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第79話 帰還
しおりを挟む魔王城…
城に入る前に感じた嫌な予感は、確かに現実のものになった。
「なんだこりゃ一体…」
城のエントランスともいうべきところには緑だの青だのの液体がまき散らされていた。
液体に混じって鱗や羽のようなものが乱雑に散らばっている。
そして、緑の服を着た『なにか』が見るも無残な形で息絶えていた。
「…くっ」
もはやホラー映画の中の世界のようだ。
モミジがそのうちの一つに近づいて死体を検めた。
「どうだ?」
デイモンドが彼女に聞くも彼女は黙って首を左右に振った。
というか、死んでいるのは一目瞭然なのだがデイモンドにしても
そう聞くほかなかったのだろう。
緑の服を着ているということはこれは魔界警察の人間だ。
何かがあって城に乗り込んで返り討ちにされたということだ。
魔界警察は魔王の管轄下にある。魔王と魔界警察がやりあったとは到底思えない。
「…これは」
モミジは何かに気付いたようにはっとして口を押さえた。
「どうしたのよ?」
俺は彼女にそう問いかける。彼女は
「だってこれは!!」
なにかを訴えかけようとして途中でやめた。
「…いや、確かにトール様ほどの高レベルならこれがなにか理解できないのでしょうね」
その口調にはわずかにだが皮肉っぽいものを感じた。
普段俺を無条件に崇拝している彼女にしては珍しい物言いだ。
「ごめんなさい。わからないわ。説明してちょうだい」
「………」
彼女は少し逡巡した様子を見せたがやがておもむろに話し始めた。
「これは魔術痕です」
「魔術痕?」
「魔法を使うと魔術痕と呼ばれる魔力残滓が残ることがあるんです。
もちろんそれを消す方法やカモフラージュする方法なんかもありますが
これを使った相手はそういうことを一切していないようでした」
「…つまり?」
「これをやったのは魔女です。それもかなり高位の魔女とみていいでしょう。
警察の包囲網を一瞬で肉片にすることができるくらいには」
「…!」
どういうことだ?魔女は中立のはず。
こんなところで肉片パーティなんか開くメリットはない。
俺は頭の中でいろいろ考えながらも「魔力」という単語を聞いて
無意識のうちに左手にはめている指輪をなぞっていた。
…すると
「え?」
指輪は強く光った。
「ん?どうしたんだ。なんでその指輪は光ってるんだ?」
セーラが俺にそう聞いてきた。
「これは…」
彼女たちが知らないのも当然だ。これはこのパーティに入る前
俺とグレースが結婚式を挙げたときに将来を誓い合ってお互いの指にはめたものだ。
指輪の魔女メビウスの特製で、二人が近くにいるときに撫でると指輪同士が共鳴して
光り輝くようにできている。
…つまり
この近くにグレースがいるということになる。
なんで?どうして??
