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第一章
第4話『秘めたる力』
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外へ出るとそこは新緑で満ちた森だった。魔女の森と聞いたから瘴気などが蔓延していると思ったが、そんな様子はまるでない。日陰から日向へ出ると光合成をするように身体を無意識に伸ばしてしまう。
「いい天気ね。絶好のお散歩日和だわ」
シェーラはそう言うと歩き始めて、森の中に入ってゆく。私も遅れないようにその後をついてゆく。
森の中ではところどころに木漏れ日がある。それが時々目に入ると、眩しくて思わず目を瞑り手で遮ってしまう。だけどこの眩しさは嫌いじゃない。優しい光だからだ。
…あの空間で見えた光はこの木漏れ日だったのだろうか。
「さて、外へ出たときにまず一番に気をつけなきゃいけないのは、魔物よ」
シェーラの言葉で現実に引き戻される。彼女は森の中を愉しむようにゆっくり歩き、周囲を見回している。
「気をつけるって言っても、私には武器なんてないし、魔法も使えないわ」
「だろうね。だから、私が魔法を教えてあげる」
「魔法って簡単に覚えられるものなの?」
「さぁ?少なくとも私は剣術とかの知識や経験は浅いからね。でも簡単な魔法なら1ヶ月あれば習得できるんじゃないかな」
一ヶ月…これが短いのか長いのかは分からないけれど、もし魔法を覚えられるのなら剣を揮うよりも遥かに魅力的だ。
「さて、この辺にいたと思うけど…。…あぁ、いたいた」
シェーラの指差す方向には水色のジェル状の「何か」が複数いた。もしかしてあれが俗に言う「スライム」なのか。
私はそのスライムっぽい何かを分析してみた。
【名称】バブルスライム
【種族】魔物-スライム
【体力】10/10
【魔力】1/1
【属性】水
【弱点】雷
【スキル】-
「…バブルスライム?」
思った通りに、これはスライムだった。こういうゲームみたいな世界では、一番初めに会う魔物として定番だ。ただ、名前から察するに同じスライムでもいくつかの種類がいるのかもしれない。
「お、早速分析した?」
「うん。試しにと思って」
「いい心掛けね。そうやって見たことのない魔物が出てきたら、とりあえず分析してみるといいわ」
するとシェーラは左手で魔力を集め始めた。魔力は彼女の身体から出るものの他に、周りの木々から微量ながら出ているものも含んでいた。
「それで、魔物が現れたらこうやって魔法を使って…!」
「<<ウィンドカッター>>!!」
シェーラが魔法を唱えると魔力は鋭い空気になり、一匹のスライムを襲った。スライムは切り刻まれるとジェルを八方に散乱させて、動くことはなくなった。
「…とまぁ、こんな感じ」
視る限り、魔力を集めて、それを鋭い空気に換えて飛ばす、といったところか。なんとなく分かったが、自分でもできるかどうか、些か不安である。
「なるほど。やってみる」
私はシェーラの真似をして魔力を左手に集めた。するも意図せずとも周りの木々から魔力が集まっていくのがわかる。このとき既に私は、できる、と確信した。
「やってみるって…まだ何も教えてないんだけど!?」
シェーラの言葉を聞き終える前に、既に魔力を空気に換えてスライムに放っていた。
「<<ウィンドカッター>>!!」
するとリプレイを観ているかのようにスライムは散り散りになった。
「どう?できてた?」
振り返ってシェーラに聞く。ところがシェーラは目と口を開けて驚いている。
「あんた、今の私の魔法を見ただけで習得しちゃったの?」
「いや、シェーラの真似をしただけなんだけど」
「真似って…。形だけ真似ても普通はできないんだけど」
「そうなの?だって特定の場所に魔力を集中させて、充分に集まったらそれを空気に換えるんでしょ」
そう言うとシェーラは黙り込んで考える仕草をした。ただ視線はずっと私に向いていて、不思議なものを見るような目がむず痒く感じた。
「…まさか」
「え?」
「レイン、別の魔法も使うから、あなたも使ってみて」
シェーラはそう言うと、まだ残っているスライムの集団に対して魔法を放っていった。言われたとおりに、一つ魔法を使えば、私もそれと同じように魔法を使う。遂にスライムはいなくなったが、まだシェーラは何も無い空間に魔法を唱えた。理由もわからないまま私も同じように魔法を唱えた。
