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しおりを挟む忘れてた……。
俺は、やつの要望であるデートに付き合った目的を、たった今思い出した。
あいつが、どういう意図で俺に彼女になれと、デートがしたいと言い出したのか、知りたかったんだ。
「ほぉほぉ、本来の目的を忘れるほど楽しかったんですかぁ」
「ち、違うって……」
否定したところで虚しいかな、なんの説得力もない。
「そ、そういえば、姉ちゃんに会いたがってた」
っだー! バカか俺は。
話を逸らしたくて焦った勢いでいらんことまで口走ってる。
「私? なんで?」
「さ、さぁ? 俺に聞かれても……」
「まぁ、良いわ。今度の撮影に連れておいでよ。イケメンを私の手で美少女にしてあげるわ。んで、miccoと二人で私の服着て写真撮ろう」
「いや、さすがにそれは嫌がるんじゃ……」
姉ちゃんはなにか閃いたらしく、一人の世界に入り込んでぶつぶつとなにか呟いている。
「イケメンの写メとか無いの? あと身長も」
「え、写真……」
俺の動揺を見逃さなかった姉ちゃんはニヤリと笑う。
あ、と思った次の瞬間には、目にもとまらぬ速さでテーブルの上に放り出されたスマホを奪い取った。その速さと言ったらかるたの大会で見るアレだ。
「うわー! やめろぉ!」
手際よくロック(俺の誕生日)を外した姉ちゃんに、俺は諦めの境地だ。幼い頃から刷り込みよろしく、体にしみ込んだ上下関係(もはや主従関係)は覆ることはないらしい。
「うっわ、やっば! つか、ちゃっかりツーショット撮っちゃってぇ。これ、どっからどうみてもリア充のハイスぺカップルにしか見えないわー」
それは、カフェでスイーツを前に二人並んで撮った写真。中条がどうしてもと言うから仕方なく撮った一枚だ。
「身長は?」
「180くらいかな、目測だけど」
「体格は? 華奢?」
「ん-、着やせするタイプかな、……知らんけど」
腕を引かれて触れた時のことを思い出して、かぁっと頬が火照った。
「いいねいいねー。次の土曜日、マジで連れてきて! わかった?」
そう言う姉ちゃんの目はキラキラと輝いていて、背筋に冷たいものが走った。
*
土日が過ぎ去り、月曜日。
いつもと変わらない朝、顔を洗ってからリビングへと足を運ぶ途中、家族のものと明らかに違う声が聞こえて、俺のテンションは一気にマイナスへと急降下。
ただでさえ中条のことがあって頭を抱えているというのに、これ以上の面倒ごとは勘弁してほしい。
かと言って、朝食を食べないわけにはいかない俺は、仕方なくリビングへ入っていく。
「みっくん、おはよー」
「なんでいんだよ、ひより」
俺の予想通り、制服姿のひよりが姉ちゃんと楽しそうに喋って笑いあっていた。麦茶を入れに台所に向かえば、「まずは挨拶でしょうが」と母親に頭を小突かれる。危うく麦茶をこぼしそうだった。
「一緒に学校行こうと思って」
勘弁してくれよ。
心の叫びは声にださず、飲み込んだ。もうここに居るのだから、嫌だと言ったところで無駄な抵抗だろう。それよりも、学校までの道のりをひよりとどうやって距離をとるかを考える。
「ひよりんますます可愛くなって~! 今度尊の代わりにモデルどう?」
ひよりは、女同士ということもあり、姉ちゃんとも昔から仲が良くて、家族以外でmiccoが俺だと知る唯一の人物でもある。(あ、今はそこに中条が加わったんだっけ)
幼稚園の頃、女のひよりは成長が早く、俺より背が高かったのもあり、姉と一緒に俺を着せ替え人形にして遊んでいた。
「えぇ、嬉しい! たまちゃんの服、リンスタで見てるけど一回着てみたいと思ってたんだよ! でもいっつもすぐ売れちゃうし学生には手が出ないお値段だからさー」
「そうだったの? 言ってくれたら安くするのに」
そこはプレゼントするんじゃないんだ、と俺は苦笑する。実に守銭奴の姉ちゃんらしいと思った。
姉ちゃんの作る服は、どれも意匠をこらしたデザインのものばかりで一般向けではないが、コアなファンが多く1点ものというのもありそこそこ値が張るため、ひよりの言う通り学生のだせる額ではない。
それに制作に時間もかかるため、販売は不定期かつ争奪戦となる。
「尊もひげが濃くなってきたし、そろそろモデル降板かしらねー」
姉ちゃんの思いがけないセリフに俺はギョッとする。驚きのあまり緩んだ箸の隙間からソーセージがポロっと落ちて皿に逆戻り。
「ぶっ! 尊慌てすぎー」
「いや、だって……」
ちょっと、びっくり。
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俺は不安になって、確かめるように顎をさすったが、つるつるとした肌ざわりしかしなかった。
うん、女子だって顔負けの美肌だ。
「冗談よぉ。尊にはまだまだ広告塔で居てもらわなくっちゃ困る」
「miccoの服はmiccoが着てこそ真の魅力が引き出されるんだもんね」
姉ちゃんの隣で、そう鼻息を荒くするひよりに、内心つぶやく。
miccoの専属モデルは譲らねぇからな。
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