殺戮魔女と閉じた世界のお話

朝霧十一

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第20話 合格

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後日、俺は冒険者ギルドのギルド長執務室に呼び出されていた。
執務室はギルドの建物の最上階にあり、皆からは「ボス部屋」などと呼ばれていた。

この日まで俺は仕事をすることはなく、怒涛の勢いで消えていく銀貨を
ため息混じりに見つめては、部屋でゴロゴロする生活を送っていたのだが…
はたして冒険者証は手に入るのだろうか

俺がドアをノックすると中から「どうぞ」と声がかかった。
執務室に入ると、応接机のようなものが部屋の中にあって
声の主にそこに座るように促された。

「それでは失礼します」

俺はサラリーマンだった時の経験を活かし、失礼がないように
注意を払いながら席につく。
(もっとも椅子に座る程度のことにサラリーマンスキルもクソもないが)

部屋の中には俺のほかに二人いて、机は4人掛けだったが
俺は片側に一人で座り、対面に二人が座る形となった。
二人のうち一人は先日俺のテストを行った試験官だ。
もう一人は立派なひげを蓄えており、結構なご高齢にも関わらず
肉体もムキムキで迫力のある男性、ギルド長のアルゴだった。

「さてと…」

アルゴは俺の方を向きながら言った。

「君の試験結果は確認させてもらったよ」

「そうですか…」

「なぜ、自分が呼び出されたか心当たりはあるかね?」

「………」

ないといえばウソになる。俺の正体は魔女なのだ。
百戦錬磨の試験官がそれを見破っていても不思議ではない。

とはいえ、自分からその情報をゲロるのは下策だと思った。
とりあえず、相手がどの程度の情報を把握してるのか確認しなくては…!

「なんのことかさっぱりわかりませんね」

俺はポーカーフェイスを決め込んでそう伝えた。

「そんなに緊張することはないぞ、君は別に連続殺人犯というわけではないのだろう」

自分で思ってるほどポーカーフェイスになってなかったようだ…
俺は少しガックリしながら彼の言葉に答えた。

「そりゃ…まぁ。人殺しの経験はありませんが…」

なにかしらのカマをかけてきたのはうっすらと理解できたが
どういう意味のカマかけなのか俺にはよくわからなかった。

「もしかして、冒険者ギルドに入ると人を殺すこともあるとか…?」

「ん?まぁ、確かに盗賊討伐や海賊討伐任務を受諾したら
人を殺すことになるかもしれんな」

「………」

さすがに任務とはいえ人を殺すのには抵抗感がある。
いや、ぶっちゃけ嫌すぎた。

「君は人を殺したくないクチなのかね?」

「えぇ…まぁ」

これはマズったか?よく漫画や映画で見かけるように
『人を殺める覚悟もないやつが冒険者になろうなんて笑止千万!』とか
そういうお叱りの言葉が来るのかもしれない。

だが俺に予想に反して、アルゴはこう言った。

「まぁ、人を殺したくないって冒険者は結構多い。
よその冒険者ギルドはしらないが、ウチはその辺も
きっちりと配慮して運営を行っているから安心していいぞ」

「そうですか…」

俺はひとまずほっと安堵した。
しかし、それなら先ほどの質問の意味がますますよくわからない。

すると、横で俺たちの話を聞いていた試験官が

「君はこのギルドに入ってなにがしたいとかあるのかね?」

と聞いてきた。まるで就職面接だった。
どうするべきか、俺だって缶詰会社に入社したくらいだから
それなりに地球で就活の場数は踏んでいた。
可も不可もない回答など無限に思いつく。

だが…

「いえ、特には考えていませんね。とにかくお金が必要なので
こちらに応募いたしました」

地球で就活セミナーの講師が聞くと怒り狂いそうな回答をあえてしてみた。

「ふむ…」

試験官は顎に手をやって考え込む。

「君のキャリアプランとしてはどう考えているのかね?」

アルゴは俺に問いかける。

「特に何か決めてるわけじゃないですけど、とにかく地道に稼いでいきたいと思っています。
将来的には稼いだお金を元手に世界中を旅したりとか新しい商売を立ち上げたりとか」

