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遡ること少し前、キールは相も変わらずプルルンと戯れていた。



「静電気に触れてみたくなるものだろうか。それとも度数の強いお酒をちょくちょく飲んじゃうあれか?・・・・・いや、二郎系ラーメンだ!食べた後はもう二度と行かないって思うのに次の週には行ってるあれだ!」

キールはプルルンを眺めてその行動の良い例を思いついた。



そしてその、当のプルルンはというと・・・龍晶華に恐る恐る腕を伸ばし、ぴとっと触れると、すぐにふにゃっと形が崩れて、でろーんとしばらくその場に寝転がるかのようにして休憩し、また形が戻ると触れ出すという、奇妙な行動をしていた。



そんなプルルンが急にこちらを向いて、手のひらを出すように催促した。そしてキールが手を差し出すと、すぐに登り、身体に溶け込んだ。そして少しだけ頭をだし、こちらを見ていた。



「・・・どうしたの?何か用かい?」

キールはプルルンに向けて尋ねた。





ガチャ。ドアが開いた。



「ふ、お見通しというわけか。ならば正々堂々行かせてもらおうかな」

ラーファはゆっくりとドアを開けた。



「えっと、どちらさまでしょうか?」

え?だれ?キールは心臓が口から飛び出そうになっていたが、なんとか顔に出さずに尋ねることに成功した。



「私はラーファ、ちょっと君の実力を確かめたくてね。まっとうなやり方だと受け入れてもらえる気がしなかったんでね。今、やらせてもらうよ」



ラーファのその考えは間違っていなかった。キールと戦えるように受付で説明しても、通してもらえるはずがない。なんの肩書きがないものをいきなり会わせるはずがない。



突如始まろうとしている戦闘の緊迫感に、キールはついて行けてなかった。





え?何この人?普通に変質者????



「流石の胆力だな。この状況に一切の動揺は無しか」

実際には動揺しすぎてフリーズしているというのが正解であった。





「さて、では胸を借りるとしよう。いざ!」

ラーファは忍び込ませていた小刀を取り出し、姿勢をかがめ、足に溜めた力を解放し、一気にキールに迫ろうとした。



「ちょっと待った!!!」

本当にたまたま、ちょうど溜めと解放の間の瞬間に発したキールの声は、ラーファの虚を突き、軽く体勢を崩させた。



「く、武道の極致に達した人たちが使っていた業だぞ・・・それほどなのか」

ラーファは警戒の色を強めた。





「待って、待って!俺とやっても意味ないって!戦うなら他の人にして!」

キールの言い分はもっともだ。自分が弱いことも理解していて、相手が自分より強いことも理解している。本心からの願いであった。



「私では実力不足とでも言いたそうだな」

真意をつかめないラーファは、少し苛ついているかのように口元をひくつかせた。



「そうじゃないよ。そもそも何で戦いたいの?危ないし痛いじゃん」

キールは自分とは違う戦闘民族なのかなと思いながら、平和的解決のため話し合うことにした。



「私は強くなりたい。そのためにより高みにいる人の側にいることで技を吸収する。そのために、私が付きたいと思える人物であるかどうかを確認させていただくぞ!」

ラーファは案の定戦闘民族であった。





今度こそと意気込んで、ラーファはキールに斬りかかった。



キールも必死になり逃げ続けた。



「逃げるな!戦え卑怯者!」

追うラーファ。



「戦う必要が無い!自分の考えを押しつけるな!」

逃げるキール。



しかし、狭い部屋では逃げ切るスペースも無く、遂にキールは逃げ場を失ってしまった。







「覚悟!」





振り上げた小刀を、勢いよくキールに突きつけ、その刃はキールに届いてしまった。



「え?」

ラーファは、呆気にとられてしまった。いくら素手だからとはいえ、暗器を隠し持っていたり、魔法で対応するものだと思っていた。



だがしかし、キールがとった行動はそのどちらでも無い。無抵抗であった。



ラーファにとって初めてだった。盗賊などを依頼で殺したことはあったが、一般人を殺したことは無かった。必死に抵抗するもの命乞いをするものを殺したことはあったが、全くの無抵抗で命を放棄する者は初めてだった。



そして、そんなキールはラーファの瞳を眺め、けっして離さなかった。



「・・・・」

しばらく固まっていたラーファであったが、ハッと気がつき、小刀をキールから抜いた。







「いててて、もう満足した?」

「!!!!!!!!!!!」

キールがあまりの恐怖からのフリーズが終えると、ラーファは驚き飛び退いた。



ラーファはくまなくキールを注視しているとあることに気がついた。



「確かに・・刺したはず・・・」



刃が貫いた服は確かに破けていた。しかし、その破けた服の下から見えるキールの身体には、切り傷が一切付いていなかった。

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