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第39話 寄生種
しおりを挟むターミアの町の外れ
そこは古戦場といった感じの場所で周りには何もなく
やだ古臭い城がぽつんと点在しているだけだった。
魔女のアエキジェンヌはその城に陣取って生活をしていた。
彼女は典型的な魔女といった感じで、顔立ちは妖美で柔和なのに
どこか冷たいものを含んでおり人を寄せ付けない雰囲気を持っていた。
シルクのドレスを好んで着用しており、トンガリ帽子をかぶっていた。
この世界の魔女でトンガリ帽子をかぶってる人は実はそこまで多くないのだが
彼女は自分が魔女であるということに誇りを持っていたので、あえて
魔女をアピールする意味でそういったアイテムを好んで使っていた。
彼女が住むこの城はもともとは数百年前に魔族と人間とで大激戦があった際に
使われていたものだが、今のように戦いは続いているが膠着状態みたいな時代になると
城は役目を終えたとばかりに放棄されることになった。
それをありがたく『再利用』させてもらったわけだ。
ところでアエキジェンヌが人々から『寄生の魔女』と呼ばれるのには理由があった。
彼女は魔法で『種』を飛ばすことができる。
勢いよく飛ばされた種は人やモンスターなど種別を問わずに体内に取り込まれ
体内に侵入した種はそれこそ寄生虫のように体を蝕み「肉体」を変化させるのだ。
どういうことかというと、例えば木材化の種を人間に飛ばし、体内にそれを潜り込ませると
その人物の肉体が徐々に変化し、最終的には木材人間となってしまう。
そうなると喋ることはできないし、そもそも脳も心臓も木材になってしまっているので
それはただの「死」でしかなかった。
同じように金の種や銀の種、石の種などいろんな種類の変化の種があり
それを司るのが『寄生の魔女』アエキジェンヌというわけだ。
今日もアエキジェンヌは優雅にワインとステーキを食べて昼食をとっていた。
ターミアの町を襲撃したときにその辺の民家やレストランから奪ってきた物資だった。
「うまうま。ふぅ」
彼女は一口ワインを飲むとそれを机の上に置いた。
…机は裸の女が四つん這いになっており背中に板をのせている銅像だった。
そう、アエキジェンヌは人々を『家具』として使うことが大好きだったのだ。
机もイスも洋服掛けもこの城にあるありとあらゆる家具が実は『元人間』だったのだ。
もはや彼らの声が再び聞こえてくることはないが。
「そろそろ新作の入荷の頃合いかなぁ」
アエキジェンヌがそう呟くと、ちょうど良いタイミングで部屋の扉が開いた。
「お嬢様。失礼します」
そういったのは淀んだような緑色の肌、とがった耳をした
『デーモン』と呼ばれる魔族だった。
魔族は基本的に人間並みの知能を有しており、彼は執事の服を着ていた。
アエキジェンヌは魔族を使役していたのだ。
それは別にクロウの定めた魔女のルールに違反するものではなかった。
むしろ、人間世界では魔女は迫害されることも多いのだから
魔族と共謀する魔女がいてもおかしくないだろう。
「新しい人間を入荷してきました」
彼がそういうと魔女はニヤリと笑った。
彼女は配下の魔族に町を襲わせて人間をさらったり物資を奪ったりしていたのだ。
「お、待ってたのよ。今回はどうだったの?」
デーモンはニヤリと笑った。
「豊作ですよ」
「いいねぇ」
彼女はワインに再び口をつける。
「ターミアの町は結構家具にしがいのある人間が多くて好きよ」
「そうですな。お嬢様のためにある町ということだと思います。
おい!こっちにこい!」
そういうと、デーモンは手錠でつながれた男女を乱暴に彼女の目の前に差し出した。
「うーん…」
アエキジェンヌは品定めをするように彼らをジロジロと眺め出した。
「そこの女」
「はい!?」
アエキジェンヌは女の方に声をかけた。
その女は整った顔立ちをしており、世間一般でいう「美人」に相当するといってもいいだろう。
「服邪魔」
彼女がゆびをパチンと鳴らすと、デーモンは彼女が着ている服をはぎ取った。
「キャア!!いや!やめてよ!」
恥ずかしさからか怒りか彼女の顔は真っ赤になっている。目尻には涙が浮かんでいた。
「うーん…」
ひとしきり悩んだそぶりを見せると
「読書灯だね」
アエキジェンヌはそういうと強引に彼女の口に手を突っ込み何かを飲み込ませようとした。
種である。通常は銃弾のように素早く種を発射して体にめり込ませて肉体変化を行うのだが
そう言った真似をしなくても口から種を飲み込ませれば事足りるのだ。
「や、やめ、グエッ」
抵抗する彼女に対して、魔法を駆使して強引に口を開かせて種を体内へと送り込んだ。
「あぐ…あぁ」