「…なるほど、ね」
私が魔法を使い終えるとシェーラは何かを確信したように私の顔を見る。
「もしかしてレイン、私の魔法を分析したでしょ」
「そう、なの?」
「推測の段階だけど、レインの分析能力は私の使った魔法がどういう仕組み、流れで出来上がるのかを分析できるんじゃないかな」
言われてみれば、シェーラが魔法を使うときに魔力の流れが見えた。もしあれが分析能力を使った結果見えた賜物なら、私にもすんなり魔法が使えたのにも合点がいく。
「へぇ。便利ね」
「べっ、便利どころか反則級よ!?本来一ヶ月かけて覚えるものを一分もしないうちに使えちゃうんだから!」
確かに。そう言われればチートみたいな性能だ。意外と分析能力も悪くないのかもしれない。と、ここで一つ考えが浮かぶ。
「じゃあ、シェーラが覚えている魔法、全部使えるのかな?」
そう言うとシェーラは肝を冷やすような顔をした。魔王を見るような目だ。いや、でもその推測が正しいかどうかを知りたい。
「…はぁ。わかったわ。私も分析能力についてもっと知りたいし。何より、レイン自身も知りたいだろうから」
そうして本来の目的を忘れてシェーラには魔法を使いまくってもらった。魔女と言うだけあってシェーラの使う魔法は強力なものばかりだった。特に火魔術なんかは一つ間違えれば森一体が炭も残らないほどに燃えてしまいそうだった。ただ、そのおかげである程度のこともわかった。
・分析Lv8なら、対象のスキルレベルのLv8までは分析可能。
・「習得」と「分析可能」は別。「習得」は体に染み付いたいわゆる技術に近く、「分析した魔法など」は即席の産物に近い。つまり、魔力の仕組みや流れを忘れてしまうと再度使うことは難しい。
・ただ、分析可能とはいえ魔力の消費は同じだから、今の私では強い魔法は魔力不足で使えない。現在実用的なのはLv1のスキルのみ。
・剣術や弓術は基本魔力を必要としないが、そもそもの身体の強さに依存しているので、今の私には使い物にならない。
「久々にこんなに魔法を使ったわ…」
「ごめんねシェーラ。無理を言って」
「いいのいいの。手伝うって言った手前、断る理由もないし。私もレインの分析能力について知りたかったからね」
結局私自身の基礎能力でどうにかしないといけないとわかったとき、シェーラはほっとしていた。そして帰り道、シェーラが、魔女としての面目が保たれてよかったわ、とぶつぶつ呟いていた。
「いい天気ね。絶好のお散歩日和だわ」
シェーラはそう言うと歩き始めて、森の中に入ってゆく。私も遅れないようにその後をついてゆく。
森の中ではところどころに木漏れ日がある。それが時々目に入ると、眩しくて思わず目を瞑り手で遮ってしまう。だけどこの眩しさは嫌いじゃない。優しい光だからだ。
…あの空間で見えた光はこの木漏れ日だったのだろうか。
「さて、外へ出たときにまず一番に気をつけなきゃいけないのは、魔物よ」
シェーラの言葉で現実に引き戻される。彼女は森の中を愉しむようにゆっくり歩き、周囲を見回している。
「気をつけるって言っても、私には武器なんてないし、魔法も使えないわ」
「だろうね。だから、私が魔法を教えてあげる」
「魔法って簡単に覚えられるものなの?」
「さぁ?少なくとも私は剣術とかの知識や経験は浅いからね。でも簡単な魔法なら1ヶ月あれば習得できるんじゃないかな」
一ヶ月…これが短いのか長いのかは分からないけれど、もし魔法を覚えられるのなら剣を揮うよりも遥かに魅力的だ。
「さて、この辺にいたと思うけど…。…あぁ、いたいた」
シェーラの指差す方向には水色のジェル状の「何か」が複数いた。もしかしてあれが俗に言う「スライム」なのか。
私はそのスライムっぽい何かを分析してみた。
【名称】バブルスライム
【種族】魔物-スライム
【体力】10/10
【魔力】1/1
【属性】水
【弱点】雷
【スキル】-
「…バブルスライム?」
思った通りに、これはスライムだった。こういうゲームみたいな世界では、一番初めに会う魔物として定番だ。ただ、名前から察するに同じスライムでもいくつかの種類がいるのかもしれない。
「お、早速分析した?」
「うん。試しにと思って」
「いい心掛けね。そうやって見たことのない魔物が出てきたら、とりあえず分析してみるといいわ」
するとシェーラは左手で魔力を集め始めた。魔力は彼女の身体から出るものの他に、周りの木々から微量ながら出ているものも含んでいた。
