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第42話 その頃彼女は
しおりを挟むやっとこの時が来た。
私は意気揚々と彼女の部屋の前で足を止めた。
ドアをノックする。その音もどこか軽やかに思える。
「どうぞ」
私は彼女の返事を聞いて部屋の中に入った。
「何のようだい?と、聞くまでもないね…メアリー」
私…メアリーはこの瞬間を待ち続けていたのだ。
本来ならもっと早くに外に出ることはできた。
でもそれじゃダメなんだ。
「私、この魔女の城を卒業しようと思います」
「ふむ…」
彼女…クロウはせっかくのおめでたい出来事だというのに
どこか顔を曇らせていた。
といいつつ実は理由はわかっている。
私だ。
トールお姉さまが城を旅立ってから5年が経過した。
そう、5年だ。
本来、魔女は成長が遅い。一定のところまで成長すると
発育が止まってしまう。だからこの世界の魔女は外見が人間でいう
20代~30代の者が多い。
そんな中、私はたった5年で大きく成長した。
金髪のロングヘアで胸も大きく育ち
どこからどうみても一人前の女性といった風貌だ。
それに見た目だけではなく、レベルも3万を突破していた。
そう、これがクロウが面白くない顔をしている原因だ。
この世界の人間を殺しつくしたところでレベルが3万も行くはずがない。
それではなぜ私がこんな高レベルになれたのか?
それは私は『流転の魔女』だからに他ならない。
当時はみんなから『セーブの魔女』と呼ばれていた。
クロウが異世界から呼び寄せたグッズの中に『携帯ゲーム機』なるものがあって
それに似たような機能があったから、そこから名付けたらしい。
でも私は『セーブの魔女』よりも『流転の魔女』という名称のほうが気に入っていた。
能力はそのまま携帯ゲームの機能と同じようなものだ。
回帰地点を予め決めておくことで、任意のタイミングでその地点まで戻ることができる。
ただし、携帯ゲームと違うのは戻る際は戻る前の状態が引き継がれるという点だ。
例えば朝の10時に回帰地点を設定しておいて13時に出かけ、出先でいきなりの土砂降りの雨に降られたとする。
しまった!傘持ってこればよかったなと10時の時点に戻ったとしてもびしょぬれの状態のまま
10時の世界に戻るだけなのだ。
一見保守的な機能で攻撃には向いてなさそうだが、私はこれは使えると思った。
レベル上げには経験値の取得が必要不可欠だ。
そしてこの世界で一番経験値を得る方法は『魔女を殺害すること』
だからこそ、人間どもが弱い魔女を狩って経験値を手に入れて喜ぶという
クソみたいな風潮が存在するのだ。
そう。
私は魔女の城の連中を殺しまくった。
リンゼイもクリスも、その他の連中もお構いなしだった。
殺してはリセットして元の時間に戻る。
やられそうになったら元の時間に戻る。
そういったことを繰り返すことで、最速でレベルを上げることができたのだ。
もっとも『観測の魔女』であるリンゼイは私のことを訝し気に思っていたようだが
彼女が察知できるのは状態異常や催眠の類だ。私のは本当に時間をさかのぼっているから
そもそも観測ができないはずなのだ。
それでも異常に気付けるのは観測の魔女の特権というか性質といったものだろうか。
とにもかくにも、私はレベル3万になった。
これでレベル9万のお姉さま以外誰にも負けることはなくなった。
私は思わず顔をほころばせた。
「お姉さまは私とずっと一緒にいると約束した。それで城の外に出て行った時は
最初は裏切られたと思たの」
「うむ」
私の独白にクロウが相槌を打ってくれる。
「でも、よく考えてみたらあれはお姉さまなりの優しさだったんじゃないかって」
「うむ?」
「レベル9万のお姉さまの周りに弱い私が張り付いてたら迷惑でしょ?
