいで誰かに怪我をさせたくはないだろう」
それはお父様の言う通りだ。でも今の私はもう魔法を制御することができる。
「それに、一度執事と共に外出した時、魔力切れで倒れただろう。執事がこの世の終わりのような顔をしていたのを忘れたのか?」
「うっ!?」
それは実際にやってしまったことだ。魔法に夢中になるとついつい限界を忘れてしまう。執事には、本当に悪いことをしたと反省している。
転生して五分も経たずにやらかした上に、その後も相当色々なことをしでかしたので私を外に出すのは危険だと認識しているのだろう。
「わ、わかりました……」
お父様たちにはそう言いながら、しかし、私は既に、外へ出ることを決意していた。
翌日――私は屋敷の人たちに内緒で、屋敷から少し離れた場所にある森へ向かっていた。
外からは鬱蒼として見えたけれど、足を踏み入れると木漏れ日が暖かい。
「バレないか不安だけど、きっと大丈夫のはず……」
森に到着した私は、ここまでの道のりを思い返す。
昼過ぎ、私はいつものように屋敷の二階にある書庫で読書をしていた。
私がこの半年間でやらかしてきたせいもあるけれど、それでなくともお父様とお母様はだいぶ過保護なようで、なにをするにも執事たちの監視がつく。
とはいえ、集中したいから一人にしてほしい、と頼めば彼らは部屋の外で待機してくれる。
だから勝手に外へ出ることはできないのだが、部屋の中では自由だ。
どうやら執事や使用人たちは、私が外へ出たり魔法を使いすぎたりしなければ、自由にさせるよう言われているらしい。
お父様もお母様も私が魔力切れを起こすのは心配なようだけど、それでも魔法自体を禁止しようとはしない。魔力は使えば使うほど上がるから、私の成長を阻みたくないのだろう。
それなら、心配してくれるみんなには悪いが私はやっぱり魔法を探求したい!
身勝手かもしれないけれど、外に出て魔法や魔力について、もっと多くのことを知り、体験したいのだ。
「さてと……これでしばらくの間、執事たちは外で待機してるから、その間に行きましょう」
私は音を立てないように窓を開けるとそこから飛び降りる……のではなく、編み出したばかりの魔法で空を飛び、屋敷を抜け出した。
執事たちも私が窓から抜け出すとは考えてなかったみたいで、私の目論みはたやすく成功した。
私は森の中を探索しながら歩く。
この森は魔力に満ちていて、そこにいるだけで自分の中に魔力が満ちるのがわかる。
ゲームの設定では、世界には魔力が湧き出る「魔力領域」と呼ばれる場所があり、この森もその一つだ。
そしていずれ私が通うことになるであろう、ゲームの舞台であるグリムラ魔法学園もそういった魔力領域に建てられているのだ。つまり、約九年後には魔力領域の中で学園生活を送れる。
それはわかっているけど……九年も待てなかった。魔力領域でどんな魔法が使えるのか、試したくて仕方がなかったのだ。
けれど屋敷を抜け出したことがお父様とお母様にバレたら絶対に怒られる。
魔法を試したらすぐに家へ戻ろうと思っていた時――
「――うわぁぁっ!?」
少し離れた場所から、男の子の甲高い声が聞こえた。一体何事かと思い、急いでその場へ向かう。
行き着いた先には、大型のトラのようなモンスターに襲われている男の子の姿があった。
短い金髪に藍色の大きな瞳をした、小柄で端整な顔立ちの男の子が、獰猛なモンスターを前にして硬直している。
さっきの声の主は、あの子だろう。
あんな大きいトラ型モンスターに噛みつかれでもしたら、一口で身体の半分くらい食われそうだ。
けれど今の私なら戦えると思い、男の子を助けようと前に出る。
「ここは私に任せてください!」
私は男の子を落ち着かせるように声をかけた。
「おっ、おいっ!? 早く逃げろ! どうしてこんな場所にいるんだ!?」
全身を震わせていた男の子の必死な叫びが、背後から聞こえる。
その発言をそのまま返したいけれど、そんな余裕はなさそうだ。男の子の声と同時にモンスターが私のほうへ視線を向け威嚇してきた。
どうやらこのモンスターは、私のほうを危険な敵だと認識したみたいだ。
モンスターを睨んでいると、背後から男の子が再び必死な声で叫ぶ。
「そいつはクロータイガーだ! 爪の破壊力はとてつもないぞ!」
「このあたりに住むモンスターでも強い部類ですね。けれど問題ありません」
