上 下
5 / 45

しおりを挟む
「社長、今回は謎が解けないままの出発になってしまいました。私や王都ギルド連盟は、謎を解いてから行った方が良いと思うのですが、先日の悪魔のことがあってから、王国自体が敏感になっているようで、貴族からの圧力で行くことが決定しました。大丈夫なのでしょうか。」



カリーナは不安を露わにしながら、いつもと変わらずソファで本を読んでいるキールに言った。



「んー、大丈夫じゃない?前回も大丈夫だったんでしょ?」



「しかし、前回は社長の解決策があったからこそです」



「大丈夫大丈夫、ユリもなんか良いことあったらしいし」



「しかし・・・」



「心配しすぎだよ、ユリにはお守りも渡しておいたし」



「そういうことなら・・、少し安心できますが・・」



このお守りが、ただポケットにあったホワイトホーンラビットの角の欠片だということは話がややこしくなるから秘密にしておこう・・





一方、王都の西の森、討伐部隊では危機が訪れていた。



「くそ、モンスターが異常なほど出て来やがる。なかなか前に進めねぇ」

「それだけ、敵に近づいているのだろう」

「確かに。知能の比較的高いゴブリンやレッドモンキーでさえも、連携を辞めて襲いかかってくるのは、快楽の悪魔の仕業だろうな」



次々と迫り来るモンスターの群れにも負けずに冒険者たちはなぎ倒し一歩ずつ前に進んでいった。そうして、全員に疲労感が押し寄せてきた頃。



ソイツはとうとう目の前に現れた。



「よくぞここまでたどり着きました。いかがでしたかな?私からのおもてなしは」



全員が一瞬呆気にとられてしまった。



前回の悪魔とは明らかに違った。



言語を用い、人型であり、ピエロのような装いに、空中に佇んでいた。





そして決定的に違うのはオーラであった。ベテランの冒険者になればなるほど危険を察知する能力に長ける。



ましてや斥候を得意とする部隊が居るのにもかかわらず目の前に突然に現れた。



普段であれば即座に戦闘態勢をとれる全員が呆気にとられた。



それは何故か。



悪魔からあふれるオーラは、怖いくらいに恐ろしくないのだ。



「っ!!全員!!もしかしたらあいつの攻撃を食らっている可能性があることを考えろ!!」



「おりゃあああああ」

「バカ!単独で攻撃に行くな!!」



精神的に弱い者は攻撃を仕掛けに行った。



「弱い種が勝つためには、連携を駆使する必要があることを知らないのですか?そんな単調な攻撃は無意味ですよ?」



結果は予想通り、冒険者の攻撃は悪魔まで届かない。良いように遊ばれているだけだ。



「おい!誰かあいつを止めろ!遠距離で攻撃を仕掛けようにも邪魔になってしかたねぇ」



冒険者たちは誰も攻撃を仕掛けることが出来ずにいた。



「あまり時間は残されていないですよ。私がそこに存在するだけで、その場は汚染されていく」



そう悪魔がささやくと、次々に冒険たちは周りを顧みずに、攻撃を始めた。なかには味方の攻撃で負傷し、その仲間に対して攻撃を仕掛けている者もいる。



「だめだ、このままじゃやられる。考えろ」



「つっても、キールが関わっている事と言えばホワイトホーンラビットくらいだぞ!お伽噺のように、幸運の象徴になってこの場を助けてくれるってのか!」



「これは現実だ、今できることを考えろ!」



冒険者たちがこの戦いに勝つために、頭を回転させ、顔をゆがませていた。



対照的に悪魔は破顔していた。





もうひとり、他と顔が違う者がいた。ユリである。



ユリはまっすぐに悪魔を見ていたが、本質的には悪魔ではなく、配達会社グリフォンフライ社長キールこと、王都の脳と未来を見据えていた。





たとえこんな危険な仕事でも、社長は無駄死にさせるために私をここに立たせているわけではない。今までもそうだった。ならば今の私の最大限を活かせば、この場は切り抜けられる。



今までの私では勝てない。今の私にあるもの。



2ヶ月かかった仕事では精霊の守人という加護を得た。そして、先ほどもらったホワイトホーンラビットの角。



まだこれらをどう活かすかは分かっていないが、関連性がないということはないのだろう。





精霊の守人という加護についてはよく分かっていない。それこそお伽噺でしか聞いたことがなかった。



ホワイトホーンラビットで重要そうなのは聖属性をもっているということ。おそらく悪魔に対抗できる属性は唯一聖属性のみ。



社長がくれた角の光をもっと感じろ。



角に力をこめろ。



精霊の守人として悪魔を倒すための力をよこせっ!!



数分が一瞬と感じる集中力のなかで、次第にユリの身体の中に何か熱い流れを感じた。



頭の中にある文言が浮かび上がってきた。



すると必然であったかのようにその言葉を口にしていた。









『光の波動セイクリッド・インパクト』







心地良い光がユリを中心として、静かな湖に水滴が落ちるように波紋が広がっていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

北の魔女

覧都
ファンタジー
日本の、のどかな町に住む、アイとまなは親友である。 ある日まなが異世界へと転移してしまう。 転移した先では、まなは世界の北半分を支配する北の魔女だった。 まなは、その転移先で親友にそっくりな、あいという少女に出会い……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

処理中です...