~The Tree of Lights~

朱夏

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雨上がり

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雨上がり
柿の実が落ちる音を聞いた
たいへんな雨だったのだ

帰り道
ちいさな蚯蚓が
砂まみれになって
せっせと アスファルトをすすんでいた

あんまり雨が降りすぎると
土の中が苦しくなって
飛び出してくるんだそうだ

しかし、もう空には太陽が出ているぞ

どんなにせっせと進んでも
どこにも土などありゃしない

それでも砂まみれになって
せっせ せっせと進んでく

枝で拾って どこかに連れて行こうしたが
ちょんと さわると 大暴れ

ああ 鳥に喰われると思ったんだな

だいじょうぶ 
たすけてやるんだよ

言ったところで
蚯蚓に耳はあるんだろうか?

せっせ せっせと また進む
ああ もうこうなったらしかたない

ちょんとつまんで
塀の向こうの畑の方へ ひょいと投げたら
みごとな 屈伸宙返り

めずらしい 空飛ぶ蚯蚓だ
軽々と畑に着地したろう

帰り道
指先に命が宿る

ああ あんなちいさな砂まみれの蚯蚓が
あれほど暖かくて 弾力のある
 生き生きとした体をもっているとは

今のいままで 知りもしなかった
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