男の子はモンスターに詳しいようだ。クロータイガーという名前はゲームで聞いたことがある。
確か、その爪で傷つけられると一生治せない呪いの傷になるのだとか……
この国では危険視されているモンスターのはずだが、力を試すいい機会だ。
私はクロータイガーに右手をかざし、風の弾丸を放つ。
ゲームによると、リリアンは風と雷の魔法が得意ということだったから、私はそれらの魔法を中心に訓練をしていた。
人は生まれながらに扱える魔法の属性が決まっている。その中でも自分の得意な属性を早いうちに見極め、その属性の魔法を使い慣れることで自分の魔力を使いこなしやすくなる。結果として得意な属性以外も巧みに扱えるようになるのだという。
問題は自分がどの属性の素質を持つかわからないことで、苦手な属性や、そもそも素質を持たない属性の魔法を必死に修業して結局なにも身につかない……ということもあるらしい。
しかし私はゲームの知識のおかげで、リリアンの持つ素質も得意な属性も初めからわかっていた。
いつもと同じ感覚で魔法を放ったつもりだったが、魔力領域にいるおかげか思った以上の威力になってしまった。
周辺の木々が大きく振動する。
「なっ……!?」
男の子の唖然とした声が聞こえる。
森の魔力を利用した魔法――風の魔力による弾丸は、クロータイガーを吹き飛ばして、意識を奪っていた。
「流石に……仕留めることはできませんか」
それでも、しばらくは目覚めないだろうから、今のうちにトドメをさしておこう。
――ゲームだと「クロータイガーを倒した」の一行で倒せるモンスターでも、間近で見るとかなり怖いわね。
そう思っていると、男の子が近づいてきて、信じられないと言わんばかりに目を見開く。
「な……おまえ、なんだその力は!?」
「魔法です」
「そんなことは知っている! どうしてそこまでの魔法を使えるのかと聞いているんだ!」
あ、そっか。
私としては魔法を使えるだけですごい! という認識だったけど、この世界の人にとって魔法を使えること自体は珍しいことじゃないんだ。
だけど、そんな世界でも私の魔法は、驚くレベルなのだろうか。他を知らないからわからない。
どう説明しよう?
呆然としながらも私をじっと凝視しているあたり、男の子は興味津々なようだ。
そこまで考えたところで、そもそもどうしてこの子は一人でこの森にいるのか疑問に思い、つい尋ねてしまった。
「あの、どうして貴方は一人でこの森に? 危ないですよ?」
そう尋ねると、男の子は悔しげに俯いた。不思議に思いながら見つめていると、男の子は顔を上げ、こちらを睨みつけた。よく見ると、顔が赤い。
その反応を見てようやく、今の私は子供だから、同じ年頃の異性に心配されたことが恥ずかしくなったんだね、と気づく。可愛いなあ。
転生前の自分から一回り以上は年下の男の子だから、つい子供扱いしてしまう。
男の子がそれが不満だったのか、ムッとした様子だった。
「おっ、おまえも一人だろ……クロータイガーが見たかったんだよ……おまえは?」
確かに、私も子供なのだから一人でこんな薄暗い森に来ていることを疑問に思うのは当然だ。
この男の子が何者かはわからないけれど、もう会うことはないだろうと、私はここに来た理由を話すことにした。
「魔法を試したかっただけです。一人は危険ですから、外まで一緒に行きましょうか」
私もそろそろ屋敷へ戻ったほうがいい頃だ。けれど目の前の男の子を一人にするのは危険だと思い、提案をした。
「ぐっ……明らかに同じくらいの年なのに、子供扱いされているが……」
男の子は両手を握りしめて、悔しそうにしている。
これは、転生する前のノリで会話をするのはよくないかもしれない。
思い起こせば、お父様とお母様相手の前でもつい七歳らしからぬ言動をしてしまうことが多々あった。気をつけていても思わず口から出てしまうのだ。
そうは言ってもこの状況で男の子を置いていくわけにはいかない。
私が手を差し出すと、男の子はおずおずと私の手をとろうとする。その時、落ち葉を勢いよく踏みつける音が聞こえたと思うと、木陰から執事服を着た青年が焦った様子で現れた。
「レックス様!? 急にどこかへ行かれては困ります!」
青年が必死の形相で叫ぶと同時に、他にも何人もの男たちが現れる。
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