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「てか、普通、ほかに好きな子がいるのにmiccoにキスマークつける?」
「う……、こ、これは、アイツがふざけて……」

 あいつはきっと欲求不満で、ひよりと付き合うまで俺で、というかmiccoで発散してるんだよ。

 なんて、言えるわけもなく、俺は口ごもってしまう。そんな俺に呆れたのか、姉ちゃんはまたしてもため息をひとつ。

「ほんっとあんたってコミュ障だし自己肯定感低すぎ」
「な、なんだよ急に」
「私は、あの二人が両想いとは思えないけどねー」
「じゃ、じゃぁ、なんで、」
「――二人の中心にいるのは誰かしら?」

 姉ちゃんは俺の反論を遮るようにそう言って「じゃぁねー」と部屋から出ていった。

 そして誰も居なくなった……、じゃなくて、取り残された俺は首元を手で押さえた。

 中心……って、俺?

 俺みたいな地味メンのコミュ障が、学校イチのイケメンと美少女から好かれるなんて、んなことあるわけないじゃん……。
 俺は、二人の緩衝材みたいなものなのに。

 姉ちゃんの言ってることはわかったけど、癪善としないまま中条が一人で戻ってきた。ひよりは大丈夫だったか、と聞けば「大丈夫だろ、あのイノシシ女だぞ」と冷たい中条だった。
 中条は「あー疲れた」と呟いて座ると、のんきに麦茶を飲み始める。ごくごく、と喉が上下するのが妙に色っぽくって目が離せない……。

「――って、そうじゃない! お前、これどうしてくれんだよ!」

 危うく忘れそうになっていたキスマークを思い出して俺は抗議するも、当の本人は「やっと気づいた?」なんて、どこ吹く風。

「姉ちゃんに見られたし、相手がお前だってバレたんだけど!」

 自分で気づかないという失態を犯した上に、姉に知られ、さらに相手が男という三重苦を味わうはめになったんだぞ。

「で、尊は環さんになんて説明したの」
「ふざけてしたって言った」
「環さん、なんか言ってた?」
「……いや、べ、別に」

 俺が二人が両想いだと思ってるとか、姉ちゃんが二人が俺を思ってるって言ってたなんて話は言えない。口ごもる俺を、中条はニヤリと笑う。

「ふーん、なんか言われたんだ」
「だ、だから、言われてないってば」
「ホントに?」

 立ち尽くす俺の手を中条が握った。
 ちょっとごつごつした手。
 肌と肌が触れ合った感触が、なんだかやけに生々しく感じる。
 かぁっと体の中心から熱が放出されるのを感じて、中条から離れようと一歩下がった。けれども、振り解こうとした手を強引に引かれた俺は、座る中条めがけて前のめりに倒れ込んでしまう。

「あっ……ぶなー……っ」

 中条に覆いかぶさるような体勢になっていた俺は急いで離れようとする。だけど、それよりも早く中条が俺に近づいた。その気配を感じた時にはもう唇同士が重なっていた。

 だめだ……、なにも考えられなくなる。

 中条の手が後頭部に添えられて俺の髪を優しく梳いていく。指が首筋を掠める度に俺の体はびくっと否応なしに反応してしまう。

「――はっ……」
「なぁ、環さんなんて言ってたの?」
「だから、別になにも……んん」

 言い終わる前に口づけられる。さっきよりも深く、まるで食べられてしまいそうな勢いで。

「俺のことサイテーだって?」
「ち、ちが……そんなこと――っんぅ」

 また重なる唇。
 もう、わけがわからなくて、突っ張っていた腕にも力が入らなくて脱力してしまった。
 呼吸も苦しいし、刺激は強いし、体は反応寸前だしでパニックだ。

「尊、可愛いすぎ。もーたまんねぇっ」
「うわっ」

 急に中条が俺を抱きしめたまま後ろに倒れ込んだ。

 完全に中条の上に乗っかった俺は身動きが取れない。顔だけ持ち上げれば眼下に整いすぎた国宝があった。俺を見つめるその目は、深く透き通っていて美しい。
 何か言いたげに揺れる瞳に見惚れてしまう。

「あのさ、俺が好きなのは――」

 す、好きなのは……?

 ごくり、と喉が鳴る。
 ひよりだと、わかっていても、期待してる自分がいた。そんなことは、あり得ないのに、姉ちゃんのせいだ。
 けど、もう、ひよりの「代わり」はいやだった。代わりなのに、こんなにも心を乱されて、振り回されるこっちの身にもなって欲しいってもんだ。

 中条が次につむぐ言葉を一文字たりとも逃すまい、と口元を凝視して待っていたのに――

「――はいっ、そこまで! 私の目の前でリアルBLはご遠慮くださいませー」
「うわああああ!」

 唐突に降ってきたひよりの声に、俺は文字通り叫びながら飛び退いた。

「ひっ、ひより……」

 ドアの方を見れば、ドア枠に寄りかかってるひよりの姿。

 つーか、ドア! 開いてたのかよ!
 一体、いつから居たんだこいつは……⁉

「ったく、邪魔すんなよ。いいとこだったのに」

 ちぇっと舌打ちする中条を俺は睨む。
 お前がドアをちゃんと閉めないから見られたじゃないか!
 そう怒鳴りつけたいのを堪える。それよりも、ひよりになんて言えばいいのか俺は頭をフル回転させた。

「あー、もう最悪最低! イケメン先輩のどクズ! みっくんの馬鹿!」
「ひより……こ、これは、誤解で――」
「なにが誤解よ! イケメン先輩のこと押し倒して舌絡ませて! もうBL以外のナニモノでもないし!」

 うわあああ、バッチリ見られてるーーー!
 でも俺は断じて押し倒していない! 中条が手を引っ張ったせいで倒れただけだ!
 そこの誤解だけは解いておきたいが、とてもそんなことを言える雰囲気ではない。

「ひ、ひよりさん、ちょっとボリューム落とそうか……」

 そんな大声で叫ばれたら下にいる母さんの耳にまで届きかねないじゃないか……。頼むから、これ以上俺の黒歴史を増やさないでくれ!

 だけどそんな願いは虚しく、ひよりはますますヒートアップしていくものだから、俺は急いでドアを閉めた。
 そうすれば、ひよりがギロリと俺を睨む。
 美少女の怒りに満ちた顔の迫力たるや……。
 背筋が震えあがった。
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