殺戮魔女と閉じた世界のお話

朝霧十一

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第78話 終焉

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飲み屋の周りを警察官が取り囲んでいる。
彼らはバリケードのようなものを作っていた。

「それじゃ」

「はい」

爬虫類の頭をした警察官が俺に合図してきたので俺はそれに返事した。

「解除します」

俺は大きく手を叩いた。

パン!!

俺の周りを空気が駆け足でびゅっと通り過ぎていく。
隣にいた爬虫類警察官は警察帽が飛ばされないように手で押さえていた。
店の中に音の概念が戻ってきたようでガヤガヤといったにぎやかな声が聞こえてくる。
俺は彼と目を合わせるとゆっくり店の中に入っていった。

「あ、な。なんで?」

メルトは憔悴したようにあたりをキョロキョロと見回す。

「君の企みは失敗に終わったということだよ」

爬虫類警察官はメルトの後ろに立ってそういった。

「は?え??」

メルトは事態が呑み込めずに素っ頓狂な声を出した。
状態がつかめていないのは勇者パーティも同じだった。

「なんだなんだ?なにがあったんだ??」

デイモンドの疑問に答える。

「メルトはこの店のお酒全部に毒物を混入してたのよ。
私は急いでこの店内の『空間を停止』して状況を保った。
そして警察に事情を説明して解毒薬を持ってきてもらい
それをみんなに注射した後、再度空間を元に戻したってわけ」

「はぇ…」

デイモンドだけではなくセーラも口をぽかーんと開けていた。
モミジだけはさすがです!と言わんばかりに誇らしげな顔をしていたが

空間停止ついでにメルトの手首に手錠をはめておいた。
彼女からしたらさっきまで優勢だったのに気が付くと手に輪っかが
はまっていたので大層驚いたことだろう。
もう彼女は逃げることができない。

「あぅ…あ」

彼女は悔しいのかなんなのかいまいち読み取れない表情をしている。
汗を流して体を震わせている、目を見開いておりその焦点は合っていない。

「メルト。君を殺人未遂の容疑で逮捕する!」

そういうと爬虫類警察官は手錠をしたメルトの腕をがしっと掴んだ。

「なん、私は…ただ…」

彼女の悔しそうな言葉に彼はため息をつきながら言った。

「はぁ…たとえ勇者パーティの人間どもを抹殺するためでも
他の人を巻き込んでいいわけがないだろ、お前はやり過ぎたんだ」

この男、ナチュラルにヘイト発言をかましてくる。
その台詞を聞いてセーラとモミジは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
デイモンドは鈍感力が強いのか特にひっかかることはなかったようで
平然とした顔をしていたが。

「…だ、や…」

「ん?」

「やだやだやだぁあああああああああ!こんな終わり方認めたくない!許せない!!!」

メルトは体をよじらせてジタバタ暴れ始めた。

「無駄だ!キサマは拘束されているしこの店の外も完全に包囲されているぞ!!」

「そんなぁあああああ、ぐぇええええっきょぉおおおおおひゅううううわぁあああああああ!!」

なにやら変な鳥の鳴き声みたいな奇声をあげて彼女は抵抗している。

「うるさい!さっさと歩け!馬鹿者が!!」

爬虫類警察官は大きく怒鳴るとメルトの頭におもいっきりゲンコツを食らわせた。
彼の声があまりにも大きいもので店中にいる人はみなそちらの方向を振り返った。

「いたぁい…」

メルトは涙目になりながらもやっと落ち着いたようで、しぶしぶと彼に腕を引かれて
店から出ようとしていた。

そして、彼女が俺の隣を通り過ぎるときに捨て台詞を吐き捨てるかの如くこういった。

「チートがあるからってみんなを救えるとは思わないことね」

「…っ」

俺は高レベルチートを授かった。理由はわからない。
でもそれを理由に驕ったことはないと自負している。
少なくとも俺自身はそう思っていた。

…実は違うのだろうか。それともこれは彼女のただの負け惜しみだろうか。

「それじゃあ、我々はこれで」

そういうと爬虫類警察官は俺に敬礼をするとそのまま彼女を外に連れ出した。



とりあえず、これで一難去ったというわけか。

「なんかよくわからないけど、大変だったみたいだな」

デイモンドが腕を組みながら俺にそう問いかけてきた。

「まぁね」

彼は俺の肩に手を置くと続けて言った。

「ま、気にすんなよ。俺たちは勇者パーティだ。道徳家でも宗教家でもない」

「?」

なにがいいたいのだろうか。

「己が突き進む道にはそれの犠牲になる人がいる。それだけの話よ」

「…なるほど」

彼は勇者としてずっと過ごしてきた。今のようなことも多々経験してきたのだろう。
そして、それは自分が勇者である以上仕方のないことと切り捨ててきたのかもしれなかった。

