テイムズワールド

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ダンジョン都市 アビスブルク

この想いの行方は

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 一夜明け、またユニに運んでもらってアビスブルクの冒険者ギルドに戻って来た。朝から鉱石採取と意気込んでいたが、いつの間にか、昨日レムちゃんが無双して倒した魔物や、唯一ダンジョンの壁を壊せる採掘のダンジョンの壁から目的のインバニウムとマナタイトが手に入っていたのだ。
 鉱石関係だけなら、金、銀、銅、インバニウム、マナタイト、ミスリル、オリハルコン、他にも宝石の原石が幾つもあり、ゴーレムの魔石やガーゴイルの魔石などの魔石系は軽く千を超えている。

「すみませーん」
「あん?お、昨日のジャッジメントか。言いそびれてたが昨日はギルド内をキレイにしてくれてありがとよ。こんなに豪華な所で働いてたなんて知らなかったぜ」
「いえいえ、オレ達もただ呼吸出来ればいいと思ってただけですので」
「まぁ、それでも有難いんだ」
「そうですか。お気持ちは十分伝わりましたから受け取っておきます。それから、採掘のダンジョンについて報告をと思いまして」

 それからオレは昨日の出来事をざっくりと説明し、採取のダンジョンから魔物が一時的に居なくなったので鉱石を取り放題だと教えた。

「鉱石は持ってるのか?」
「はい、元々探していた物もたくさん手に入りましたし、シェルバーグの工房に持って行くつもりです」

 朝一でギルドに来たので多くの冒険者がこの話を聞いており、鉱石目当てに走って出て行く者が多数いた。それをオレ達は呆れた目で眺めた。

「ロープウェイ動いてないから下まで降りるのは過酷だよ…」
「はんっ!目先の欲に踊らされやがって。おい、お前ら領主んとこ行くぞ。付いて来い」
「え、え?ギルド員さん?」
「セナ!お前は採掘のダンジョンが入れるのか確認して来い。俺が行くまで誰も中に入れるなよ」
「分かったなの。任せて」

 ギルド員のおじさんは後方事務の小柄な女性ギルド員に声を掛けると、話についていけないオレ達を連れて隣の領主邸に乗り込んだ。







 領主邸の衛兵はギルド員と顔見知りなのか、二、三言葉を交して敬礼をすると、中に通してくれた。衛兵が玄関のドアをノックしてメイドに取り次ぐと、そのメイドは慣れた様子でギルド員とオレ達を案内し、執務室だと言う部屋をノックした。

「恐れ入ります。ギルドマスターのグウェンダル様とCランクパーティーのジャッジメントの方がお見えです」
「通して」
「失礼します。どうぞお入りください」

 オレ達はギルドマスターと呼ばれたグウェンダルさんを先頭に中へ入り、領主様に掛けてちょうだいと言われたので、適当に座った。
 メイドがテキパキと紅茶とクッキーを準備して置くと静かに退室していく。

 ギルドマスターのグウェンダルは褐色の肌に黒い顎髭を生やした絶対堅気じゃない雰囲気のおじさんだ。
 それに対して領主様はまだ若そうな、それこそワッサンと同じくらいの年齢に見える雰囲気がキツそうな女性だった。何と言うか、色々際どい服で目のやり場に困るタイプの人だ。褐色の肌に銀の髪を高い位置で一纏めにし、纏めた髪に簪を刺している。エロ過ぎる。
 ユニに踵でオレの爪先をグリグリ踏み潰された。妄想すら許してもらえないので煩悩を頭から追い出してテーブルをガン見する。イクトの反応を見ていたグウェンダルはハンッと鼻で笑った。

「この女は辞めとけよ。口説こうものなら蛇に食べられると思えよ」
「あら、ご挨拶ね」

 領主様は執務机から立ち上がって、オレの隣のソファーに掛ける。セレブが着ていそうなタイトなドレスを身に纏い、ギャザーで谷間は見えないけど胸の膨らみが大き過ぎてあれだし、うなじの後れ毛がモロにツボを抑えててストライクゾーン!何処も見れない!
 領主様は妖艶な笑みを浮かべて紅をさした口を開いた。

「初めまして。このダンジョン都市アビスブルクの領主、オフィーリアよ」
「その耳は、まさか」
「ええ、そのまさか。エルフなの」

 ワッサンは、ピシリと背筋を伸ばすとオフィーリアを見つめた。オフィーリアは唇と同じくらいの赤い瞳でオレ達を眺める。

「え!もしかして、ワッサン!もしかして!」
「喧しい」

 ワッサンはイクトの頭をペシリと叩いて溜め息をついた。エルフと聞いて何故平然としていられるのか。

「エルフは森の民だ。人嫌いで、場所は定かでは無いが世界樹のあるエルフの森から出て来ない。その美しさから他種族から狙われやすく、森を利用した植物魔法や風属性魔法、水属性魔法に高い適性があるらしい。それがこんな場所で会えるとは」
「ワッサンがいつに無く饒舌ね」

 興奮した様子で早口で喋るワッサンは、喋り終わると緊張した様子で、ぎこちない動きで紅茶に手を伸ばした。ユニは呆れてプフーと鼻を鳴らすと、お茶請けのクッキーをポリポリ食べる。

「うふふっ、エルフと言ってもこの見た目から分かるでしょう?ダークエルフと揶揄われているわ」
「それでもあんたはそんな事関係無く、皆に平等に接して来ただろ。だから皆に慕われ領主の地位に居るのだ」
「グウェンったら、いつも会う度に口説いてきたから私に辞めて欲しいのかと思ってたわ」
「バッ!そ、それが俺なりの挨拶なんだよ」

