殺戮魔女と閉じた世界のお話

朝霧十一

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第62話 起床

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―翌日

太陽が窓から光を照らす。
カーテンは閉めていたが隙間から俺の顔にめがけて
強烈な日射光を浴びせてきた。
瞼を貫通するような痛々しい光で俺は目を覚ました。

「んんん…!!」

上半身を起こすと思いっきり背伸びをする。
ぐきっと背中の骨がなった。
今の俺は黒髪の少女の姿になっている。
別に下世話な話をするつもりではないが、この少女はそこそこ胸が大きい。
そういうこともあって、男の時とは違い少し体が重いような気持ちになる。

ベッドから足を下ろす。ホテルに用意されていたネグリジェはそこそこ着心地がよかった。
最初は着るのに抵抗感があったものが、いざ着てみるとなかなかいいものだ。
俺はその姿のままカーテンをしゃっと開けた。

窓の外には一面に砂が見える。
砂の町に来たんだなぁと実感した。
俺たちの泊ったホテルは10階建てでデイモンドはスイートを要望したものの
さすがに飛び込みで高級ルームをとることは叶わなかった。
結局デイモンドは8階の部屋、俺とモミジ、セーラは4階の部屋にチェックインすることになった。

窓から下を覗いてみると、ホテルの従業員らしき人たちがせっせと働いている。
箒をもって中庭の落ち葉をかき集めているようだった。
ふと、まだ10代前半くらいであろうと思える白服を着たボーイを目が合った。
男の子はこちらをみると、一瞬ぎょっとした顔をして顔を赤らめて視線を逸らした。

「?」

俺が不思議に思ってると

「ちょっと!トール。そんな恰好でウロチョロしないで!」

セーラが焦ったように言う。
あぁ、そうか。今の俺は女の子の姿だったんだ。
この姿で窓際にいるのは破廉恥…ということなのだろう。
基本脳筋で男勝りなセーラにそんな指摘をされてしまうとは思わなかった。
セーラは窓にカツカツと近寄るとしゃっとカーテンを閉めた。

そういったセーラもまたネグリジェを着ていた。
というkこの部屋にいる3人ともが今日はネグリジェをきて就寝していたのだ。
大剣や杖などの武器こそ手元に置いてはいるが、そのほかの衣服は
バーシュ砂漠を踏破する際に砂で汚れてしまったので
ホテルのクリーニングに出していたのだ。
ただ全部出してしまっては外に出られなくなってしまうので
かろうじてモミジが一番汚れていない普段着を一着だけ用意していた。

モミジはその普段着に着替えると俺達に言った。

「それじゃあみんなの服を受け取ってくる。着替えたら食堂に集合して
今日の計画を練りましょう」

そういうとモミジは部屋を出ていった。

「はぁ、やれやれ」

セーラがベッドにばたんと座り込んだ。

「ごめんなさい。あまりこの格好には慣れてないのよ」

今の俺はもはや女言葉を使わないように意識することもなかった。

「まぁいいさ。不思議なもんだよ。いつもは私の方がパーティ仲間に
女であることを意識しろ!って怒られる側の立場なんだけどね」

そういうとセーラは少し可笑しそうに笑った。

「そういえばセーラは」

「ん?」

「なんでデイモンドについていこうと思ったの?
なんとなく彼と貴方じゃ性格が全然違うように思うんだけど」

「あぁ」

セーラは少し視線を上に向けていった。

「あいつはあんなんだけど、あれでも勇者なのさ」

どういうことだろうか。勇者特権の話をしている。
…ようには思えなかった。

私の疑問を感じ取ったらしくセーラは先を話してくれた。

「私が住んでいた村を魔族が襲撃してきたことがあってね
いろいろひどかったもんさ、顔見知りの爺さん婆さんが
ただの肉片になってるんだからね」

「………」

俺は返事を返すことができなかった。
まだ俺はこの世界に来てそういうシビアなめにあったことがない。
生半可な気持ちで返事をすべきではないと思った。

「ふふ、あとは言わなくてもわかるだろ?
その魔族を退けたのが勇者デイモンドだったってわけだ」

「なるほど」

「それから私も修業を積んで強くなった。国王から勇者パーティに参加するように
言われたときには喜んだものだよ」

「今は?」

「今だって後悔はしてない。私たちのやってることは確実に世界をよくしているんだからな」

そういうものなのだろうか。
実際勇者に実績があるからこそ勇者特権などが認められるのだろう。
そういう意味ではデイモンドが好き勝手出来るのも彼の強さの裏返しなのかもしれない。

