かみさまコネクト

辻 欽一

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3章 沖田畷の戦い

12 目覚め

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「ほれ、此でいいのか? 俺は酔いが回ってあまり呑めんから、主が呑んでくれ」

 そう言いながら茶碗のような器になみなみと注ぎ私に渡してきた。
私がそれを一気に飲み干すと、家久はまた器を酒で満たす。
其れを私はまた飲み干した。そんなことを三度も続けると
家久は呆気にとられて私に話しかける。

「お主は蟒蛇(うわばみ)か?」
 言われて私は首を横に振り答える。

「とんでもない、私は神様だぞ。
 私を神と認めて注がれた酒は御神酒じゃ、甘くて後味よくとても旨いものよ」
 そう言われて家久は神妙な顔をして聞いてきた。

「お主が神とゆうことはそれとなく分かった。
 だったら何故討死する者が出た。
 主の力あれば戦の流れを楽にして死ぬ者も減らせたろうに……」

 私は酒を一気に飲み干して盃を家久に差し出す。
するとどうやら酒が底をつきたようで家久は酒を取りに湯殿を出ていった。少しして、

「―――ほれ、呑みたいだけ呑んでくれ」
 私は酒を呑みながら先程の問いに答えた。

「まあ、出来ることなら人死には避けたいのだが、
 無理な相談だ。例えば、今回の戦で百人助けたとしよう、
 この者達が五百年子孫をふやすとだ……歴史が変わってしまうのだよ。
 お主の怪我も必然だ、でなければ陣に切り込んできた侍大将が死ななくなる。
 あの者はこの戦で討死している。
 それに、怪我をした者が少なければ此処へは寄らなかっただろ?
 ―――ま、是非も無い事ゆえ、主が気に病む事ではない」

 家久は目頭を手拭いで拭うと名残惜しそうに話を続ける。
「そうか……お主は何でも知っているのだな、
 まだ聞きたい事も沢山あるがそれも無理か……。
 そうだ―――俺はどうなる? 息子は?」

 そう私を急かして訊いてくる家久、まあつまり私の存在が消えかかっている訳だ。
先程から私の体は透けて、掌をかざせば湯気が見える。もう数分で戻ってしまうだろう。
 さて、消える前に家久の問いの答えを……。

「んー、島津の為にはなるさ……。活躍もするだろう……。では、さらば………」
「お、おい待て、せめて名を―――」
「桃姫(ももひめ)…………」

 そこで私の視界は虹につつまれ、虚ろな朝を迎えた。

「お姉ちゃん………。私、めちゃくちゃ気分がわるい、お水ちょうだい……」
「そう思って―――ほれ、其れでも飲め」

 テーブルの上には青く透き通ったグラスに多めの氷、
適量注がれた液体はプツプツと気泡を出している。サイダー?
と思い、咽せないようにゆっくり飲み込んだ。
あれ? 甘くなくてスッキリ爽やか……。
冷たい炭酸水だ。お姉ちゃん気が利くな、流石神様。

「お姉ちゃん……有り難う」
「よく最後まで耐えたな、気弱な者なら私が殺された時に目覚めているよ。
 鉄砲を使った大戦(おおいくさ)流血の量が違う、
 気分はもう良いか? まあ、こんな感じだが私は何かミスをしたか?」

「………お姉ちゃん、家久さんと対面しちゃったじゃない、
 酌までさせて、最後は名乗ったよね。アレは駄目なんじゃないかな……?」
「やはりか……マズッたな。ま、今からでは修正できぬし仕方無しだ」
「お姉ちゃんは前向きだねー」
「そうでもないぞ、おかげで私は神を辞める事が出来るかも知れないし………」

「え、なんで??」

「んー、お前は私の遠縁で、霊感も強い。
 でなければ、今回のように姉妹にならぬ。
 私はもと上杉の姫だったが、五百年以上も出会う事は無かった。
 まあ、数え切れない歴史改竄と時渡り……私は戦にウンザリしてしまったよ。
 解らないだろうが、何人助けても本人と会えない定めがどれほど酷いか……。
 で、そろそろ隠居したいなーと思っていた所にお前との出会いだ。
 今回は条件も揃った、だからさお前ちょっと神様になってくれないかな……?」

「やだよ……」

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