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第12話 風呂

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本来魔女には風呂を浴びるという行為は必要ない。


それというのも魔女の基本魔法に「洗浄魔法」があるからだ。
特定のものを痛んだり壊れたり汚れたりするのを防ぐ
「防護魔法」や「維持魔法」は固有魔法になり使える魔女も限られてくるが
体の汚れを落とす程度のことはどの魔女も行うことができる。

というか、そもそも魔女はなぜかあまり汚れることがないのだ。
理屈は不明である。汗をかいたりしないわけではないが
それがベタベタしたり臭くなったりすることがあまりない。
(あまりというだけで、少しはベタつくが)

そんな魔女たちの集まりである「魔女の城」に大浴場が設置されているのは
ひとえに管理者のクロウが大浴場を欲しがったからに他ならない。
仕組みはよくわからないが地下から水を引いており24時間いつでも
温かいお風呂に浸かることができる。
日本人としてはこれほどありがたいことはなかった。
なんかよくわからない少女の姿になっても
やはり日本人としての本能や習慣はそう変わるものではない。



夜の時間を狙ってきたからか、大浴場には誰もいなかった。
(たまに1,2人いることはあるが、さすがにそこは大目に見てもらいたい)

体をお湯で洗い流して今日一日のことを思い返してみる。

外出先の町の飲食店にいたグレース…
彼女の笑顔がどうにも忘れることができなかった。
自分でも自覚できるほど顔がニヤついてるのがわかった。

と、その時


「お・ね・え・さ・まー!!!!!」


バチャバチャと浴室の床の水しぶきを足で跳ね飛ばし
何者かが後ろから飛びついてきた。
何者か?決まってる

「コラ!メアリー!離れなさい!!
あと、どさくさに紛れて胸を揉むな!」

俺はメアリーの頭を手でつかんで引き離した。

「つれないですわね」

「そういう問題じゃないでしょ!」

メアリーは俺の隣の洗い場にちょこんと座った。
もちろん、当然のように全裸である。
とはいえ、クロウやセブンスみたいな『お姉さん』って感じの
魔女が相手なら俺もドキドキするところだったが
メアリーのようなちびっこが相手だとそういう気持ちも起こらなかった。
近所の子供を相手にするようなもんである。

「というかメアリー、こんな時間まで起きてちゃダメだよ!」

俺はメアリーを軽く叱る。

「でも、お姉さまが大浴場に入るのが見えたんだもん!」

答えにもならないようなことを彼女は述べた。

「やれやれ、お風呂に入ったら早く寝るのよ」

「はーい」

彼女を相手にしてると自然と口調が女言葉になってしまう。
まぁ、この半年でそれにも結構慣れてきてしまった。

「それで…」

メアリーは少し間をおいて言った。

「街でなにかありましたの?」

「え?」

俺は唐突な質問にドキッとした。

「なんでそう思うんだい?」

「なんでって、そんなニヤニヤしてたらその辺のカカシだって
なにかいいことでもあったのかな?って思いますわよ」

メアリーは頬を膨らませながら言った。
本気で怒ってるわけではなく、自分に黙ってなにか『イイコト』を隠している
俺に対して、少し意地悪を言ってるといった感じだろう。

「あぁ、そういうことね。実は出先でおいしい食べ物屋さんに連れて行ってもらってね」

「え?」

「そこでおいしいステーキを食べたよ」

「ええええええええええええ!いいなぁ!!」

彼女は今度は少し羨望したような上目遣いでこちらを見てきた。
やれやれ、表情が忙しいやつだ。

「ま、これは大人のご褒美ってやつよ」

「えええ!ズルイですわよ!!!」

「ま、その代わりお土産を買ってきてやっただろう?」

「それはそうですけど」

「ま、街でのグルメは大人になった時の楽しみに取っておきなさい」

俺はメアリーの頭をポンポンと撫でた。

「はーい」

メアリーは不貞腐れたように言ったが、とりあえずは納得したようだ。





―が、さらに半年後(俺がこの世界に来てから約1年後)