「新しい商売?」

「私は前に保存食を作る関係の仕事をしてましてね、そのスキルがこの町でも
生かせないかと思ってるんですよ」

「んーーーー」

アルゴは何か唸っている。
少し考え込んだ後

「まぁ仕方なしか。認可する」

そういうと、彼は一枚のカードを取り出してきた。

「君は才能があるようだが、とりあえずはみなと同じEランクからのスタートとする」

「Eランク…ですか」

「あぁ、依頼成功とか任務達成とかを重ねるとどんどんランクが上がって最終的にはSランクまで上げることができる」

アルゴの話に追加するように試験官は言った。

「当然ランクが上の任務・依頼は難易度や危険度が高い。その分報酬も高めだ。
Eランクともなると…まずは雑用的な任務からだな」

まぁそれは当然の話だった。
俺だって新人1年目から幹部対応を望んでいるわけではない。

「ただ、モンスターの討伐や採取の類は一応依頼受諾時はランク分けされているが
仮にDランクの冒険者がBランクのモンスターを討伐した場合。ちゃんとBランク並みの
正規の報酬が与えられることになっている」

アルゴの言葉に試験官はヤレヤレといった感じで言った。

「だからこそ、ランクに見合わない無茶なことをするヤカラが年々増加しているわけだが…」

アルゴと試験官は二人して俺の方をチラリとみると

「君に関しては特に心配はなさそうだな」

「むしろ積極的に上位ランクに挑戦してくれたまえ、ガーハッハッハ!」

アルゴは豪快に笑った。俺も苦笑いでそれに応える。

「話は以上だ。今日は会えてよかったよ」

アルゴが握手を求めてきた。俺はその手をがっちり掴むと
『今後よろしくお願いしますよ』という願掛けも込めて力強く握手した。




さて、ヒゲのオジジ×2との圧迫面接が終わり、無事冒険者証を手に入れることができた。
俺はさっそく1階にあるカウンターで受付嬢に話しかける。

「いらっしゃいませ、ご用件は?」

受付嬢は顔をニヤニヤさせながら俺に聞いてきた。
顔を合わせたのは数回だが、俺が冒険者証を手に入れたことをすでに知っているようだった。

「じゃじゃーん」

俺はもったい付けて冒険者証を提示する。

「ワー!スゴイ!」

受付嬢は棒読みでそれを喜んでくれた。

「ふふふ」

「はははは」

お互い少し笑いあった後、本題に入った。

「さてと、Eランクでも受けられる依頼はあるかな?」

「もちろんです。ランクごとに掲示板に貼られている依頼用紙を
私まで持ってきていただいたら依頼を受理いたします」

そういうと受付嬢は平手で壁の方向を指し示した。
そこには紙が乱雑に貼りつけられた掲示板らしきものがあった。

「ありがとう」

「どういたしまして」

俺は受付嬢と礼のやり取りをすると、さっそく掲示板を見てみることにした。

「ふーむ…」

『家の雑草抜き 推奨ランク:E 報酬80』

『ホームゴーストの退治 推奨ランク:E 報酬200』

『マメマメ洞窟の探検補助 推奨ランク:D~E 報酬160』

『下水道のメリュネズミの駆除 推奨ランク:E 報酬140』


宿屋の看板娘、アヤメが言ってたように
冒険者ギルドには様々な依頼が舞い込んできているようだった。

「ん?」

俺は乱雑に貼り付けられた紙の群れの中から一つ気になる依頼を見つけ出した。

『メメントドラゴンの討伐・部位採取 推奨ランク:D~E 報酬300』

この世界ではドラゴンという名前がついていても地球でいう「龍」のことを
必ずしも指し示すわけではない。
もちろん、龍も存在するのだが、それよりは龍にあやかった他の生物の名前であることの方が多かった。
このメメントドラゴンも、地球でいうところの鹿によく似た生物であった。
正直どの辺にドラゴン要素があるのかはわからなかったが、まぁ…角とかだろうか?

だが、俺がこの依頼に目をつけたのはメメントドラゴンという名前にそそられたからではなかった。

『依頼主:ドラゴンステーキレア 店主グレース』


これは受けるしかなかった。

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