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「――イケメン先輩はみっくんをどうしたいんですか?」

 イノシシ女と出かけるからと言って俺を誘った尊。なにか企んでいるとは思ったが……、まさかこいつと俺をくっつけようとしてるとは思わなんだ。

 なにがどうなったらこのカップリングが上手くいくと思ったのか……、尊の思考回路が全くもって理解できない。

 にしても、イノシシ女のヤツ脈無しもいいとこだな。

 さすがの俺も、哀れに思えてならないが、当の本人は開き直っているようなので放っておいて問題なさそう。

「――どうしたい……ねぇ……」

 正直、深く考えてなかったんだよな……。別に今が楽しければいーじゃん、みたいな。ずっと恋焦がれていた白雪姫を見つけて舞い上がってたのもある。

「恋愛対象、同性なんですか?」

 ずけずけと聞いてくるイノシシ女にちょっとイラっとしながらも、俺はいい機会だと「いんや、女の子大好き。……だけど……」と間をおいて、目の前のちっこい女を見る。

「だけど?」

 美少女だと周りからもてはやされるのも納得の、大きな瞳を俺はまっすぐ見つめて言った。

「尊は俺の特別なんだよ」

 このイノシシ女にも誰にも渡したくないくらいに、特別だ。
 どうしようもない独占欲が、俺の中にあった。

 それを、今更だけど、イノシシ女にも釘を刺しておこう、とはっきりと伝えれば、生意気にも鋭い双眸で睨み返された。幼馴染として長い付き合いの尊との間に、俺が突然入り込んできたんだから、イノシシ女からすればたまったもんじゃないだろうな。

 悪いが、そんなの、俺の知ったことではない。

 自分でも、尊への独占欲がなにからくるものなのか、正直わからない。
 あいつは男なのに、こんなにも惹かれるなんて、不思議でしかたなかった。でも、しょうがないじゃないか、好きなものは好きなんだから。

 恋だの愛だの友情だのなんだのと、名称を付けなきゃいけない決まりなんてどこにもないだろ。

 俺は、内心開き直りつつ、ついこの間、外階段で尊を抱きしめたことを思い出す。

『なんか、俺にできることあれば言って』

 リンスタのことで質問攻めにあう俺に責任を感じた尊が、罪滅ぼしで言ったそれに乗じて抱きついた。
 半ば衝動的にとった行動だったけれど、尊のやわらかな香りに包まれた瞬間訪れた幸福感に、それまでの疲労感なんか一瞬で吹っ飛んだ。

 尊は、見た目はそりゃ文句なしにかわいいけど、中身だって知れば知るほど憎めないかわいいやつだ。真面目でちょっと冗談が通じなかったり、恋愛事情に疎かったり、からかいがいがあって面白い。

 あと、姉ちゃん思いの弟で、イノシシ女のことでさえ大切にしている優しいやつ。
 miccoになれば、人が変わったように真剣にmiccoになりきっているし、この前の撮影なんか、俺に対抗心むき出しで向かってきてた。その一生懸命さがまたなんともいじらしいんだ。

 気づけば、いつも尊のことばかり考えてる自分がいる。

 今日だって、イノシシ女が一緒だとわかっていたけど、楽しみで仕方がなかった。

 目の前でにこにこと満足そうにコーラを飲む尊を見て、俺まで幸せな気持ちになる。隣で目を吊り上げて俺を睨むイノシシ女なんか視界に入らない。

 例え、言い出しっぺが今日のプランを何一つ考えてなかろうと、許せてしまうだけのかわいさがあるんだ、尊には。





 ファミレスで昼食を済ませた俺たちは、中条の提案で近くにあるスポーツやアミューズメントが楽しめる大型レジャー施設へと足を運んだ。

「さぁ、食後の運動と行こうじゃない」

 無駄に張り切るひよりと、それに悪乗りする中条を遠目に見ながら俺は観戦を決め込もうとしていたのに、二人ともなにをするにも俺を引っ張って……。

 今日のデートは、キューピッド作戦なのに。

 俺は影を潜めて二人だけにしてやろうと思っていたのに、そんな俺の思惑とは裏腹に二人は俺を離してくれなかった。

 頑なに俺を引っ張りまわす二人を見て、そうか、二人きりになるのが恥ずかしいのかもしれない、と思った俺は、仕方なく付き合うことにする。こうして三人で過ごすうちに慣れていくだろう。

 こう見えて、長期戦は得意だ。

 なんてたって、生まれた時から姉ちゃんのままごとに付き合わされてきたんだからな。こう言ってしまえば姉ちゃんに怒られそうだが、現在進行形と言っても過言ではない。

 長年培ってきた忍耐力がこんなところで役に立つのは喜ばしいことだ。

 だけど、俺は、中条とひよりがわーわー言い争うのを、微笑ましいなと思う一方で、フクザツな気持ちで見ていた。

 俺を間に挟んで楽しそうに笑い合う二人は、こうしてみると本当に美男美女のお似合いカップルだし、こうして地味さマックスの俺が居るのもなんだか場違いで不釣り合いだと思い知る。

 なにより、俺を落ち込ませる原因は……、もしこの二人が付き合ったら、俺と中条の関係がなくなってしまうのではないか、という不安だった。

 ひよりとは、長い付き合いというのもあって、その不安はなんとなくない。
 けれど、中条は別だ。
 俺と中条はmiccoをきっかけに急接近したものの、関係自体は1カ月も経っていないのだ。ましてや俺は中条の想い人であるひよりの幼馴染という、いやーなポジションでもある。

 そんな男と、仲良くしたいと思うだろうか……。

 今でこそ利用価値があるだろうが、晴れて付き合えたなら俺はお払い箱だろう。

 そう考えたときに、このままの関係がいいなんて思ってしまう、薄情で心の狭い自分がいて心底辟易した。

 中条の、心を許したような、あのなつっこい笑顔がひよりに向けられるたびに、お腹のなかにもやっとした気持ちがもくもくと膨れていく。

 あの笑顔は、俺にだけ向けられていたはずなのに……。

 なんなんだろうか、この気持ちは。

 俺の目の前で仲良く笑いあう二人を眺めながら考えていたけれど、答えなんか見つからない。

 俺は、今までに感じたことのないその感情に、言いようのない不安を覚えていた。


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