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第69話 酒場

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カンモンの町。


アルム聖国やプローゼ帝国から見ると一番端の地であり
そう言う意味で人々からは「最果ての地」などと呼ばれていた。
まるで極東呼ばわりされている日本のようだ。
なぜ自分たちを中心とした呼称を勝手につけるのだろうか。

しかし、実際に町の中に入ると「最果ての地」にふさわしい景観と
言えなくもなかった。

街は閑散としており、港町ではあるがどこかどんよりとした空気が漂っている。
気温もこれまで寒いところや暑いところを旅してきたわけであるが
この町のそれはそのどちらとも違った。
肌にへばりつくような寒さとじめじめさ。相反するような2つの感覚が
まるでカップルかのように同居している。

「ふぃー、陰気な町だねぇ」

デイモンドはオブラートという言葉を忘れた様にそう言った。

「そうね」

「うん」

セーラとモミジもそれに同調する。

「人っ子ひとり歩いてねぇじゃねーか」

町に着いたのは昼頃だというのに、通りは閑散としていた…を通り越して
誰一人姿を見せていなかった。


「…とりあえず、冒険者ギルドに行くか」


少し歩くと木造の建物が目に入った。
ヨーロッパ風というよりは西部劇に出てくるウエスタン・サルーン(酒場)
みたいな外観をしている。

デイモンドはそこの入り口を思いっきり開けた。

「邪魔するぜぇ」

続けて後から俺とモミジ、セーラが中に入る。

建物の中も町と同じで陰鬱な雰囲気が漂っていた。
どうやら外見の同じくこの建物は冒険者ギルドと酒場を兼ねているようだ。
この世界では珍しいことではない。

店内には4,5人の客がいて、どいつもこちらをギロっとした目で
睨みつけてくる。空気が陰鬱なだけでなく圧迫感も感じる。
俺は若干たじろいだが、そこは歴戦の勇者たるデイモンドたち。
臆することなくカウンターに座った。

酒場の店主が空のグラスを磨きながらデイモンドに声をかける。

「…いらっしゃい」

「うぃーす。オススメはある?」

「………」

そういうと店主は無言でグラスを彼の前に置き、なんかよくわからない酒をそこにそそいだ。

「ん」

どうやら彼は多くは語らない主義のようだ。ひらがな一文字で『こちらになります』を表現した。
デイモンドも特になにも語らずにそれを一気に飲み干した。
店主はそれをみると少しだけ口元を緩めた。

「ふぃー、効くね」

「ウチで一番度数の高い酒だからな」

「そりゃ効くわけだ」

「で?」

店主は改めて俺たちを一瞥すると続けて言った。

「観光に来たわけじゃないんだろう」

「話が早くて助かる。俺はこの先のガンリュー島から魔界に行くために来た。」

「なるほど、君らが噂の勇者パーティということだ」

「そゆこと」

デイモンドは気色悪いウインクを店主に送る。

「ガンリュー島に渡るには船舶ギルドの許可が必要だ。
ギルド長へのアポをとりつけてやるよ」

「あぁ、助かるよ」

話がまとまったところでセーラが言った。

「なんだか町に人が少ない気がするが、どうかしたのか?」

店内の客たちの視線がよりキツイものに変わる気配がした。
背中にひりひりとした視線を感じる。
とはいえ襲い掛かってくることはなさそうだ。

店主はヤレヤレといった感じでセーラに答えた。

「昔からそうだよ。ここの立地を考えてみろ」

「立地?」

「魔界と人間界との境界にある町。といえば聞こえはいいが、ようは
魔界から魔族の侵攻を受けた際に一番最初にダメージを受ける町だ。
こんなところに住もうなんて人間、まともなやつじゃねーよ」

そう言われて改めて店内の客の顔を見てみると
確かにプローゼ帝国やアルム帝国で指名手配されている
犯罪者とよく似た顔のやつがチラホラいるような気がした。

とはいえ俺たちは警察官でも何でもない。
せっかく最果てまで逃げてきた悪者を衛兵に突き出そうなどとは考えていなかった。

「ま、この町は必要ではあるが犠牲になるのはゴメンだってこったな」

「ふん」

そう言うと店主はくるっと後ろを向いた。
もう俺たちと話すつもりはないという意思表示らしい。
デイモンドもそれを理解して

「じゃあな、金はここに置いておくぜ」

というと、小銭をカウンターにじゃらっと置いてその場を立ち去った。



店を出てしばらく歩くデイモンド。お互いに無言だった。
そして角を曲がって店が店亡くなった瞬間

「うぇー、ぐぇぐぇぐぇっ!!」

とデイモンドが喉が潰れたアヒルのような奇声をあげた。

「おい、どうしたんだよ」

セーラがデイモンドの肩に手を置きながらそう聞く。

「アニョーヒャ…」

「は?」

「あの酒キツすぎだろ!素面保つのやっとだよ!」

どうやら彼もやせ我慢をしていたようだ。
どんな時でも勇者であろうとするその姿は彼らしいともいえる。
モミジが手持ちの水筒をデイモンドに渡した。
彼はそれをごくごくと一気飲みした。