それに、優しいお姉さまのことだから私が攻撃されたりすると気に病んでしまう
だからこそ、あえて自分から遠ざけて私を守ったのよ」
「…?? ま、まぁそうかもな」
クロウは玉虫色の返事をした。納得はしてないようだが別に構うものか。
「今の私はレベル3万。お姉さまの隣に立つ資格があるはずよ!」
「それは…」
クロウは何かを言いかけて口をつぐんだ。そして代わりの言葉を紡ぎ出した。
「一応言っておくが魔女同士の殺し合いは禁止だぞ」
「わかってるわよ、ちゃんと守ってるじゃない」
守ってなかった。でもクロウにそれを証明する術はない。
別の時間軸ではクロウには何回も殺されかけたが
この世界では私は人畜無害な大人しい魔女でしかないのだ。
…無論、クロウは科学者だ。そんな私の欺瞞を見抜けないはずがない。
おそらく私が殺戮の限りを尽くしたこと。その方法くらい想像がついてるだろう。
それでも彼女に私を咎める術はない。
「卒業は認めるが……そもそもトールが今どうしてるのか知ってるのか?」
「えーっと、確か人間の町でおままごとやってるんでしょ?」
「おままごと?」
「うん、結婚ごっこ。結婚式の招待状が来たときには死ぬほど腹が立ったけどね」
「あぁ…つまり彼女はもう既婚し…」
クロウが言い終わる前に私は被せるように言った。
「トールと本当に結婚するのは私なのに何を勘違いしてるのやら」
クロウは私から視線を逸らした。
その意味が分からないわけではないが、私は察していない体で話をすすめた。
「つまり、お姉さまはしょうもないビッチでお人形ごっこしてるだけなのよ
私との新婚生活の予行演習だったら嬉しいのだけど、おそらく何の意味もないわよね」
私は深いため息をついた。
「あの人は意味もなくそういうことをする人なのよ。勝手にごっこ遊びを始めたかと思うと
後片付けもせずにそれを放り出す。滅茶苦茶ね。…でもそこが好き」
私はニヤリと微笑んだ。クロウは相変わらずこちらに視点を合わせようとしていないが
おそらく今の自分はとんでもなく邪悪な顔をしているのだろうなと自覚していた。
「でも大丈夫!これからは私が隣にいるからね。お姉さまが抜けてる分
私がしっかりしないと!」
どんどんと期待で話を進める私にクロウは言った。
「トールは今、勇者一行と魔王討伐の旅に出てるぞ」
私は手で顔を覆いながら言った。
「ほらぁー!言ったそばから!」
「なにがだい?」
「魔王討伐の旅?魔王ってこの城の北にいるレベル1000程度のおっちゃんでしょ?
何が討伐の旅よ!お姉さまなら日帰りで済むお話じゃない!」
「魔女が人間、魔族の特定の勢力の大きく肩入れすることは禁じられている。
あくまでトールは勇者の補助という立場だから認められたに他ならないんだよ」
「つまりお人形遊びでしょ?勇者とか言う雑魚を使って魔族とかと戦わせて喜んでる。
あの人は狂いすぎなのよ」
「…そうかなぁ?」
「そうよ、だからこそ私がちゃんとそばにいてあげないと!
あの人を放置していたらどんどん不幸になる人が増えるでしょ?」
「…そうかも??」
クロウは疑問形ながらもやっと少しだけ納得したようだった。
「それで、君はこれからどうするんだい?」
「まずはお姉さまの不始末を後片付けしていかないと」
私はやれやれといった思いでそういった。
「不始末?なにをするつもりだね」
クロウは警戒しながらそう聞いてくる。
「まずはカンヌグにいる妻とかいうやつをなんとかしとかないと」
「なんとかって…トールの妻だぞ!?危害を加えるつもりか?」
「わかんない」
「わかんないって…」
とりあえず実際にそいつに会ってからどうするか決めよう。
自分が弄ばれたことを知ってどこかに消えてくれるなら見逃してやってもいい。
私はお姉さまのような狂気の殺戮者ではない。できるだけ穏便にことを済ませたいのだ。
「とりあえず、そのグレースとかって女に会ってみるかな」
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