殺戮魔女と閉じた世界のお話

朝霧十一

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第58話 歴史

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― オスカーの町を出発して数日後


道中モンスターを倒したり野宿をしたりして
俺たちはセーヨの町にたどり着いた。

「ういーっす。じゃあここからは別行動で」

そんなことをいうデイモンドに俺は釘をさすように言った。

「いや、一緒に行動しなくちゃダメでしょ?」

「なんだよ、嫉妬か?」

デイモンドはじっとりとした目付きでこちらを見てくる。
今の俺は黒髪ロングの少女の姿だった。
オスカーの町でドムに警告を受けたのもあるが
俺はここから先の旅はこの姿でいようと思っている。

この姿の時は確かに魔力現象は抑えられるし、男の姿の時は擬態という魔法を使った状態で
別の魔法を使うことになるのだから、本当にフルで魔法を使おうと思うのならば
この状態の方が適しているといえる。
しかしその反面、デイモンドが気持ち悪い目つきでこちらを見てくることが増えた。
セーラやモミジはこれに耐え続けていたのかと思うとある種の尊敬の念すら覚える。

「ここから先はいよいよ危険なエリアに突入するんだろう?しっかりと備えておいた方がいい」

「そうよ」

セーラがそう言ってデイモンドを窘め、俺もそれに追随するように同意した。
というのも、彼が前にこの町で最後の女漁りをするぜなどと放言したのが原因だった。
別に他人の女漁りなんて俺には関係のないことのはずだが、なんだかとても不愉快な気持ちになってしまう。
まぁ今や俺も既婚者だ。NTR好きのクズを許せなくなるのも当然といえば当然だろう。

そんなことを考えながら俺は自分の薬指を眺めた。
メビウスに作ってもらった結婚指輪だ。
グレースと俺が近くにいるときに石を撫でたら光るように設計されている。
俺は何となく指輪を撫でてみた。当然光るはずもない。

「ふふ…」

俺は思わず笑ってしまった。
グレースは一体今頃何をしているのだろうか。
変な奴に付きまとわれていないだろうか。仕事はちゃんとできているだろうか。
そんな思いにふけっていると

「ったくよぉ、わかったってーの」

デイモンドの言葉で我に返った。

「そんじゃま、まずはやるべきことをやりますか」

「やるべきこと?」

デイモンドの言葉にセーラが問いかける。

「あぁ、バーシュ砂漠は広大だからな。この町で案内人を探さないといけない」

「あぁ、そういえばそんなことを言ってたな」

「俺としては儚げな感じのおっぱいの大きな美人だと嬉しいんだが」

デイモンドが気色の悪い要望を出してくる。
まぁ、男としてはわからないでもないが。

「黙れボケが、案内人としての優秀さが最重要だとわからないの?」

モミジがキツめにデイモンドにつっこんだ。

「わ、わかってるよ、冗談じゃないか」

デイモンドは苦笑いしながらモミジにそう言い返した。
ポーテム山で俺の正体が明らかになってからというもの
モミジはデイモンドに対してキツくあたるようになった。
おそらく俺をフォローする意味合いもあるのだろう。

「しかし、案内人なんかどこで探せばいいんだ?」

セーラが人差し指を顎につけてそういった。
確かに、案内人を探すといってもどうすればいいのだろうか。

「おいおい、忘れたのか?」

デイモンドはニチャアと笑みを浮かべながら言った。

「俺たちは冒険者パーティだぞ?」





― セーヨの町 冒険者ギルド


ということで、俺たちは冒険者ギルドまでやってきた。
ここまでギルドにほとんど頼らずに冒険を続けていただけに
ギルドを使うという発想が全く浮かばなかった。
こういった対応策がすぐに出てくるあたり、デイモンドもその辺は
さすがに旅慣れしているというところだろうか。

セーヨの町の冒険者ギルドは他の町と同様に飲み屋と併用みたいな形になっていた。
元地球人としてはなんでギルドみたいな役所じみた組織と飲み屋が一緒の場所に
あるのかよくわからなかった。
地球のイメージでいうとギルドといえば同業者組合みたいな要素が強い。
そんなところに飲み屋があるのがやや不可思議に思える。

まぁ世界が違えばルールが違うのかもしれない。
実際のところギルドの案件というのは掲示板のようなボードに
張り出されており、その張り出された紙を受付に持っていくことで依頼を開始するシステムだ。

