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第17話 無計画

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さて、景気よく城を飛び出したはいいが
実のところ


ま っ た く の ノ ー プ ラ ン


だった。

地球にいたころの缶詰会社勤務の知識を生かして
いくつかの保存食はつくって持ってきているから
2、3日は食うものには困らないが、それだって
この先無限に続くわけじゃない。

まったくの無計画ではあるが、方角としてはカンヌグの町を目指していた。
町に行くだけなら徒歩でも2、3日あれば到着することはできる。
だが、俺は町に入るための通行証を持っていない。
まずはそれをクリアする必要があった。

「うーん、考えていても仕方ない」

俺は特に何も考えずに町の方に歩き出した。


数時間ほど歩いているとあたりが暗くなってきた。
太陽もお休みをする時間のようだ。
俺は持ってきていた荷物からキャンプ道具(のようなもの)を取り出す。
野営装備一式というやつだ。
城にいたころに先輩魔女たちにこういったサバイバル関係のノウハウも
教えてもらっていたことが役に立った。

テントを張って、焚き木になりそうなものを集めて魔法で火をつける。
火の上に鍋を置いてお湯をつくり、固形状にしておいたスープにそれを溶かした。

「ふぅ…」

温かいスープを片手に空を見上げる
すっかりあたりは暗くなっており、星がキラキラと輝いていた。

「わぁ…」

思わず声を漏らす。
東京じゃこんな空を見ることはできない。
俺は自分の意思で仕事を辞めたわけではなかったが
この星空を見るとなんだかすべてを許せるような気持ちになった。

その日はテントの中で星空を眺めながら眠りについた。




翌日、キャンプ道具を収納して再びカンヌグの町に向かって歩き出した。
ここまでは魔女の城からの通りで人通りも少なかったため
正直歩きにくい道であったが、やっと少し大きめの道に出ることができた。
この道は数は少ないが商人も行き来するだ。
人が行き来している分、土も踏み固められており歩きやすくなっていた。

「そんじゃま、行きますか」


そしてそのまま数時間ほど歩いてると、前方で戦闘の気配がした。
実のところ俺は敵を察知する能力が他の魔女たちに比べて著しく劣っている。
理由は後述するが、そんな俺でも気づくことができるほど激しい戦闘が行われているようだった。
一体どんな陣営がなんの理由でバトルしてるのかわからなかったので
俺は気配を殺しながら様子をうかがうことにした。


見てみると、3台ほどの馬車がありそのうち1台は横転しているようだ。
馬車を引いてきた馬は無事なようだが、その周辺で何も出来ずにオロオロしているといった感じだ。
肝心の戦闘はというと、どうやら森の中でゴブリンが群れで襲い掛かってきた。
ということらしい。
商人の護衛をしていたと思しき鎧を着た騎士が必死にゴブリンを剣でなぎ倒していく。
一方のゴブリンも数がものすごく多い。何匹やられてもかまうことなく騎士たちに攻撃を仕掛けていた。
パッと見た感じゴブリンの数は百を超える。それに対して護衛側は4人程度だ。
ゴブリンは力強い生き物ではないが決して馬鹿な連中でもない。
ゴブリン100匹と人間4人という組み合わせは人間側の戦闘力にもよるが
基本的には同等、むしろ状況によってはやや劣勢といった感じになる。

「グギギギギ」

なにやら声を発しながら木の上からコブリンが弓で人間を撃とうと狙っていた。
仕方ない。

俺は腰から剣を取り出すと思いっきりそれを木に叩きつけた。

「グギョ!?」

木の上で照準を合わせていたゴブリンは衝撃で体勢を崩してそのまま木の下に落下した。

ゴキョ!

首から落下したようで鈍い音とともに体が変な方向に降り曲がってそのまま息絶えた。

「グゲゴォオオ!?!?!?」

今の騒音でゴブリンたちに伏兵がいることが知れ渡ったようで
ゴブリン語(あるのかはわからないが)で仲間たちにそれを伝達しているようだった。
こうなりゃ最後までやるしかない。

俺は茂みから飛び出すと護衛の4人がいるところに加わった。
考え方によっちゃ茂みに隠れたままヒットアンドアウェイでゴブリンを
攻撃する方が賢いに決まっているのだが、戦況を見た感じ
この4人は既に怪我や疲労がたまっており、連携が崩壊するのも時間の問題だった。
ここは4人を5人にして陣形を整えたほうが、最終的な勝率は増えるだろうと判断してのことだった。

実際、俺はサバゲーの経験もないし自衛隊相手の商売をしていたとはいえ
そんな専門スキルはまったくなかったので自分の行動が正しかったのかはわからないが
クロウ曰く俺は最強の魔女らしい。こんな困難でも切り抜けられるという謎の自信があった。

