29 / 37
22-2
しおりを挟む「てか、普通、ほかに好きな子がいるのにmiccoにキスマークつける?」
「う……、こ、これは、アイツがふざけて……」
あいつはきっと欲求不満で、ひよりと付き合うまで俺で、というかmiccoで発散してるんだよ。
なんて、言えるわけもなく、俺は口ごもってしまう。そんな俺に呆れたのか、姉ちゃんはまたしてもため息をひとつ。
「ほんっとあんたってコミュ障だし自己肯定感低すぎ」
「な、なんだよ急に」
「私は、あの二人が両想いとは思えないけどねー」
「じゃ、じゃぁ、なんで、」
「――二人の中心にいるのは誰かしら?」
姉ちゃんは俺の反論を遮るようにそう言って「じゃぁねー」と部屋から出ていった。
そして誰も居なくなった……、じゃなくて、取り残された俺は首元を手で押さえた。
中心……って、俺?
俺みたいな地味メンのコミュ障が、学校イチのイケメンと美少女から好かれるなんて、んなことあるわけないじゃん……。
俺は、二人の緩衝材みたいなものなのに。
姉ちゃんの言ってることはわかったけど、癪善としないまま中条が一人で戻ってきた。ひよりは大丈夫だったか、と聞けば「大丈夫だろ、あのイノシシ女だぞ」と冷たい中条だった。
中条は「あー疲れた」と呟いて座ると、のんきに麦茶を飲み始める。ごくごく、と喉が上下するのが妙に色っぽくって目が離せない……。
「――って、そうじゃない! お前、これどうしてくれんだよ!」
危うく忘れそうになっていたキスマークを思い出して俺は抗議するも、当の本人は「やっと気づいた?」なんて、どこ吹く風。
「姉ちゃんに見られたし、相手がお前だってバレたんだけど!」
自分で気づかないという失態を犯した上に、姉に知られ、さらに相手が男という三重苦を味わうはめになったんだぞ。
「で、尊は環さんになんて説明したの」
「ふざけてしたって言った」
「環さん、なんか言ってた?」
「……いや、べ、別に」
俺が二人が両想いだと思ってるとか、姉ちゃんが二人が俺を思ってるって言ってたなんて話は言えない。口ごもる俺を、中条はニヤリと笑う。
「ふーん、なんか言われたんだ」
「だ、だから、言われてないってば」
「ホントに?」
立ち尽くす俺の手を中条が握った。
ちょっとごつごつした手。
肌と肌が触れ合った感触が、なんだかやけに生々しく感じる。
かぁっと体の中心から熱が放出されるのを感じて、中条から離れようと一歩下がった。けれども、振り解こうとした手を強引に引かれた俺は、座る中条めがけて前のめりに倒れ込んでしまう。
「あっ……ぶなー……っ」
中条に覆いかぶさるような体勢になっていた俺は急いで離れようとする。だけど、それよりも早く中条が俺に近づいた。その気配を感じた時にはもう唇同士が重なっていた。
だめだ……、なにも考えられなくなる。
中条の手が後頭部に添えられて俺の髪を優しく梳いていく。指が首筋を掠める度に俺の体はびくっと否応なしに反応してしまう。
「――はっ……」
「なぁ、環さんなんて言ってたの?」
「だから、別になにも……んん」
言い終わる前に口づけられる。さっきよりも深く、まるで食べられてしまいそうな勢いで。
「俺のことサイテーだって?」
「ち、ちが……そんなこと――っんぅ」
また重なる唇。
もう、わけがわからなくて、突っ張っていた腕にも力が入らなくて脱力してしまった。
呼吸も苦しいし、刺激は強いし、体は反応寸前だしでパニックだ。
「尊、可愛いすぎ。もーたまんねぇっ」
「うわっ」
急に中条が俺を抱きしめたまま後ろに倒れ込んだ。
完全に中条の上に乗っかった俺は身動きが取れない。顔だけ持ち上げれば眼下に整いすぎた国宝があった。俺を見つめるその目は、深く透き通っていて美しい。
何か言いたげに揺れる瞳に見惚れてしまう。
「あのさ、俺が好きなのは――」
す、好きなのは……?
ごくり、と喉が鳴る。
ひよりだと、わかっていても、期待してる自分がいた。そんなことは、あり得ないのに、姉ちゃんのせいだ。
けど、もう、ひよりの「代わり」はいやだった。代わりなのに、こんなにも心を乱されて、振り回されるこっちの身にもなって欲しいってもんだ。
中条が次につむぐ言葉を一文字たりとも逃すまい、と口元を凝視して待っていたのに――
「――はいっ、そこまで! 私の目の前でリアルBLはご遠慮くださいませー」
「うわああああ!」
唐突に降ってきたひよりの声に、俺は文字通り叫びながら飛び退いた。
「ひっ、ひより……」
ドアの方を見れば、ドア枠に寄りかかってるひよりの姿。
つーか、ドア! 開いてたのかよ!
一体、いつから居たんだこいつは……⁉
「ったく、邪魔すんなよ。いいとこだったのに」
ちぇっと舌打ちする中条を俺は睨む。
お前がドアをちゃんと閉めないから見られたじゃないか!
そう怒鳴りつけたいのを堪える。それよりも、ひよりになんて言えばいいのか俺は頭をフル回転させた。
「あー、もう最悪最低! イケメン先輩のどクズ! みっくんの馬鹿!」
「ひより……こ、これは、誤解で――」
「なにが誤解よ! イケメン先輩のこと押し倒して舌絡ませて! もうBL以外のナニモノでもないし!」
うわあああ、バッチリ見られてるーーー!
でも俺は断じて押し倒していない! 中条が手を引っ張ったせいで倒れただけだ!
そこの誤解だけは解いておきたいが、とてもそんなことを言える雰囲気ではない。
「ひ、ひよりさん、ちょっとボリューム落とそうか……」
そんな大声で叫ばれたら下にいる母さんの耳にまで届きかねないじゃないか……。頼むから、これ以上俺の黒歴史を増やさないでくれ!
だけどそんな願いは虚しく、ひよりはますますヒートアップしていくものだから、俺は急いでドアを閉めた。
そうすれば、ひよりがギロリと俺を睨む。
美少女の怒りに満ちた顔の迫力たるや……。
背筋が震えあがった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる