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俺の週末キューピッド作戦は成功に終わった。
――と、言えるのか?
あの日以来、顔を合わせれば前にも増して飛び交う言い合いに拍車がかかっているようにすら思う。
しかも俺を間に挟んで、だ。
いくらなんでも、恥ずかしがり屋が過ぎるんじゃないか?
でもまぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うしな……、多分大丈夫。と自分に言い聞かせる俺。
相変わらずのもやもやを胸に抱きながらも、俺はふたりをあたたかく見守り、時にそっと背中を押してやろうと思っていた。
そんな、平和(?)で穏やか(?)な日常を送っていた矢先、事件は起こった。
「miccoとのリンスタの件、だいぶ落ち着いてきたよな」
掃除当番でじゃんけんで負けた俺は、ごみ捨てに来ていた。重たいごみ袋を持って……と言いたいところだが、それは今隣を歩く中条が持ってくれている。(俺は自分で持つと言ったのに、頑なに返してくれなかった。)
最近、なぜか俺と一緒に下校したがるこいつが、「暇だから」と勝手についてきたのだった。
俺たちは昇降口から靴に履き替えて、ゴミ捨て場のある校舎裏へと進んでいく。体育がなかった今日は、外気が頬に心地いい。
「そうだなー、まだ呼び出しあるけど」
「あー……」
呼び出し、それは告白の呼び出しだ。前から人気だったこいつが、リンスタグラマーとコラボしたことで株が高騰。ワンチャン狙った女子生徒たちの特攻隊が後を絶たない。身を投げた隊員たちが戦場で屍と化したのは言うまでもない。――冥福を祈る。
「モテる男はツラいなー。……まぁ、振られた女子たちも哀れだけど」
なにを隠そう、こいつはひよりに想いを寄せているんだから、致し方ない。
「人の好意を拒むっていうのも、結構しんどいんだけどな」
「あ、そ、そうだよなっ、悪い、責めてるわけじゃないんだ」
慌てる俺に、中条は「わかってるよ」と微笑みを返してくれる。その笑顔が優しくて、俺の心臓がとくんと鳴った。イケメンの笑顔って、心臓に悪いな。
「半分というか、大半は尊のせいなんだぞ?」
「そうだよな、俺と姉ちゃんが写真を投稿したのが元凶だもんな、」
「――じゃなくて」
静かな校舎裏、俺と中条は歩を止めて向かい合った。俺はこいつの言わんとすることがわからなくて次の言葉を待つ。
「俺、お前以外のヤツに興味持てないんだもん」
「……ん?」
俺以外のヤツに興味が持てない?
どういう意味だ?
あれ?
「えっと、中条……?」
miccoのことを言っているのだろうけれど、miccoは俺だし、俺は男だし。
だから今は、ひよりに想いを寄せてるんだよな?
「だから、責任とってよ」
「せ、責任って……? え? なに、を」
ひよりとの間を取り持てってこと?
今、ひよりのひの字すら出てないのに?
全くもってわからない。
けれど、俺を見つめる熱のこもった目に釘付けになる。
なにかを強く訴える深い茶色い瞳には、俺だけを映していた。
「ちょっと試させて?」
俺は、会話の前後から、その言葉の意図を理解できないまま、目の前の中条を見上げる。
俺よりも10センチは遥かに高い所にある顔は、とても綺麗で……、男に向かって綺麗だと言うのはあまり喜ばれないかも知れないけど、俺の目にはそう映った。
明るく染められた茶髪と、耳に飾られた幾つものピアス。そのどれもが見劣りすることなく、よく似合っていると思う。
試すって、何を?
俺たちは今、掃除当番でごみ捨てに来ているだけなのだ。何を試す必要があると言うのか、疑問に思ってそう言おうと口を開いたとき――――
「んんっ?!」
俺の口はなにか、柔らかいもので塞がれていた。
言うまでもなく、それが中条の唇で、ぬるっと差し込まれたのは舌であることにはすぐ気づく。
何度も漫画やテレビで見ては、どんな感じなんだろうと想像していたキスだ。
自分の身にそれが起こっていることに驚いた俺は、条件反射のように中条の胸を押しのける。しかし、腰をがっちりとホールドされていてびくともしない。顔を逸らそうにも、後頭部をがっしりとつかまれていてそれも無理だった。
「ん……ふぅっ……はっ」
あ、やば……。
――キスって、こんなに気持ちいんだ……。
初体験からの発見。
なにがどうなってこうなっているのか、わからないけど。
抵抗なんか忘れるくらいの快感に支配され、俺の頭にはそんな感想だけが浮かんでいた。
甘い刺激に、脳が蕩けてしまいそうだ……。
「……っ……ふ……ん……」
どのくらい、キスしていたのか。
ようやく頭が現実を見始めた頃、俺は解放される。
「――はっ……はぁ……っ」
しかし、俺は突然与えられた刺激的すぎる快感と酸欠とでふらついてしまう。
「大丈夫か?」
――しっかりしろ、俺!
俺は男で、こいつも男だということを忘れてはいけない。
しかも、ここは学校。
恥ずかしいのに、朦朧とする頭で見上げれば、こちらを見下ろす中条と目が合った。
頬を上気させ恍惚とした表情に、不覚にも胸がドクン、と跳ねる。
あぁ、忘れてた。
こいつが、学年、いや学校一のイケメンだってこと。
そのせいで、俺のファーストキスを奪ったこいつを怒るべきなのに、そんな感情はなぜだか沸き起こってくる気配がない。
それどころか、「そんなに良かった? 俺のキス」と言わんばかりのドヤ顔に、見惚れてしまう。
くっそ……。
悔しいけど、言い返せない。(言われてもないけどな)
俺がなにも言えないでいると、国宝級イケメンはとんでもないことを口にした。
「あー……やば……、その顔めっちゃそそる、もっかいしてい?」
「いっ、いいわけないだろ! バカやろぉぉぉおおおお!」
俺は走って逃げだしていた。
俺の週末キューピッド作戦は成功に終わった。
――と、言えるのか?
あの日以来、顔を合わせれば前にも増して飛び交う言い合いに拍車がかかっているようにすら思う。
しかも俺を間に挟んで、だ。
いくらなんでも、恥ずかしがり屋が過ぎるんじゃないか?
でもまぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うしな……、多分大丈夫。と自分に言い聞かせる俺。
相変わらずのもやもやを胸に抱きながらも、俺はふたりをあたたかく見守り、時にそっと背中を押してやろうと思っていた。
そんな、平和(?)で穏やか(?)な日常を送っていた矢先、事件は起こった。
「miccoとのリンスタの件、だいぶ落ち着いてきたよな」
掃除当番でじゃんけんで負けた俺は、ごみ捨てに来ていた。重たいごみ袋を持って……と言いたいところだが、それは今隣を歩く中条が持ってくれている。(俺は自分で持つと言ったのに、頑なに返してくれなかった。)
最近、なぜか俺と一緒に下校したがるこいつが、「暇だから」と勝手についてきたのだった。
俺たちは昇降口から靴に履き替えて、ゴミ捨て場のある校舎裏へと進んでいく。体育がなかった今日は、外気が頬に心地いい。
「そうだなー、まだ呼び出しあるけど」
「あー……」
呼び出し、それは告白の呼び出しだ。前から人気だったこいつが、リンスタグラマーとコラボしたことで株が高騰。ワンチャン狙った女子生徒たちの特攻隊が後を絶たない。身を投げた隊員たちが戦場で屍と化したのは言うまでもない。――冥福を祈る。
「モテる男はツラいなー。……まぁ、振られた女子たちも哀れだけど」
なにを隠そう、こいつはひよりに想いを寄せているんだから、致し方ない。
「人の好意を拒むっていうのも、結構しんどいんだけどな」
「あ、そ、そうだよなっ、悪い、責めてるわけじゃないんだ」
慌てる俺に、中条は「わかってるよ」と微笑みを返してくれる。その笑顔が優しくて、俺の心臓がとくんと鳴った。イケメンの笑顔って、心臓に悪いな。
「半分というか、大半は尊のせいなんだぞ?」
「そうだよな、俺と姉ちゃんが写真を投稿したのが元凶だもんな、」
「――じゃなくて」
静かな校舎裏、俺と中条は歩を止めて向かい合った。俺はこいつの言わんとすることがわからなくて次の言葉を待つ。
「俺、お前以外のヤツに興味持てないんだもん」
「……ん?」
俺以外のヤツに興味が持てない?