 グウェンダルはオフィーリアに初めて会った時、あまりの美しさから、「結婚を前提に結婚して欲しい」とプロポーズした。グウェンダルが18歳の時の事だ。もちろん、既に領主としてアビスブルクを統治していたオフィーリアに即拒否されたが、それ以降、事ある度にプロポーズしては玉砕していた。
 オフィーリアが好きで好きで仕方が無い程愛しているので、近寄って来る男には危険な女だと嘯き、それをオフィーリアに揶揄われるまでがお約束となっている。オフィーリアが自分を卑下する様な事を言えばフォローも欠かさない。


「いつも言ってるだろう。君を手伝う為にギルドマスターになったのだ。君の利益になるのなら、ギルドの総力を上げて今回の問題を解決してみせよう」
「うふふっ、ギルドマスターになるには実力だけじゃなれないでしょう?周りの人が認めてくれているんだから、そんな事言わないで。それに職権乱用は貴方の首を絞めてしまうわ」
「君の役に立てるのなら、喜んでギルドマスターから降りよう」
「グウェンったら。それは私が望んでないでしょう」
「だから、俺が解決出来るかもしれないから動いているんだ」
「私は貴方の身を案じているのよ」
「オフィーリア……」



「プフーン。何だか、ご馳走様って感じ?」
「オレは何をしに来たんだっけ」
「空気を読め」

 グウェンダルは褐色の肌でも分かりやすい程に顔や耳が真っ赤になっている。それを見て、オフィーリアは切なそうに目を伏せたが、直ぐに笑みを浮かべて手を叩いた。

「さっ!本題に入ってちょうだい」

 オレは領主様のさっきの哀しそうな表情を頭から追い出すと、グウェンダルの顔を見て話を聞く体勢になった。グウェンダルは赤らめた顔を手で扇ぎながら説明を始めた。

「昨日、このジャッジメントが開かずのダンジョンに挑みに行って、どう言う訳か入り口を塞いでいたあの大岩をどうにかしたらしい。そして、長らく放置状態だったダンジョンから魔物が溢れるスタンピードが起きて、討伐して被害を食い止めてくれたらしい」
「へぇー。そうなの?あら凄いじゃない。まぁ、確かに金黒狼が居れば不可能じゃないかも知れないけれど、それでもそちらのお二人を守りながらならちょっと信じられないわね」
「そこはオレのテイムした守護獣が頑張ってくれたので」
「まぁ、何にせよ実際にスタンピードが起きたのなら、ダンジョン内は魔物が暫く現れなくなる。それなら採掘にうってつけの環境になるからな。今、ギルドの偵察要員に確認に行かせている」
「そう、それなら私も確認に動こうかしら」

 オフィーリアは窓の側に置かれているフクロウの置き物に、フッと息を吹きかけた。するとフクロウは真っ白でふわふわした羽をファサファサ羽ばたかせて飛び上がり、部屋の上空を数回飛んで回るとテーブルの上に降り立った。

「この子は私の目となり耳となって情報を教えてくれるの。流石に私が直接出向く訳にはいかないから、この子を貴方達に同行させてもらうわね。ロープウェイの運搬処理はこっちで何とかしておくから、先に行きなさい」
「オフィーリア、よろしく頼む」

 グウェンダルはオフィーリアのフクロウを肩に乗せて、オレ達を連れて執務室を後にした。
 一人、部屋に残ったオフィーリアは、ほうっ、とグウェンダルを思い出し、エルフと人間が結ばれるなんて、神がいるのか信じていないが、可能ならお許しくださいと心の中で祈った。






「やっぱりこうなるのおおおおぉぉぉ!!!」

 昨日に引き続き、拝借していた荷車をユニに繋いで運んでもらう。一度体験してるけど怖いものは怖いので荷車の縁を必死で掴む。
 隣ではグウェンダルが白目を剥いて意識を手放していたので、ワッサンが襟を掴んで落下しない様に後ろからグウェンダルの腹に脚を回して押さえ込んでいた。

「これ見ちゃうと平気な気がしてきた」

 目を凝らして見ると、採掘のダンジョンに向かって、林の中や崖を移動している冒険者達がいた。その冒険者に対って、親切心から「先に向かいまーす」とイクトは叫んだ。
 ロープウェイがあれば、30分しないで行き来出来る距離だが、徒歩で移動となると険しい山道なうえ、踏み均されていないのでかなりしんどい。下手すれば死者も出るだろうが、そこは自業自得。冒険者に保険制度も障害手当も何も無い。自由だからこそ命懸けで取り組むのだ。
 そんなひーこら言ってる冒険者を置いて、ユニ馬車御一行は採掘のダンジョン前に到着した。そこにはセナと呼ばれた偵察要員のギルド員が一人だけ待機していた。

「お疲れ様です。ギルドマスター。まだ誰も到着してないの」
「ご苦労だったな。早速オレ達は中に魔物が居ないか調査してくる。領主様も監視しているから、状況次第では直ぐにロープウェイが復活して、鉱山夫や護衛の冒険者が送り込まれてくるだろう」
「分かったの。欲望剥き出しの悪い子ちゃんが来たら、入れない様にしておくの」

 上空を悠然と飛んで舞い降りて来たフクロウが、グウェンダルの肩に止まった。そしてオレ達はギルドマスターのグウェンダルと採掘のダンジョンに入る。


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