「それで、魔物が現れたらこうやって魔法を使って…!」
「<<ウィンドカッター>>!!」
シェーラが魔法を唱えると魔力は鋭い空気になり、一匹のスライムを襲った。スライムは切り刻まれるとジェルを八方に散乱させて、動くことはなくなった。
「…とまぁ、こんな感じ」
視る限り、魔力を集めて、それを鋭い空気に換えて飛ばす、といったところか。なんとなく分かったが、自分でもできるかどうか、些か不安である。
「なるほど。やってみる」
私はシェーラの真似をして魔力を左手に集めた。するも意図せずとも周りの木々から魔力が集まっていくのがわかる。このとき既に私は、できる、と確信した。
「やってみるって…まだ何も教えてないんだけど!?」
シェーラの言葉を聞き終える前に、既に魔力を空気に換えてスライムに放っていた。
「<<ウィンドカッター>>!!」
するとリプレイを観ているかのようにスライムは散り散りになった。
「どう?できてた?」
振り返ってシェーラに聞く。ところがシェーラは目と口を開けて驚いている。
「あんた、今の私の魔法を見ただけで習得しちゃったの?」
「いや、シェーラの真似をしただけなんだけど」
「真似って…。形だけ真似ても普通はできないんだけど」
「そうなの?だって特定の場所に魔力を集中させて、充分に集まったらそれを空気に換えるんでしょ」
そう言うとシェーラは黙り込んで考える仕草をした。ただ視線はずっと私に向いていて、不思議なものを見るような目がむず痒く感じた。
「…まさか」
「え?」
「レイン、別の魔法も使うから、あなたも使ってみて」
シェーラはそう言うと、まだ残っているスライムの集団に対して魔法を放っていった。言われたとおりに、一つ魔法を使えば、私もそれと同じように魔法を使う。遂にスライムはいなくなったが、まだシェーラは何も無い空間に魔法を唱えた。理由もわからないまま私も同じように魔法を唱えた。
「…なるほど、ね」
私が魔法を使い終えるとシェーラは何かを確信したように私の顔を見る。
「もしかしてレイン、私の魔法を分析したでしょ」
「そう、なの?」
「推測の段階だけど、レインの分析能力は私の使った魔法がどういう仕組み、流れで出来上がるのかを分析できるんじゃないかな」
言われてみれば、シェーラが魔法を使うときに魔力の流れが見えた。もしあれが分析能力を使った結果見えた賜物なら、私にもすんなり魔法が使えたのにも合点がいく。
「へぇ。便利ね」
「べっ、便利どころか反則級よ!?本来一ヶ月かけて覚えるものを一分もしないうちに使えちゃうんだから!」
確かに。そう言われればチートみたいな性能だ。意外と分析能力も悪くないのかもしれない。と、ここで一つ考えが浮かぶ。
「じゃあ、シェーラが覚えている魔法、全部使えるのかな?」
そう言うとシェーラは肝を冷やすような顔をした。魔王を見るような目だ。いや、でもその推測が正しいかどうかを知りたい。
「…はぁ。わかったわ。私も分析能力についてもっと知りたいし。何より、レイン自身も知りたいだろうから」
そうして本来の目的を忘れてシェーラには魔法を使いまくってもらった。魔女と言うだけあってシェーラの使う魔法は強力なものばかりだった。特に火魔術なんかは一つ間違えれば森一体が炭も残らないほどに燃えてしまいそうだった。ただ、そのおかげである程度のこともわかった。
・分析Lv8なら、対象のスキルレベルのLv8までは分析可能。
・「習得」と「分析可能」は別。「習得」は体に染み付いたいわゆる技術に近く、「分析した魔法など」は即席の産物に近い。つまり、魔力の仕組みや流れを忘れてしまうと再度使うことは難しい。
・ただ、分析可能とはいえ魔力の消費は同じだから、今の私では強い魔法は魔力不足で使えない。現在実用的なのはLv1のスキルのみ。
・剣術や弓術は基本魔力を必要としないが、そもそもの身体の強さに依存しているので、今の私には使い物にならない。
「久々にこんなに魔法を使ったわ…」
「ごめんねシェーラ。無理を言って」
「いいのいいの。手伝うって言った手前、断る理由もないし。私もレインの分析能力について知りたかったからね」
結局私自身の基礎能力でどうにかしないといけないとわかったとき、シェーラはほっとしていた。そして帰り道、シェーラが、魔女としての面目が保たれてよかったわ、とぶつぶつ呟いていた。
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