ここは魔界のど真ん中、魔王城だぞ。
おかしい。
俺は胸騒ぎを覚えた。
「先を急ごう!」
「あ、おい!」
俺はみんなを置き去りにするように魔王城の中を進んでいく。
魔王城の中は普通の洋風の城といった感じで
RPGゲームのように罠が仕掛けられたりしているわけではなかった。
だが、進んでいる最中にも柱の陰とかところどころ肉片のようなものが飛び散っている。
ゲームで言えば城の中に四天王だのなんだのが待ち構えていたのだろうが
俺たちの目の前には無残に散乱した肉片しか存在しなかった。
いよいよ魔王城、魔王の部屋の手前までやってきた。
この時のためにみんな準備してきたのだ。
目の前には10mはありそうな大きな木製の扉が取り付けられている。
部屋の向こうの様子はうかがい知れない。
俺はモミジの方を見た。
彼女は首を左右に振っている。彼女にしてもこの先何が起こるのかわからないということだろう。
…最悪のケースが頭をよぎる。でも俺はそれについて考えないことにした。
今はただ、魔王を倒す、もしくは敗北しそうになった時に勇者パーティを連れて逃げる。
そう、俺に課せられた役目はそれだけのはず。それだけのはずなんだ。
デイモンドが俺の心の準備を待たずに言った。
「いよいよラスボス戦だ!いくぞ」
そういうと彼は大きい扉を思いっきり強く押して開いた。
ギギギギ
嫌な音がする。
「………」
「あらぁ!やっと来ましたのね。待ちくたびれましたわよ!」
その部屋の端にはおそらく魔王だったものがボロ雑巾のように打ち捨てられていた。
そして本来彼が座っているはずの玉座には思いもよらない人物が座っていた。
「…メアリー?」
「お久しぶりですわね。お姉さま♪」
間違いなくメアリーだった。しかし俺が知るメアリーはもっと小さな子供のはずだ。
俺が魔女の城から『卒業』したときから換算しても目の前にいるような成人女性になるとは思えない。
「ほんとにメアリーなの?」
「そうですわよ」
メアリーは腕をうずうずとさせていた。
俺の胸元に飛び込みたいところを我慢しているといった雰囲気だ。
「なにがどうなってるの?説明してちょうだい」
「それはこっちのセリフですわよ!」
「え?」
俺は呆気にとられる。
「お姉さまの勇者ごっこのせいで世界中が迷惑をこうむったんですからね
私はその後片付けをしてたんですわよ」
「なに…言ってるの?」
「お姉さまが魔女の力で救った町や人はすべて滅ぼしておいたし
魔王とか言うしょうもないオッサンも先に処理しておきましたわ」
「は?え?は?」
俺は全く状況が呑み込めなかった。
目の前の金髪の女がずっと俺を慕ってくれていたメアリーとどうしても一致しなかった。
「さ、もう十分でしょ。私と一緒に帰りましょう」
メアリーは玉座からぴょいっと飛び降りると嬉しそうにこちらに近づいてきた。
「や、やめて!!」
俺は思わず叫んでしまった。
その声に呼応するようにメアリーは足を止める。
「お姉さま…」
彼女は少し心配そうな顔をしたあと、打って変わったような満面の笑みで言った。
「大丈夫ですわよ!お姉さまがこの世界を滅ぼすなら私手伝いますわ!」
「なんなの!一体何を!」
ふと俺は彼女の指についてる指輪に気が付いた。
「おまえ…それ…」
「え?あぁ、これ」
彼女はまったく笑みを崩すことなく悪びれずに言った。
「お姉さまが渡す相手を間違っていたので回収しておきましたわ。
変なおままごとで人間のメスなんかにこんな大切なものを預けちゃダメですわよ」
「は?おまえ…グレースは…どうしたの?」
俺は声を絞り出すのがやっとだった。
「え?あの人間のメスならちゃんと処分しときましたわよ」
天地が裂けるような衝撃を感じた。思わず床に膝をつく。
目に映る景色が変色しながらぐにゃぐにゃと歪んだ。
「あぁ、うぁ、あ」
「?」
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺は頭を抱えてその場にうずくまった。
何も考えられない。
そんな俺の様子を見てデイモンドは
「へっ、俺たちのやることは変わんねぇよ!この馬鹿を討伐すればいいだけだろ?」
そういうと彼は腰に付けた大剣を華麗に抜いてみせた。
「ばか!やめろ!!デイモンド!!!」
セーラの制止も空しくデイモンドはおもいっきり大剣をメアリーに叩きつけた。
…叩きつけようとした。しかし今や高レベル魔女となったメアリーにそんな攻撃が効くはずもない。
「邪魔」
メアリーが手首をくるッと回すとそこに炎が生まれ、その炎はデイモンドの方へ飛んでいった。