「明日は魔王戦だ。それは変わらない。みんなそれでいいか?」

俺たちは互いに顔を見合わせて、黙ってそれに頷いた。



― 翌日

俺たちは電車に乗ってトークンシティへ向かった。
相変わらず内装だけ見ると現代日本にそっくりである。
電車に揺られること数時間。やっとそれは見えてきた。

トークンシティ

魔界の首都であるこの町はやはりというかビルのような建物が
そこら中に建っていた。さすがに新宿レベルとは言わないが
日本のちょっとした地方都市レベルの建物が立ち並んでいる。

「ふん、こんな高い建物がたくさんあるとは
プローゼ帝国を凌駕してるんじゃないか?」

デイモンドが吐き捨てるようにそういった。
実際のところ、人間界は武力を象徴するプローゼ帝国と治癒を象徴するアルム聖国で
力が二分されているが、武力を持っているプローゼ帝国のほうが建物などは最先端であり
巨大な建物が多かった。しかしここはそれ以上というわけだ。

「ま、俺たちの相手に不足なしってか。これくらいはやってもらわないとね」

デイモンドは首を左右に振ってポキポキ鳴らす。
セーラやモミジもさすがにこの旅の終焉、ラスボス戦を目の前に緊張しているようだった。

「みんな、いつも通りいきましょう」

俺は彼女たちにそう声をかけた。

「そう…よね」

「あぁ」

デイモンドも自信気に言ってのける。

「そうだとも!」



…しかし、そうは言いながらも俺は嫌な予感がしていた。
心がざわつくというか、なにか気持ち悪いものが体を駆け抜けている。
そんな感じがする。

何故だかわからないが俺はこの先の展開を知っているような気がした。
しかしそれを思い出せない。まるで起きているときに夢の内容を思い出せないのと同じ感じだ。


…まぁここまで来た以上はやることは変わらない。

「それじゃあ行こう」

デイモンドの発破ともいえる一言を合図に俺たちは魔王城へ向かって歩き出した。




改めて考えると、こんな現代日本に似た町で魔王を倒しに行くのは
なにか奇妙さみたいなものを感じて面白い。
まるでドラマみたいに悪徳社長や悪徳政治家を成敗しに行くような気分だ。
だからというわけじゃないが、俺は最初はその異変に気が付かなかった。
むしろそれに気が付いたのはこの世界の住人であるセーラだった。

「なぁ、あれおかしくないか?」

「おん?なんだ」

デイモンドがセーラが指さす方向に視線をやる。
馬…に似た生物が魔王城の前にかかっている橋の前で数頭ほどウロチョロと
歩き回っていた。

魔王城は外見は外国の城のような建築をしていたが
その周辺には堀を巡らせていた。この辺は日本の城の建築と似ているような気がする。
もっとも俺は城の建築様式について詳しいわけではないのだが。

とにかく、セーラがおかしいと指摘したのは城の手前
城に入るために堀にかかっている橋のたもとに馬がうろうろしていたことである。
馬は野生というわけではなく、手綱がついていたし鞍もついていた。
鞍には文字が刻まれている。

『POLICE』

「この文字、最近どこかで見たことあるような気がするけど…」

モミジが頭をひねっている。
そう、昨晩みた警察官たちの服装に記載されていた文字と同じものだ。
この世界にアルファベットなんてあるわけないのだが
おそらく『模様』扱いで警察を示すマークとして普及したのだろう。

…つまり、この馬は警察所属の馬というわけだ。

「まさか公職選挙法違反で警察が魔王城に踏み込んだとか?」

一人でそう呟いてみるがもちろんそんなわけはなかった。
しかし実際警察の馬が城の前で放置されているのも事実だ。

「私も騎士をやってるくらいだから馬に乗ったことは何回かある。
仮に用事があってここに来たのだとしたらこんな乱暴に馬を放置したりはしない
馬が逃げたら困るからな。どこかに手綱を結んでおくのが普通だ」

「なるほど…」

セーラはどこか上品さを感じる部分もあったので
もしかしたらどこかの貴族出身なのかもしれなかった。
そんな彼女なら馬の事情に詳しいのもうなづける。

「考えていても仕方ねーよ。とりあえず先に進もうぜ」

デイモンドはそういうとさっさと城の中に入っていった。

「あ!待って。罠があるかもしれないから軽々に動かないで!」

そういってモミジがぱたぱたと彼の後に続く。
俺はセーラを顔を見合わせると、少しだけ肩をすくめて二人の後に続いた。
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