「助太刀するぞ!」

俺はニヒルなイケメンボイスで護衛達に言った。
護衛達も俺の意図をすぐに察したようで

「感謝する」

といい、お互いに背中を守るように陣形を組みなおした。
ゴブリンたちも思わぬ戦力の乱入に一瞬たじろいたが
それでも構わぬ!といったふうにこちらに襲い掛かってきた。

本当は炎魔法や爆裂魔法で丸焼きにしてやるのが一番手っ取り早いが
この世界での魔法の立ち位置はあまりメジャーではない。
せっかく偽装指輪で妖美な感じのイケメン男性に成りすましているのに
正体が魔女だとバレてしまってはすべてパーだ。

俺は自分の身体能力を向上させる魔法だけみんなにバレないように付与すると
目の前に迫ってきたゴブリンを5匹いっぺんに横から切り裂いた。

「す、すげえ…」

護衛の一人が俺の攻撃を見て感嘆の声を漏らす。

「まだまだ来るぞ!気を抜くな!」

俺がそう声をかけると、護衛達もやる気を取り戻したように
ゴブリンたちに攻撃を仕掛けていった。


数分後、半分以上のゴブリンが肉片と化したのを見て
さすがのゴブリンも割に合わないと感じたのか

「グギギギギィイイイ!!」

と悔しそうな声をあげるとそのまま森の奥へと撤退していった。

「…」

「……」

「………」

「ぶはぁあああああ!」

護衛の一人の大きなため息を皮切りに、みんな肩の力を抜いた。
いわゆる『緊張が解けた』というやつだった。

「ふへへへ、今回ばかりは死ぬかと思ったよ」

「まったくだ」

「アンタ、ありがとな」

護衛の一人が俺にそういった。

「困ってるときはお互い様だよ」

「へへ、人がいいねアンタ。それに腕がたつ」

「あぁ、さっきのゴブリン5匹切りは爽快だったぜ!」

「あぁ、ありがとう」

すると、馬車の中から立派なひげを蓄えたおじさんがひょっこり顔をのぞかせた。

「お、おわったぁ?」

おじさんは恐る恐るといった感じで護衛達にそう尋ねる。

「えぇ、とりあえず状況は終了しました」

護衛のリーダーと思われる人がおじさんにそう伝えると、おじさんは安堵したように
その場にへなへなと座り込んだ。

「よかったぁ…」

「とはいえ、ゴブリンどもが仲間をつれて再襲撃してくる可能性もあります。
すぐにこの場を離れるべきでしょう」

「そ、そうだな!」

「なぁ、ここまで手伝ってもらってて悪いんだが…」

護衛の一人が親指で倒れた馬車を指し示す。

「乗り掛かった舟だ。もちろん金はだす…おやっさんがね」

護衛はひげおじさんの方を向きながら言った。
ひげおじさんは難色を示すかな?と思っていたが
むしろ快く

「もちろんだ。受けた恩は返すのが商人。だから…」

「えぇ、わかりましたよ」

俺は苦笑した。
まぁ彼らにしたら命の恩人である俺にこんなことさせるのは申し訳ないという思いも
あったのだろうが、疲労がたまっている護衛4人より俺も含めた5人で
これをやったほうがいいというのは当然の判断だろう。

「せーの!」

俺たちはひっくりかえっていた馬車を合図とともに正位置に戻した。
(正確には馬車の貨物部分ではあるが、商人だけあってかなり大きめのカゴだった)

ガシャン!

という音で馬車が元の位置に戻る。ひっくり返った衝撃で手綱は切れてしまったようだが
馬自体は無事で不安げな表情をしながらもこちらの様子をうかがってウロウロしていた。
どうやらゴブリンの襲撃を免れたようだ。
というかそもそも、ゴブリンにとっては馬も戦利品にしようとしていたのだろう。
あれだけの攻撃だったのにどの馬も怪我をしていなかった。

俺は改めて馬車の点検を行う。
他の馬車は無傷であったが、ひっくり返った馬車は車輪の一部が破損しているようだった。

「しゃあねぇ…ここで会ったのも何かの縁だ」

俺はみんなから見えないように陰で固有魔法をかけた。
折れた車輪の部品の一部を元の用途が果たせるように『停止』させた。
もちろん、永久に魔法を効かせるわけにもいかないので
町につくまでの応急処置ではあるが…

町についたらその時に限界がきて潰れたということにすればいいだろう。

「どうだ?馬車は動きそうかい?」

護衛の一人が声をかけてくる。

「あぁ、大丈夫そうだ。それで…なんだが」

俺は今の自分の境遇を説明した。

「カンヌグの町に向かっていて通行証がない。か」

ひげのおじさんは気前よく笑った

「ハハハ!ちょうどいい!我々もカンヌグの町に向かっていたところなんだ。
通行証のことは任せてくれい!」

そういうとおじさんは自分の名前を名乗った。

「ワシはカンヌグの町で商人をしているジェレミーだ。よろしくな!」

彼は豪快にそういうと俺の手をつかんで握手をした。
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