どういう意味だ?
あれ?
「えっと、中条……?」
miccoのことを言っているのだろうけれど、miccoは俺だし、俺は男だし。
だから今は、ひよりに想いを寄せてるんだよな?
「だから、責任とってよ」
「せ、責任って……? え? なに、を」
ひよりとの間を取り持てってこと?
今、ひよりのひの字すら出てないのに?
全くもってわからない。
けれど、俺を見つめる熱のこもった目に釘付けになる。
なにかを強く訴える深い茶色い瞳には、俺だけを映していた。
「ちょっと試させて?」
俺は、会話の前後から、その言葉の意図を理解できないまま、目の前の中条を見上げる。
俺よりも10センチは遥かに高い所にある顔は、とても綺麗で……、男に向かって綺麗だと言うのはあまり喜ばれないかも知れないけど、俺の目にはそう映った。
明るく染められた茶髪と、耳に飾られた幾つものピアス。そのどれもが見劣りすることなく、よく似合っていると思う。
試すって、何を?
俺たちは今、掃除当番でごみ捨てに来ているだけなのだ。何を試す必要があると言うのか、疑問に思ってそう言おうと口を開いたとき――――
「んんっ?!」
俺の口はなにか、柔らかいもので塞がれていた。
言うまでもなく、それが中条の唇で、ぬるっと差し込まれたのは舌であることにはすぐ気づく。
何度も漫画やテレビで見ては、どんな感じなんだろうと想像していたキスだ。
自分の身にそれが起こっていることに驚いた俺は、条件反射のように中条の胸を押しのける。しかし、腰をがっちりとホールドされていてびくともしない。顔を逸らそうにも、後頭部をがっしりとつかまれていてそれも無理だった。
「ん……ふぅっ……はっ」
あ、やば……。
――キスって、こんなに気持ちいんだ……。
初体験からの発見。
なにがどうなってこうなっているのか、わからないけど。
抵抗なんか忘れるくらいの快感に支配され、俺の頭にはそんな感想だけが浮かんでいた。
甘い刺激に、脳が蕩けてしまいそうだ……。
「……っ……ふ……ん……」
どのくらい、キスしていたのか。
ようやく頭が現実を見始めた頃、俺は解放される。
「――はっ……はぁ……っ」
しかし、俺は突然与えられた刺激的すぎる快感と酸欠とでふらついてしまう。
「大丈夫か?」
――しっかりしろ、俺!
俺は男で、こいつも男だということを忘れてはいけない。
しかも、ここは学校。
恥ずかしいのに、朦朧とする頭で見上げれば、こちらを見下ろす中条と目が合った。
頬を上気させ恍惚とした表情に、不覚にも胸がドクン、と跳ねる。
あぁ、忘れてた。
こいつが、学年、いや学校一のイケメンだってこと。
そのせいで、俺のファーストキスを奪ったこいつを怒るべきなのに、そんな感情はなぜだか沸き起こってくる気配がない。
それどころか、「そんなに良かった? 俺のキス」と言わんばかりのドヤ顔に、見惚れてしまう。
くっそ……。
悔しいけど、言い返せない。(言われてもないけどな)
俺がなにも言えないでいると、国宝級イケメンはとんでもないことを口にした。
「あー……やば……、その顔めっちゃそそる、もっかいしてい?」
「いっ、いいわけないだろ! バカやろぉぉぉおおおお!」
俺は走って逃げだしていた。
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