そしてそういう意味では俺自身だって例外ではない。
俺そのものはともかく、俺が自由に旅をすることを強引に了承をとれたのは
クロウを含む魔女たちに強大な力があったからだ。

と、その時部屋のドアが開いた。

「服、持ってきたよー」

モミジが俺たちの服を持ってきてくれた。




しばらくして、1階の食堂でデイモンドと落ち合った。
4人で丸机を囲むように座る。
するとデイモンドはは給仕の女性にニチャアと気色悪い笑みを浮かべてウインクを投げかけた。
女性は顔を赤らめてキッチンの中に入っていった。

…こいつ、またやりやがったのか

「こほん、それじゃいいかしら?」

俺はあえて彼のキモイ笑みを無視して話を始めることにした。
朝食にトーストと地元名産だというスクランブルエッグを食べながら今後の計画を練った。

「バーシュの町は「町」とついているが実質バーシュ国といっていい。
周辺のバーシュ砂漠はバーシュ国のテリトリーで、この国はフラット国王が治めている」

「じゃあそのフラット国王に会うのが直近の課題というわけね」

「そういうことだ」

そういうとデイモンドは牛乳をぐいっと飲んだ。

「国王にはどうすれば会えるの?」

モミジの質問にデイモンドは答えた。

「勇者が来た!って城に詰めかければいいさ」

「冗談だろ?」

「ん?面会希望で3か月や半年待つのか?それこそ冗談だろ」

セーラの言葉をデイモンドは笑い飛ばした。

それからいろいろと話し合ったが
結局のところ、有効な代案は見つからずにとりあえず城に向かうことになった。



「ここから城まではそこそこ距離があるらしい」

そういうとデイモンドはどこで調達してきたのか
ラクダ(のような生き物)を用意していた。

「2頭しかいないように見えるんだが?」

「おーっと、こりゃ仕方ねえな、2:2で分けて乗ろうじゃないか」

それが狙いか…
結局、ラクダに乗った経験のない俺がデイモンドの後ろで抱き着くような形で
2人ずつに分かれて城へ向かうことにした。

「ふふひ」

パカパカと歩いている道中、俺の前にいる男から
気色の悪い声が漏れてくることもあったが俺はあえて無視をした。

それから1時間ほど移動して、やっとこさ城のような建物が見えてきた。
城はインドとか中東でよくみかけるような形式の建物だ。
イスラーム建築とでもいうのだろうか。
城の入り口には当然のように衛兵が門番をしている。

デイモンドはそれに少しも臆することなく彼らに近づいていった。

「うぃーっす、お仕事ご苦労」

「なんだお前は?仕事中だ。失せろ」

「そう邪険にするなよ、俺はこの中に用があるんだ」

「頭おかしいのか?入れるわけないだろ」

「ふふ、こいつを見な」

そういうとデイモンドは勇者証を衛兵に見せる。

「…?これがなんだ」

プローゼ帝国でもアルム聖国でもない外国で勇者証など何の役にも立たない。
だがどうやら彼にとってもそれは百も承知だったようだ。

「勇者デイモンドがきた。国王にそう伝えろ。それまで俺たちはそこで待ってるよ」

そういうとデイモンドは近くにある喫茶店のようなところを親指で指し示した。

「…」

衛兵は怪訝そうな顔をしながらも

「わかった」

といって門の中に入っていった。門の中から代わりの衛兵が出てくる。
さきほどの衛兵と比べて少し若かった。
後退衛兵はこちらを一瞥すると緊張した面持ちで門の前で直立した。

「ふっ、それじゃ俺たちはあそこで一休みしようぜ」

俺たちはデイモンドの提案に従って門の前にある喫茶店風の建物で休むことにした。

「こんなのでうまくいくのか?」

「いかなかったらその時に別の方法を考えればいいさ」

奥から店の人がパタパタとやってきた。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

俺たちは少し早めの昼食をとることにした。
さきほど朝食を食べたばかりではあるが仕方あるまい。
サラリーマンと違って旅人はどうしてもメシの時間が不安定になるものだ。










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