しかし、ハローワークと違っていつどんな依頼が張り出されるのかは完全に運だ。
ギルドの依頼でメシを食っていこうと思うのであればこうしてボードのあるところで
張り込んでいたほうが確実というわけだ。そこから飲み屋に発展していったのかもしれない。

さて、ギルド受付には残念ながら4人ほどすでに並んでいた。
何かを尋ねるにしても少し時間がかかりそうだ。やれやれ…

と思っていたら

「邪魔するぜ」

デイモンドはそんなのお構いなしに列に割り込んで先頭に立った。

「おい!オッサン。後ろに並べよ!」

「頭いかれてるのか!?」

当然、非難の言葉が飛んでくる。

「あの…後ろに並んでもらわないと困ります」

受付嬢ですら苦笑いしながらデイモンドにそういった。
しかし彼はそれすら意に介さずといった感じでなにやらバッジのようなものを
取り出して受付嬢と後ろに並んでる人たちにそれを見せつけた。

「おいおい、これを見ろよ
俺は勇者だぞ?留置所で臭い飯食いたくないならひっこんでな」

「ぐ、ぐぅ…」

こんなところでも意味もなく勇者特権を発動しだす。
まったくこの男は。
しかし、ここまでやらかした以上もはや後ろに並びますなどといえるはずもない。
この場はクズ御一行様の悪名を被るほかはなかった。

ふとセーラやモミジの方を見てみる。
セーラはごく自然な光景といわんばかりに腕組をしてデイモンドを眺めていた。
モミジはなにかニヤニヤしている。

「まったく、トール様にお手間をとらせるなんてありえませんよね」

「いや…私は…」

私は。のあとに何の言葉を続けていいのかわからずに俺はそのまま沈黙した。
俺たちのそんなしょうもないやりとりをよそにデイモンドは
さっさと用件を済ませたようだ。

「おーし、聞いてきたぜ」

「早いな」

「遅いよりマシだろ、見直したかい?」

デイモンドが気色の悪い下手糞なウインクをこちらに投げかけてくる。

「うっぜ」

モミジが彼の尻に向かって軽く蹴りを入れた。

「ぐえ!なんだよ!俺がかわいこちゃんにばっかりかまけてるから嫉妬してるのか?」

「黙れお下劣ポコチン野郎が」

下品な言葉が飛び出してきた。俺は思わず言った。

「おいおい、女の子がそんな言葉を使うもんじゃないぞ」

「でも、こいつが―」

「それより!!!」

セーラが大声をあげた。

「状況を教えてくれ、案内人はどうなってる?」

どうやらうまいこと流れを断ち切ってくれたようだ。

「あぁ、ちょうどいい案内人がいたよ。あいにくの男だけどな」

「ほぅ」

「歴史学者でバーシュ砂漠にも何回も行ってるらしい。明日の出発で同行してくれるそうだ」

「そうか…」

俺は不思議に思ったことを聞いた。

「なんで歴史学者が砂漠に何回も行ってるの?ただの趣味かしら」

俺の疑問に俺以外の3人はきょとんとした顔でこちらを見つめてきた。

「ははは、ずっとカンヌグの町にいたからしらないのか」

「なるほどね」

セーラとデイモンドが可笑しそうに笑いながらそう言った。
モミジも少し笑みを浮かべながら俺に教えてくれた。

「バーシュ砂漠は歴史的遺産がたくさん眠ってるんですよ」

「歴史的遺産?」

「えぇ、砂漠という環境ゆえにあそこにあるものは人の手が付けられていないのです。
ほとんどは砂だらけですけど、道中でいくつも過去の遺物が残っていたりするんですよ
中には千年前のものや二千年前のものもあります」

「へぇ…でも二千年も砂漠みたいな熱帯に放置してたら痛みが激しいんじゃないの?」

「特殊な魔術で経年劣化やダメージを無効化している遺物もありますね」

「なるほどね…」

俺の時間停止魔法みたいなものか。
今回はバーシュの町に行くことが目的ではあるが、もし機会があったら
そういった遺物とやらもみてみたいものだ。

とりあえず、明日案内人と合流してバーシュの町に向かうことが決まり
俺たちは冒険者ギルドを後にした。

………ギルドにいた人たちの刺すような視線が背中にグサグサとダメージを与えてきた。
俺は無駄だと知りつつも中に一礼をしてからドアを閉めた。

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