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入社
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「すみません、ちょっと良いですか?」
ドアをノックし入ってきたのはエリーナだった。
「キール殿、エリーナさんが来ましたよ」
寝ているキールを起こそうとラーファが声を掛けた。
「あ、用があるのはあなた、ラーファさんなのです」
エリーナはキールを起こさないように少し声を抑えた。
「え?私ですか?」
「はい、単刀直入に申し上げますと、ラーファさんにウチへ入社していただけないかと考えまして、そのお願いに来たのです。」
エリーナはラーファをまっすぐ見つめた。
「え、でも私この会社で何も成果を上げてないですよ?付き人生活も基本本を読んだり、魔法の練習をしたり、言ってしまえば何もしてないですが・・・」
ラーファはここ1週間のことを思い出すも、浮かんでくるのは穏やかに流れた時間ばかりであった。
「それは、心配に及びません。おそらく社長が試していたのは悪魔討伐の方だと思われます。」
キールが言っていたのは「有用性を示せ」会社にとって一番大事な要素をラーファは示していたのだ。
「では、付き人生活は意味なかったと?」
肩すかしを食らったようで、ラーファの頭の上に「?」が浮かんだ。
「そういう訳ではございません。付き人生活でラーファさん自身が得られるものがあったはずです」
エリーナは優しく微笑み、寝ているキールを見た。
「たしかに・・では、悪魔討伐では何を?」
何がと問われれば答えることはまだ出来ないが、確かに何かを貰った。ラーファはそう感じていた。
「それは勿論、強さです。私どもは自分で言うのもどうかと思いますが、王都の企業の中でも大きめの会社です。その分信用がとても大切で、仕事に失敗は許されない状態となっております。ですが大きい分、他が受けられないような配達の仕事が舞い込みます」
少し間を開けて、饒舌に話し出したことから、エリーナが本心で大事にしているということが分かった。
「強くないと仕事をこなせないということですね」
「はい、その通りでございます。そして先日の悪魔の討伐にて大きな功績を残したラーファさんは十分にその資格を有していることになります。」
「いえ、私は何も・・」
「ご謙遜なさらず、既に多くの冒険者から証言を得ております」
「実は、あのときのこと良く覚えていないんです。だからもう一度そのときのように強くなれるのか分からないんです」
ラーファはありのままの考えを伝えた。
「そうですか・・・でも、大丈夫でしょう」
エリーナは数瞬顎に手をあて考えた後、あっけらかんと受け入れた。
「え?大丈夫なのでしょうか・・・」
あまりの雰囲気の柔らかさにラーファの方が戸惑っていた。
「大丈夫でしょう。何せ社長が自ら連れてきた人ですから」
エリーナの表情には、キールへの信頼が見て取れた。
「いや、あのときは勝手に私が押しかけただけですが・・」
ラーファは当時を思いだしながら記憶をなぞった。
「おそらく、それさえも社長の予定通りなのでしょう。本当の考えは誰にも分かりませんが・・」
あくまで想像ですがという前置きをしたのちエリーナはキールの凄さとして語った。
「分かりました。そこまで信じてくれるのであれば、期待に応えられるように頑張ります。これからよろしくお願いします。副社長」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
二人はかたくを握手して、手続きのために部屋をあとにして、一階へ降りていった。
二人が出て行った社長室にて、キールがむくりと起き上がった。
「・・・・何を言っているのか全く分からない。俺は最初、本気で付き人は嫌だったんだけどなぁ。怖かったもんねぇ、プルルン?」
プルプルっ
プルルンも怖かったと行っているかのように身体を震わせ、肯定した。
途中から起きていたが、出て行くタイミングを逃し、できる限り息を殺して狸寝入りを決め込んでいたのだ。
次の日、キールが出社すると修練所から大きな音が聞こえてきた。
修練所を覗くと、多くの社員に囲まれたラーファが、皆に魔法を教えていた。
「違う違う、魔力の流れがここで荒くなっているぞ」
「イメージも勿論大事だが、最初は詠唱の発音に気をつけた方がいい」
「見本をみしてほしい?仕方ないな」
「さっそく人気者だな。たしかに今までちゃんと魔法を教えられる人っていなかったかも。ロイは感覚派だから教えるのに向いてないんだよなぁ」
キールはしばし、羨まそうにその光景をみて、社長室に向かった。
社長室が少し広く感じるのでプルルンと戯れることで気を紛らわしていると、エリーナが勢いよく部屋に飛び込んできた。
「うわ、珍しいね。エリーナがドアをノックしないなんて」
「っ!・・オホン。すみません、至急お耳に入れたいことがありまして」
「うん、なにかな?」
「配達依頼がきたのですが、その届け先が帝国領でして、期間が1週間後です」
帝国領と王国領は魔物の多く生息する魔の森により隔たっているため、どう考えても2週間はかかるのだ。
通常ならしっかりと説明をし、丁重にお断りをしている。
エリーナがこんな依頼を持ってくるのは初めてであった。
なぜ、断らなかったのかとエリーナに尋ねようとする前に、エリーナがその理由を述べた。
