配達屋はうまくいく!~何もしてないのに勘違いされて国の重要人物!?~

一色3世

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アイドル

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「わかった。これにて議会を散会する。各自下がれ」

オルガノ王国の歴代のなかでも賢王として名高い現国王ソクライア=オルガノは、臣下たちが全員居なくなるのを確認すると、ため息をついた。



先ほどの報告で、先日の悪魔の討伐の一連を知った。その凄惨な出来事に王として数々の修羅場をくぐってきた彼でさえ、いや彼だからこそ持ち前の優しさで、数瞬、黙祷をした。



「やはり、悪魔との戦いは避けられぬか」

王は歴代のオルガノ王国国王に思いを馳せた。



「先代たちよ、いよいよ時代がやってきたのだな。当代で終わりにしてくれよう」









配達会社グリフォンフライでは不思議なことが起きていた。



「あれぇ?なんだこれ」

社長椅子に座るキールの手にはぷるぷると震えているゼリーのようなモノがいた。



キールは数分前の自分を思い出していた。



2分前、趣味で集めた物を布で丁寧に埃を拭き取っていた。



1分前、アンティークの鋭利な棘が指に刺さる



50秒前、刺さった指をさすって痛みを分散させていた。



45秒前、ポトッと指が落ちたと思ったら、また指が生えてきた。



40秒前、落ちた指を拾うと、ぷるぷると震えるスライムになった。



いや、どういうこと?



キールは理解していないが、先の悪魔との戦いで子スライムから龍晶華の魔力を用いて元に戻ったが、実はこのとき魔力があと少し、本当にあと少し足りずに、完全に元に戻るにはいかず、キールとキールから生まれたスライムが一心同体となっていたのであった。



そんなこととは露知らず、ただ可愛い手乗りスライムが生まれたとはしゃぐキールであった。



「よーし、名前をつけてやろう。何が良いかな~」

キールはペットという物を初めて飼うことに興奮していた。



この世界でペットと言えばテイマーのスキルを持つ者が契約したモンスターだけが、敵対しない動物、ペットとして飼うことが出来るのである。



つまり、キールがたまたま成し得たことは世界初なのである。



「そうだな~、よし!お前の名前はプルリンだ!」



ぷるぷる!

プルリンもなんとなく喜んでいるようにみえる。



「あはは、良い子だなぁ。そうだプルリンは何を食べるんだ?」

キールはもう既に親馬鹿になり、プルリンを撫でていた。



ぷるるるる

するとプルリンはキールの指をくわえ、乳のように吸いだした。



「かわええ~」

キールのなけなしの魔力を頑張って吸い取ろうとしているも、干からびた大地に水たまりがあるようなキールの魔力は、手乗りスライムだからこそ需要と供給のバランスが保たれていた。



「失礼します」

ドアがノックされ、エリーナが入ってきた。



「今何か喋っていませんでしたか?」

エリーナが尋ねると、親馬鹿キールはプルルンを自慢しようと、手のひらを見せた。



「見て、これ!俺のペット!ってあれ?」

先ほどまで手に乗っていたプルルンの姿がなくなっていた。



「何がいたんですか?」

エリーナが再び尋ねた。



「これぐらいの手乗りスライム。俺のペット」



「その大きさのスライムは聞いたことがありませんね。もしかしたら臆病なスライムよりさらに臆病で、私に驚いてどこかに隠れたのかもしれませんね。なにせその小ささですし」

エリーナの推測になるほどとキールは手を叩いた。



「プルルン出ておいで、エリーナは怖くないよ~」



しばらく、そう言い続けると、プルルンはキールの手のひらから、焼いたお餅が膨らむように出てきた。



「へ???」

エリーナの反応は至極まっとうな者であった。人間の身体からモンスターが出てくるなど、天地がひっくり返るようなものであった。



「なんかねー、俺の身体から生まれたから俺の子どもみたいなもんだよねー、あはは」

キールは事の重大さを全く理解していなかった。





「大丈夫なんですか?それ、身体に異常とかないですか?」

エリーナが真剣な顔でキールにすり寄ると、プルルンは再び身体に潜ませ、少しだけ顔を覗かせていた。



「大丈夫だよ、なんともないさ。それより怖がらせたらダメだよ!見てこのかわいさ!!!プルルン出ておいで」

キールが呼びかけるとプルルンは身体から出てきた。



ジーーーーーー

エリーナはプルルンを凝視した。



ぷるぷる

プルルンは震えた。





バキュウウゥゥゥゥゥゥゥウン



生まれてこの方仕事一筋で、大人ばかりを相手にしていたエリーナにとって、この可愛さは未知との遭遇であり、一発でそのハートを撃ち抜かれてしまった。



「社長!触れてみてもよろしいでしょうか・・」

エリーナが珍しく弱気で尋ねた。



「力加減に気をつけてね」

キールはそれに対して親指を立てて返事をすると、エリーナは恐る恐るといった感じで、人差し指でプルルンを撫でた。



ぷる!

ピトっとプルルンからエリーナの人差し指に触れた。



「ふっ・・・・」

エリーナはそれからしばらくフリーズしていた。



その日配達会社グリフォンフライでは、1体のアイドルが生まれた。

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