「じゃあ、次の買い出しはセブンス、トール、リンゼイ、クリス、メアリーの5人で頼むよ」

クロウがそういうのを聞いて俺はびっくりして聞き返した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「ん?どうした?」

クロウが聞き返してくる。

「どうしたじゃないですよ。俺や他の3人はともかくメアリーを外に連れて行くのは危険では?」

クロウは少し考えるそぶりをしてから改めて返事をする。

「んー、大丈夫じゃないか。セブンスや君もいるし、リンゼイやクリスも城の中じゃ
インドア派ではあるけど、そこらへんの賊相手に遅れをとるほど弱くはないからね」

「しかし」

俺が難色を示していると、当のメアリーから抗議を受けた。

「なんですの!お姉さまは私がいると嫌なんですの!??」

「いや、そういうわけじゃ…」

メアリーの勢いに思わずたじろいでしまう。

「まぁいいじゃねーか」

と、セブンスが言った。

「むしろガキ連れのほうが警戒されにくくなるしよ」

「ま、まぁ俺だって別に大反対ってわけじゃないけど…」

以前、城で勉強している際にこの世界には魔物なるモンスターが生息しており、
街の外ではそいつらがウロチョロしているので
警戒をしないといけないと教わった。
普通の商人たちは安全で整備された街道を使う以外の場合は
基本的に冒険者などを護衛で雇うのが通常だという。

前回のメンツにしても今回のメンツにしても冒険者などに偽装したメンツを入れてないのは
冒険者は任務達成後に冒険者ギルドでそれを報告し報酬を受け取るというシステムが
あるかららしい。村人には偽装できても公のデータと結びついている冒険者を
詐称するのにはリスクが伴う。
だから前回は『安全な街道』を通ってきた村人という設定で街に入ったわけだ。

ともかく、それだけ町の外は危険であるし、実際のところ俺たちは
『安全な街道』どころか世界が怖がる『魔女の森』を抜けてきたわけだ。
だが、その割に俺たちはモンスターとやらに1回も出くわさなかった。
以前ケイに聞いたところによると、魔物も魔女が怖いから滅多に魔女のテリトリーには
降りてこないとのことだった。加えて魔女の森にいる有害な魔物については
ケイが定期的に始末してるらしかった。

だからというわけではないが、今回メアリーがついていくとしても
それほど危険なことはないのかもしれない。

「わかりましたよ…」

「まぁ、そう心配するな。そもそもメアリーも魔女だぞ?
変なヤカラ相手に遅れをとることはないさ」

「そうですね」

それでもいざとなったら、俺が身を挺してこの子を守らないといけないだろうなとは思った。
大人として子供を危険なところに連れ出すなら当然の義務だろう。
そんなことを考えていると

「っていうか、私は別に行かなくてもいいんですがぁ…」

白衣を着たリンゼイがまだ出発もしてないのにすでに疲労困憊といった顔で
手を挙げていった。

「ダメだ。今回お前をメンバーに入れたのはその出不精を叩き直すためだ!」

「えええええ…」

リンゼイは心底嫌そうな顔をしていた。
まぁ普段研究ばかりで試合にもあまり出てこないくらいなのだから
この反応は至極当然ともいえる。

「そのためにお前の気心が知れたメンバーにしてやったんだから、たまには外の空気を吸って来い!」

「はーい」

リンゼイはトボトボといった感じで馬車に乗り込んだ。
後ろからクリスがそれをなだめつつリンゼイの後に続いて馬車に乗る。
まったくこの二人は仲がいいもんだな

「お姉さま。私たちも行きましょう!」

「ま、そうだな」

考えていても仕方ない。せっかくの外出なんだし
メアリーにもいろいろ外の世界に触れてほしいと思った。


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