「ぷはぁあああああ!うぃいいいいいいいいい」

「ったく、今日のところはいったん引く?」

モミジが呆れながら彼にそういった。

「酒が残ってるようなら今後に支障をきたすからな」

セーラも彼女に同意するようにそういうが

「ういー、大丈夫だ。行こう!」

彼女たちの心配をよそにデイモンドはうっすらと顔を赤らめながらそう言った。
まぁリーダーがこういうのだから仕方あるまい。
俺たちは彼についていくことにした。


船舶ギルド本部。

こちらは先ほどとは打って変わり、日本の雑居ビルのような佇まいだ。
この世界にコンクリートの技術があるのかはわからないが
見た目はコンクリートの雑居ビルそっくりだった。

中に入ると、これまた重い雰囲気の中
木目の机が並んでいる。さすがに中まで日本のオフィスビルを模していたら
びっくりするところだったが、中に置かれていた机や事務用品は
この世界の標準的なものであった。

ところで机の数に対してそこに座ってる人の数は少ない。
その少ない人たちも俺たちは結構な音を立てて部屋に入ってきたのに
誰もこっちを見向きもしなかった。
真正面のあきらかにボスですみたいなところにある机では立派なヒゲの男が
神妙な顔をしながら書類とにらめっこしている。

「………」

こっちが何も言わないでいると

「なんだ?」

彼の方からそう聞いてきた。書類を見ていたからこちらに気付いてないのかと
思ったがどうやらそういうわけではないようだ。

「ここの責任者に会いたい」

「ふん、アポはあるのか?」

「おいおい、俺は勇者デイモンドだぞ」

せっかくさっき冒険者ギルドでアポを取り付けた手間を一瞬で無駄にしやがった…
彼は臆することなくヒゲの男と会話を続ける。

「なるほど、おめぇが噂の人妻寝取りクズ勇者か」

デイモンドは少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。
お下劣な真似してるからこうなるんだと。
しかしヒゲの男はそれを気にする様子もなく話をつづけた。

「俺が責任者だ」

「は?」

「文句あるのか?」

「いや、その手の役職の人は執務室とか別に部屋があるイメージだったからな」

「社長室はあるが、作業するときはみんな一緒にやる。当然だろぉ?」

そういうとヒゲの男は初めて書類から目を外してこちらを見た。

「そんで、なんのようだ?」

「ガンリュー島に行きたい」

「だろうな」

そういうとヒゲ男はふんと鼻を鳴らす。

「船を出してくれ」

「いいぜ。といいたいが…」

「なんだよ。またお使いミッションでもあるのか。ウンザリだぞ?」

まぁ確かにこれまでの旅ではそういうことが度々あった。

「ガンリュー島に行くには政府の許可証が必要なんだよ」

「政府って?」

「カンモン町全域政府だよ」

ヒゲの男の言葉に俺はモミジの方をちらっと見る。
モミジは少し肩をすくめるポーズをして説明してくれた。

「カンモン町はガンリュー島だけでなくいろんな島が町の領域になっています。
それらをまとめて法律の施行や税金の徴収を行うために、中央政府のようなものが
あるんですよ。だから名前こそ政府とついてますが規模としては町役場と変わりません」

「なるほどね…」

デイモンドは思い出したかのようにカードを取り出した。
暗黒教団の連中がくれたカードだ。

「…!お前さん。これをどこで」

「拾ったと言ったら?」

「嘘つけ」

「もちろん嘘だよ」

「…」

「………」

ヒゲの男は根負けしたといわんばかりに深いため息をつくと

「わかったよ、俺が直々に船を出してやる。あんな危険なところに部下はやれないからな」

「恩に着るよ」

「ただこれから出向すると向こうにつくのが夜になる。明日の朝に出航だ。いいか?」

「もちろん、構わない」

「それと」

「…?」

「船乗るときはそんな酒の匂いぷんぷんさせるんじゃねーぞ」
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