「そして、依頼人がオルガノ王国王子ジューノ=オルガノです!」
ドアをノックし入ってきたのはエリーナだった。
「キール殿、エリーナさんが来ましたよ」
寝ているキールを起こそうとラーファが声を掛けた。
「あ、用があるのはあなた、ラーファさんなのです」
エリーナはキールを起こさないように少し声を抑えた。
「え?私ですか?」
「はい、単刀直入に申し上げますと、ラーファさんにウチへ入社していただけないかと考えまして、そのお願いに来たのです。」
エリーナはラーファをまっすぐ見つめた。
「え、でも私この会社で何も成果を上げてないですよ?付き人生活も基本本を読んだり、魔法の練習をしたり、言ってしまえば何もしてないですが・・・」
ラーファはここ1週間のことを思い出すも、浮かんでくるのは穏やかに流れた時間ばかりであった。
「それは、心配に及びません。おそらく社長が試していたのは悪魔討伐の方だと思われます。」
キールが言っていたのは「有用性を示せ」会社にとって一番大事な要素をラーファは示していたのだ。
「では、付き人生活は意味なかったと?」
肩すかしを食らったようで、ラーファの頭の上に「?」が浮かんだ。
「そういう訳ではございません。付き人生活でラーファさん自身が得られるものがあったはずです」
エリーナは優しく微笑み、寝ているキールを見た。
「たしかに・・では、悪魔討伐では何を?」
何がと問われれば答えることはまだ出来ないが、確かに何かを貰った。ラーファはそう感じていた。
「それは勿論、強さです。私どもは自分で言うのもどうかと思いますが、王都の企業の中でも大きめの会社です。その分信用がとても大切で、仕事に失敗は許されない状態となっております。ですが大きい分、他が受けられないような配達の仕事が舞い込みます」
少し間を開けて、饒舌に話し出したことから、エリーナが本心で大事にしているということが分かった。
「強くないと仕事をこなせないということですね」
「はい、その通りでございます。そして先日の悪魔の討伐にて大きな功績を残したラーファさんは十分にその資格を有していることになります。」
「いえ、私は何も・・」
「ご謙遜なさらず、既に多くの冒険者から証言を得ております」
「実は、あのときのこと良く覚えていないんです。だからもう一度そのときのように強くなれるのか分からないんです」
ラーファはありのままの考えを伝えた。
「そうですか・・・でも、大丈夫でしょう」
エリーナは数瞬顎に手をあて考えた後、あっけらかんと受け入れた。
「え?大丈夫なのでしょうか・・・」
あまりの雰囲気の柔らかさにラーファの方が戸惑っていた。
「大丈夫でしょう。何せ社長が自ら連れてきた人ですから」
エリーナの表情には、キールへの信頼が見て取れた。
「いや、あのときは勝手に私が押しかけただけですが・・」
ラーファは当時を思いだしながら記憶をなぞった。
「おそらく、それさえも社長の予定通りなのでしょう。本当の考えは誰にも分かりませんが・・」
あくまで想像ですがという前置きをしたのちエリーナはキールの凄さとして語った。
「分かりました。そこまで信じてくれるのであれば、期待に応えられるように頑張ります。これからよろしくお願いします。副社長」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
二人はかたくを握手して、手続きのために部屋をあとにして、一階へ降りていった。
二人が出て行った社長室にて、キールがむくりと起き上がった。
「・・・・何を言っているのか全く分からない。俺は最初、本気で付き人は嫌だったんだけどなぁ。怖かったもんねぇ、プルルン?」
プルプルっ
プルルンも怖かったと行っているかのように身体を震わせ、肯定した。
途中から起きていたが、出て行くタイミングを逃し、できる限り息を殺して狸寝入りを決め込んでいたのだ。
次の日、キールが出社すると修練所から大きな音が聞こえてきた。
修練所を覗くと、多くの社員に囲まれたラーファが、皆に魔法を教えていた。
「違う違う、魔力の流れがここで荒くなっているぞ」
「イメージも勿論大事だが、最初は詠唱の発音に気をつけた方がいい」
「見本をみしてほしい?仕方ないな」
「さっそく人気者だな。たしかに今までちゃんと魔法を教えられる人っていなかったかも。ロイは感覚派だから教えるのに向いてないんだよなぁ」
キールはしばし、羨まそうにその光景をみて、社長室に向かった。
社長室が少し広く感じるのでプルルンと戯れることで気を紛らわしていると、エリーナが勢いよく部屋に飛び込んできた。
「うわ、珍しいね。エリーナがドアをノックしないなんて」
「っ!・・オホン。すみません、至急お耳に入れたいことがありまして」
「うん、なにかな?」
「配達依頼がきたのですが、その届け先が帝国領でして、期間が1週間後です」
帝国領と王国領は魔物の多く生息する魔の森により隔たっているため、どう考えても2週間はかかるのだ。
通常ならしっかりと説明をし、丁重にお断りをしている。
エリーナがこんな依頼を持ってくるのは初めてであった。
なぜ、断らなかったのかとエリーナに尋ねようとする前に、エリーナがその理由を述べた。
「そして、依頼人がオルガノ王国王子ジューノ=オルガノです!」
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