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一目置く

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「うわ、もったいな」

その男は抱きしめていた袋から落としたトマトを拾い上げるために、その場にかがんだ。



まさか、目の前でかがむとは思っていなかったのか、ひったくり犯は男に躓き、そのまま前のめりに転んだ。



「ふん!」

その隙にガイアスはひったくり犯を押さえつけ、衛兵を呼ぶように周囲の人間に指示した。



「イテテ・・」

その男は、脇腹をさすりながら立ち上がり、袋からこぼれた食べ物を拾っていた。



ひったくり犯をすぐに駆けつけた巡回していた衛兵に引き渡すとガイアスは男に近づいた。



「君の行動により怪我人もなく奴を捕まえることが出来た。感謝する」

ガイアスは落ちている食べ物を拾うのを手伝いながら礼を述べた。



「いえいえ、自分は何もしていませんから・・あ、ありがとうございます」

男は手伝ってくれたことに感謝しながら、否定した。



「ははは、私の目はごまかせないぞ。これでも冒険者ギルドでギルド長をやっているんだ。先ほどの動き、ギリギリまで引きつけ店を出て、偶然を装いかがんで相手を転ばせるなど、わざとでなかったなら、到底無理であろう。それに、あれだけ注目を浴びていたのだ、ひったくり犯に気づかない方がおかしいだろう」



「いや、本当にたまたまなんで、あ、少し急いでいるので、これで失礼します」

男は変な人に絡まれたと、急いでその場を後にした。





その日の昼、酒場「ゴールドラッシュ」にて



ガイアスは久しぶりに、ギルド長室からでてお酒を飲んでいた。



「やはり、うまい」

久しぶりのお酒に舌鼓をうっていると、入り口のドアが開き見覚えのある男が入ってきた。



「あ、さっきの」

向こうも気づいたらしく、ガイアスは手招きをし、横に座るように目くばせした。



「奇遇だな。用件はもう済んだのか?」



「はい、なんとか。あ、えっと・・」



「名乗るのが遅れたな。私はガイアスだ。冒険者ギルド「巨人の盾」のギルド長をしている」



「あ、僕はこの度、配達会社グリフォンフライを立ち上げました。社長のキールと申します」

お互いが名乗ると、メニューを注文し、お酒を嗜み始めた。



「ふむ、その若さで企業を成し遂げるとは、やはり凄腕なのだろうな」



「いえいえ、僕なんてそんな、周りが優秀で助けて貰っているだけですよ」



「まぁ、いいだろう。私も何か仕事を頼むとしよう。その手腕なら安心して仕事を任せられそうだ」



「本当ですか!ありがとうございます!」

キールとしては出来たばかりの会社に自分が仕事をとってくることはこれが初めてであり、浮かれていた。



「何か、お礼が出来たら良いんですけどね・・何が良いやら」



「いや、構わない。これは仕事なのだから。対価は仕事の達成で良い。」



「すみません、ありがとうございます。あ、もし今何かあるなら、用件を承りましょうか?」



「そうだな・・・では回復のポーションと、解毒のポーション、魔力のポーションを1000個ずつ。王国三大都市の一つ、クラノの街に行き買ってきてもらいたいのだが、大丈夫だろうか」

ガイアスは来たるスタンピードにの備えとして、ポーション類を頼んだ。



「はい、大丈夫です。それにしてもこの量は大きな戦いでもあるんですか?って、あぁ!スタンピードですか。もうそろそろですもんね、では2ヶ月・・いや、1ヶ月で持って来ます」

キールがそう言うと、ガイアスは少し驚いた顔をした。



「1ヶ月で可能なのか。早いのはこちらとしてもありがたいが、2ヶ月後でも、一向に構わないぞ?」

ガイアスは、王都からクラノの街までの距離と、ポーションを手に入れるまでの日数を考えると、どう考えても一ヶ月では足りないことを知っていた。



なので、これはガイアスからの温情であった。



「いえ、大丈夫です。間に合わせます、絶対に」

それでもキールは頑なに1ヶ月を主張した。



「ああ、わかった」

キールの差し迫った表情に、ガイアスは少したじろぎ承諾した。



それからは、世間話などをして一通り盛り上がり、2人は解散した。





「キールか、面白い奴だったな。その腕前を見せてもらおう」

ガイアスは帰り道にそう呟いた。





それからの月日は何事もなくあっという間に過ぎていき、約束の一ヶ月になろうとしていた。



やはり、一ヶ月では無理があったのではとガイアスが考えていると、ドアをノックする音が聞こえ、受付嬢が部屋に入ってきた。



「ギルド長、配達会社グリフォンフライと名乗る人が、大量のポーション類を持って来たのですが、注文しました?」



「あぁ、ちょっと個人的にな、私が出迎えよう」

ガイアスは驚いていた。どう考えても間に合わないと思っていた注文を、どうやったのかは分からないが間に合わせたのだから。



ギルドのロビーに行くと、大量の木箱とともにキールが立っていた。



「あ、ガイアスさん、注文の品を届けに来ました。確認お願いします」

キールは当然のように、淡々と仕事をこなした。



「あぁ、助かるよ。やはり君は優秀だな」

「いえいえ、周りが優秀なんです。スタンピード頑張ってください。間に合って良かったです。それでは!」



ガイアスが褒めると、またも謙遜しながら、急いでいたのかすぐにキールは帰った。



「あいつはいつも急いでいるな。優秀故なのだろうな」

ガイアスは、ドアから出て行くキールを見送った。



そして、ギルド長室に戻ろうとした。



「ギルド長を呼んで!あ、いた!ギルド長報告があります!!」

若い冒険者がキールと入れ替わりに入ってきた。



その焦りように何事かと思い尋ねてみた。



「スタンピードが始まりました!」
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