女は苦しそうに呻きだす。
「最近、読書するときに暗いなぁと思ってたのよ
この城って陰気臭いじゃない。だから貴方みたいな
太陽のような女性が光の代わりを担ってくれたら嬉しいなって」
「おい!お前!なにやってるんだ!!」
連れてこられたもう一人の男が大声で怒鳴る。
「この人は?」
「彼女と一緒にいたのでついでに連れてきました」
「てめーら!何言ってやがる。ただじゃ済まさないぞ!!」
アエキジェンヌは大きなため息をついた。
「うーん、別に私は家具は女限定と決めてるわけじゃないんだけど
この人からはどうにもインスピレーションが湧かないのよねぇ」
本当に困ったといった感じで首をかしげる。
「だ、だから何を言ってる!」
「グェッ、グェッ」
そうしている間にも連れてこられた女は倒れて痙攣し始めた。
よく見ると足元が銅に変化している。
「おっと、ちゃんとポージングを考えないとね、エイ」
アエキジェンヌが近くにあった小さな杖を手に持って上にすっと振ると
女は手を前に差し出した状態で微笑みを浮かべた。
しかし相変わらず目からは涙が流れている。
強制的にこのポーズをさせられているのは明白だった。
「やめろ!彼女を離せ!」
魔女は冷たく言い放った。
「この人は廃棄処分で」
「はっ」
そういうとデーモンは男を引き連れて地下へ続く廊下へと消えていった。
「うーん、今日はいい家具が手に入って気分いいわね
こんな立派な加工ができるとか私ってば職人肌よねぇ」
自画自賛するアエキジェンヌを微笑みのまま表情が固定されている女は
何も言えぬまま睨みつけていた。
アエキジェンヌはまごうことなきサイコパスだった。
そして、これがある意味これが魔女の自然な姿だったともいえる。
と、その時彼女のいた食堂の扉が勢いよく開いた。
気分よく食事を再開していたアエキジェンヌは怪訝そうにドアの方を向く。
「なにごとよ?」
さっきのとは違うデーモンの執事が大慌てといった感じで食堂へと飛び込んできたのだ。
「勇者パーティがターミアの町にやってきてるそうです!」
「勇者パーティ?あぁ、あの雑魚でしょ。どうでもいいわよあんなの
連れの女は家具にしても良さげだけど、そこまで価値があるわけでもないし」
アエキジェンヌはレベル800の魔女だった。
勇者デイモンドのレベルは400前後、もちろん彼らはパーティを組んでるのだから
単純にレベルだけで判断できるようなものでもないが、それでも
彼女が油断するには十分なレベル差だった。
「あの、それが」
「なによ」
「魔女トールが勇者パーティに随行しています」
「ブーッ!!」
アエキジェンヌは飲みかけていたワインを盛大に噴き出した。
思わず椅子から立ち上がって叫ぶ。
「ななななな、なんですって!?」
彼女はそれまでの妖美で冷たい表情ではなく、かなり慌てた表情に変わった。
これまで氷のようだった彼女の顔に今は大粒の汗がいくつも浮かんでいる。
「どうしましょうか。」
「どうって、そんなの、アンタ…」
彼女はイスにどかっともたれかかり頭を手で押さえた。
「でも同じ魔女同士なんですよね?そこまで問題あるのですか?」
部下のデーモンがアエキジェンヌに尋ねる。
「オオアリよ!あいつはレベル9万越えの魔女よ。レベル9万を超えてるってことは
頭のねじが吹っ飛んだやばいサイコパスなのはほぼ確定よ!」
トールはさきほどまでサイコパスムーブをかましていた魔女にまでそんなことを言われる始末だった。
アエキジェンヌの手はかすかにふるえていた。
「やつが何を目論んでるのか知らないけど、ここは穏便に去ってもらわないと!」
「どうするんです?」
「と、とりあえず城内の人間家具を隠すわよ!!人間を家具にするなんて許せないとか
わけのわからない理由で殺されたらたまったもんじゃないわ!!」
「で、でも魔女同士の殺害は禁止されてるんじゃ…」
「あいつがそんなルールをきっちり守るマジメちゃんであることを祈ってろとでも!?」
「そ、そうですね。それにトールさんといえば人間界にまぎれて生活してるってことで有名ですし
人間側に肩入れしてる可能性は高いかも」
「トールが来るまでどのくらい時間はあるの!」
「あと1日ほどかと」
「すぐに城内の模様替えよ!!」
アエキジェンヌは勢いよく椅子から立ち上がった。
…と同時に呟いた。
「…クソ」
彼女は勢いよく立ち上がったはいいもののテーブルに手をついてその場で硬直した。
それを見て部下デーモンは聞いた。
「どうしたんです?」
「……替えのパンツをすぐに用意しなさい」
トールに対する恐怖というのはそれほどのものだった。
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