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第63話 国王
しおりを挟む砂の国「バーシュ」
前日はかなり砂嵐がひどかったが今日はとてもいい天気だ。
砂漠の国ということもあってむしろ服に汗がへばりつく。
俺たちはバーシュ城の前にある喫茶店で衛兵の報告を待っていた。
店員さんの持ってきてくれたサンドイッチに舌鼓をうつ。
おいしい。俺は勝手に砂漠の国なんかグルメには疎いだろうと
先入観を持っていたが、この町に入ってから食べるものは美味しいものが多かった。
「さてさて、状況を整理しようか」
デイモンドがそういった。
「まず俺たちの目下の目標はこの国の国王であるフラット国王に面会すること」
「えぇ」
モミジが相槌をうつ。
「理由はバーシュ国王のフラットが俺たちが魔界に行くために必要な最後のアイテム
『金の鍵』を所持しているからだ」
そう、これで銅の鏡、銀のドアノブ、金の鍵の3つが揃うことになる。
「思えば銅の鏡は魔女が、銀のドアノブは魔物が、金の鍵は人間が持っているというのも
なにか意味深なものを感じるわね」
セーラがそう呟いた。まったくそのとおりだ。
以前に聞いた話だと、人間界と魔界を隔てるバリアは魔族が敷いたものではないとのことだった。
それを踏まえてあえて別々の種族にアイテムを持たせている。
つまるところ、これは世界の均衡を図っているに他ならなかった。
もうここまでくると薄々予想はできる。
そのバリアを張ったのは十中八九魔女だ。おそらくクロウかそれに近しい人間だろう。
彼らはこの世界のバランスを保つことに執着していた。
俺もその意味が分からないほど子供ではないつもりだ。
だからこそ、今から勇者パーティがやることについて
俺はどういう結末を迎えるのか全然想像がつかなかった。
魔女は、クロウは
魔族が全滅しても構わないと思っているのだろうか?
それとも勇者パーティが返り討ちにされると思っているのだろうか?
俺はあくまで補助要員だ。俺が魔王を倒すことは許されていない。
映画館でポップコーンでも食べながら映画鑑賞するかのように
ただ近くで戦いを傍観することしかできない。
とはいえ俺の考えでは魔族や魔王に攻撃された際に彼らを引き連れて人間界に戻るくらいは
役割として許されるはずだ。
いくら傍観者の立場とはいえ目の前に一緒に旅した仲間が死ぬところをむざむざと眺めていたくはない。
そもそも俺はレベル9万で確かに敵なしではあるが、俺を超える強者が魔物側にいないとは限らない。
そういう意味では、すべてが未知数なままなのだ。
そんなことをぼんやり考えていると城の方からさきほどの衛兵が速足で店の方へとやってきた。
「おい、キサマ。キサマは勇者デイモンドで間違いないな?」
「そうだが?」
デイモンドは爪楊枝のようなもので歯の隙間をほじりながら衛兵に対して横柄にそう答えた。
「国王様が面会を許可された。一緒に来てもらおう」
「うぃ~、やっとこさかよ」
ブッ
デイモンドはイスから立ち上がるのと同時に屁をこいた。
「くっさ!やめろよ」
セーラがそれに抗議する。
「生理現象だよ、許せ」
デイモンドはヘラヘラと笑っていた。
周りに他の客がいなくてよかった。
もしいたら絶対に白い目で見られている場面であっただろう。
「よし、それじゃあついて来い」
そういうと衛兵は俺たちを国王のところへと案内した。
―バーシュ城 玉座の間
「よく来たな、勇者よ」
そういうと神経質そうな顔をした男が俺たちを出迎えてくれた。
出迎えたと言っても豪華な椅子の上から声をかけてきたにすぎないが。
なかなか大層で厳かな雰囲気の中、デイモンドはそれを気にも留めずに国王に言った。
「あぁ、まちくたびれたぜ。俺がここに来た理由はわかってるよな?」
国王に対してフランクに話しかけるデイモンドに部屋の脇にいた騎士らしき男が
少し表情を歪ませた。今にも切りかかってきそうだがそれをフラット国王が手で制止した。
「うむ、まぁわかっておるよ」
「それじゃあ話は早い。世界平和のために協力してくれないかい?」
「うーむ」
国王は顎に手をやってすこし思案しているようだった。
そして彼は言った。
「金の鍵。これは必要な時に必要な人物に渡すようにと言われて預かっているものだ」
俺は疑問を口にしてみた。