「うへ?」
彼だってこれまで様々な修羅場を乗り越えてきた歴戦の勇者だ。
しかしメアリーのささいな挙動、それだけの動作で彼の全身は炎に包まれた。
「ぶぎょ!?」
炎に包まれた彼は断末魔をあげた…ということすらなかった。
高火力の炎に包まれた彼は何か声をあげる間もなく真っ黒こげの死体となって地面に崩れ落ちた。
「デイモンド!!!」
「…!!」
モミジもセーラも動揺している。
彼らを救わないといけない。頭ではわかっている。
でも、もはや俺の中に理性は動いていなかった。
「さぁお姉さま。本物の結婚式をあげましょう」
メアリーには魔女の城で地球の知識を教えてあげたりしていた。
だからこそ彼女は結婚式の意味も結婚指輪の意味も知っていた。
それは目の前の彼女が確かにあの日々を一緒に過ごしたメアリーであるということの証明でもあった。
「あぅ…あぁあああ」
地面に嘔吐する。この世界に来てここまでダメージを受けたのは初めてのことだった。
魔女になってから怪我はおろか病気を患ったこともない。
そんな俺が今、地面にゲロをまき散らしていた。
「トール!!!!」
女の大声が部屋の中に響き渡る。
「こいつは私たちが引き留める!お前はここから逃げろ!!!」
「え?」
大声の主はセーラだった。
「こいつの言い分だとお前とこの女が一緒になったら世界が終わるんだろ!!
逃げるんだよ!!!」
「でも」
「いいから行って!!!!」
モミジも大声でそう言った。
彼女たちの眼を見た。死を覚悟したものの目だった。
彼女たちだってメアリーに勝てるとは思っていないのだろう。
「あぅ…あぁあああああああああ!!!!」
俺はその場から逃げ出した。
「あ!待って!!どけよ!おまえらぁあああああああ!!」
背後からメアリーの憤怒するような声が聞こえる。
しかし俺はすべてを無視して走り出した。
城を出る、町を走る、通行人は何事かと振り返るが構っていられない
俺は走り続けた。
街を抜けて、林を抜けて、森を抜けた。
魔女の力で自分が飛べることに気が付いた俺は
やっとこさ空中に浮遊して急いでカンヌグの町へ向かう。
体中がボロボロだった。
身にまとっていた赤いドレス。魔法で破れにくくなっているはずだったが
それすらもいつのまにかいろんなところが破けていた。
眼下にカンヌグの町が見えてくると俺は迷わずに急降下して着陸した。
魔法を使っているところを見られたくないなどと言ってられなかった。
俺は自宅、ドラゴンステーキのお店の前にやってきた。
幸いなことに周りには全く人がいない。
ドラゴンを調達できる俺が不在にしているのだから、店が休みであることに不思議はない。
だが、その建物からはまったく人の気配がしなかった。
俺は転びそうになりながらも慌てて店の中に入る。
中は電気が消えていて、やはりというか営業はしていないようだった。
しかし肉屋ということもあり店内には焼いた肉のにおいが充満している。
「………」
休みなのに焼いた肉の匂いが充満している?
そんなことがあり得るのだろうか。
嫌な予感がした。ゆっくりとキッチンの肉焼き窯に近づいていく。
この大きな窯は俺がグレースと結婚したときに有志たちにお祝いで送ってもらった
いわば記念でもあり二人の思い出のシロモノだった。
勘違いであってほしい。
彼女の思いを無碍にした俺に対するメアリーの悪質なドッキリであってほしい。
そう思いながら窯の扉を開けた。
香ばしい匂いを漂わせた彼女がそこにいた
頭にはトレードマークといえる緑色の頭髪が少しだけ残っている。
しかしそれ以外は何も残っていなかった。
端正な顔つきは今や引きつったような恐怖の表情に歪んでるように
歯をむき出しにして、目をむき出しにして
まるで何かを訴えかけるように
丸焦げの彼女がそこにいた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
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あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
俺は絶叫した。すべてを忘れてただ泣き喚いた。
魔力が暴走している。その気配は感じた。でもそんなことに意識を配れなかった。
ただただ泣き崩れて号哭した。
そして、いつしか俺は気を失っていた。
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