「それは誰から預かったんですか?」
気のせいかもしれないが、国王はやや自嘲気味な笑みを浮かべて言った。
「先祖代々から受け継いできたものだからな。誰から貰ったものなのかは
ワシも把握はしておらん」
「そうですか…」
「ワシはただの人間だからな。お主のように悠久の時を生きているわけではない」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
「どういう意味です?」
「お主は魔女なんだろう?」
国王は何ともなしにそう言ってのけた。
その言葉に周りの騎士たちがざわめき立つ。
腰に付けた剣に手をやっていた。さすがに抜刀こそしていないが。
「おいおい、わかってると思うが抜刀したら戦争だぞ?」
デイモンドもこれまたポーカーフェイスなのか
いつものようにヘラヘラした笑みを浮かべながら周りにいる騎士たちに聞こえるようにそう言った。
国王もそれがわかっているのか
「落ち着け、お前ら」
と騎士たちを窘めた。
「もし彼女がその気ならそもそもワシらは生きていない。強引ではあるが手続きを守って面会に来た
つまり争うつもりはないと考えていいのだろう?」
「えぇ、そうね」
国王に言われて半ば促されるように俺はそう言った。
ただのアリバイ作りでしかないと思うが、一応はそれで納得した体で
騎士たちは腰につけている剣から手を離した。
とはいえ殺気は維持されたままだ。警戒は解いていないというところだろう。
「話を戻そう」
国王はそう言って話をつづけた。
「この鍵はその昔、ワシの御先祖様が魔女から受け取ったものだ」
「やはりそうですか」
「おそらくその魔女は今でも生きているのだろうが、ワシとついぞ相対することはなかった」
国王は少し息を吐きながら言った。ため息というよりはなにかを整理しながら
言葉を紡いでいる。そんな感じがした。
「この鍵はご先祖様が受け取った時に『その時』がきたら必要な人にそれを渡してほしいということで
継承されてきたものだ」
「今がその時だぜ?」
デイモンドが国王に言う。
「まぁ待て、若いの」
国王はそばにいた秘書と思しき男に対して顎で合図した。
秘書はデイモンドに一枚の紙切れのようなものを手渡す。
「…?これは」
「鍵はすぐに渡しても良いが、こういうのは建前が必要だ。だろう?」
「俺にはそんなもんはいらんが」
「ワシにはいるんだよ」
デイモンドと国王は押し問答のような言葉のキャッチボールを続ける。
「どのみち、そちらの魔女さんが怒り狂って城ごと大殺戮を繰り広げるというのでないのなら
ワシの話を聞くしか方法はないはずだ。違うかね?」
国王の目の奥がギラリと光る。
見た目はヒョロヒョロの優男といった風貌だが、国王をやっているだけあって
芯がしっかりした男である。
「言ってみろ」
デイモンドも観念したのかあっけなくそう言った。
国王は満足気…というわけでもなく淡々と話の続きをはじめた。
「バーシュ砂漠にはたくさんの遺跡が眠っている。というのは知ってるかね?」
「えぇ、ここに同行してくれたハワード博士がそのようなことを言ってました」
モミジがそういった。
「ハワード君か、ちょうどいい。彼にも同行してもらおう」
「というと?」
「この近くに民間人立ち入り禁止の大型の遺跡が存在するのだよ
そこを調査してほしいんだ」
国王の言葉にデイモンドが嘲笑混じりに言う。
「おいおい、そんなのそれこそ学者センセの仕事だろう?俺たちは勇者パーティだぞ」
「……なのだ」
「なに?」
「その遺跡、不可解にして不審。そして危ういのだ。もしかしたら魔族の侵攻なんかより
よっぽど危険なものが眠っているかもしれん」
「そんなものあるとは思えないけどな」
そういって鼻くそほじりながら楽観的な表情を浮かべるデイモンドとは裏腹に
俺は少し心にざわつきを覚えていた。
俺がこの世界に来る2年半前に行方をくらました自衛隊の戦車群がそこには存在した。
さすがに戦車は朽ち果てており今使える状態とは言い難い。
だが、もし類似のなにかがあるのなら…
つまり、この世界の常識や知識では正体不明だが
俺から見ればとんでもないものがこの『異世界』に漂着している可能性はあった。
どうやらこの依頼、受けざるを得ないようだ。
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