テイムズワールド

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はじまり

お股はレディに捧ぐ

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 ユニコーンはパカパカオレに近付くと、オレの顔をのぞき込んだ。
 ちょっと鼻息荒いし生温い風で目が乾くんですけど!あーやるなら人思いにやってちょうだい。さらば第二の人生。さらば童貞。やっぱり彼女欲しかった!

「プフーーッ」
「あ゛?」

 笑った?こいつ笑ったよね!?

「アナタ面白いわね。アタシを前にして童貞とか彼女とかって、ぷふっ」
「はぃ?え、なんで?」

 ユニコーンはオレの顔から離れると佇まいを澄ます。地面から3メートルくらいの位置に頭があり、体高は多分2メートルを余裕で越してそう。真っ白な身体にふさふさのたてがみと長くてゆらゆら揺れてる尻尾。まつ毛も長いけど瞳はアクアマリンとでも言えばいいのか、深い海のような紺色で透き通っててキレイだ。

「アタシはユニコーン。好みは童貞男子。いい匂いがするから来てみたら、こんなに爽やかなイケメンなのに、考える事が惨めな事ばっかりね。でもいいわ、見た目好みだから」 
「いやぁん!オレの初めてがお馬さん!?やだよそんな趣味ないよそもそもヤレないよ!」
「やぁね、アタシは童貞だから好きなのよ?卒童貞したら殺すわ。ブルル」

 すごく美しい見た目で神秘的なのにいきなり雰囲気ぶち壊された。
 殺意をみなぎらせた目で睨んでくる!恐いからやめて無理!すんません!

「分かればいいのよ。それよりアナタ何っていうの?」
「あ、はい、育人です」
「そう、イクトね。イッた事無いのにイクトなのね」
「あー、それ傷付くー。ピュアな男子のハート砕けるよ」
「ぷふっ、ごめんなさい冗談よ。それより何でここにいるの?アタシの縄張りに誰か来たらすぐに分かるのに突然現れたわよね?」

 何だか自分の声若いな…。
 ユニコーンはニコリと微笑んで?優しい声音で聞いてくる。

「何か亀仙人からトラブル解決依頼されて、気付いたらここに居たの」
「ブルルン」
「いや、トラブル解決するなら自由に生きていいって」
「ブルルン?」
「嘘ちゃうよ?色々便利なアイテムもらったりしたし、ほら」

 ブルルンで会話できてる。耳ではいななきが聞こえてるだけなのに、頭では言葉に変換されてるのが不思議だなと思いながら起き上がると自分を確認し始めた。
 落ち着いた青い上下の服に茶色のベルト、焦げ茶色のブーツ、光沢の無い黒いローブを纏っている。
 服は高級感ある素材なのか肌触りがすごく良いし重すぎない。それにアクリルとかポリエステルとか羊毛とか全然素材分かんないけど快適だ。ベルトには剣やナイフをさせる銀のバックルがついててそれもオシャレに感じる。
 ブーツも重すぎなくて、むしろ足にジャストフィットしててオーダーメイド品ってくらいだ。
 ローブは何だかよく分からんけど異世界物ではみんな着けてるからそんな物だろう。
 腰には黒地に銀糸で装飾されたウエストポーチを着けている。蓋の銀色の留金をひねったら中がブラックホールだった。何これ……

「ほら、これ無限収納アイテムボックスだって、何でも入るポーチみたい。この服も不変って言ってたから破れたり汚れたりしないんじゃないかな。あ、この腕輪もしかして!バリアハウス!」

 叫ぶと結界で守られた木の物置が出てくる。こじんまりとした小屋みたいだな。

「おぉ!小さいけど雨風しのげれば!ってなんじゃこりゃぁああ??!」

 中に入ると20畳の広々とした空間だった。どないなっとんねん。でも机とか布団とか運んで生活できそう!

「見た目と裏腹に広いじゃないの。ここなら二人で生活しても平気ね」

 後ろから覗き込んできた聖女が微笑んだ。
 あれ?どちら様ですかー?

「あらやだ、アタシよア・タ・シ。聖獣ユニコーン様を忘れるなんて、アナタ耄碌してない?」

 いや、お馬さんと聖女様間違えないから。
 俺より頭一つ分小さい身長に、頭から真っ白なベールを被って全身真っ白なローブに身を包んだ白人で瞳が紺色の、神々しい聖女様だった。思わず合掌。

「聖獣は神に認められた者よ?変化くらい出来るわよ」
「わーぉそうなんですね。ってか、心の声読めるの恥ずかしい」
「丸聞こえよ。聞こえるのアタシや神獣とかだから、普通の人には聞こえてないわよ」
「それでもオレのプライバシーが…」
「神や神に連なる存在に隠し事なんて出来ないから諦めなさい。ブルル」

 聖女様に聞かれるからこそ恥ずかしいのに。
 こうしてオレは聖獣ユニコーン様に貞操を守られながら一緒に過ごす事になるのだった。はぁ…



「ところで聖獣ユニコーン様は何を食べて生きるんですか?」
「ユニでいいわ。アタシはここの水やここの草を食べてるわ」
「それってオレの食べ物無いって事だよね?」
「人間って草だけじゃ駄目なんだっけ?それなら移動しましょうか!」
「えっ!いいの?ずっとここで暮らさなきゃ駄目だと思ってた…」
「ずっと側に居たいのに、好きな人に死なれたら悲しいもの。それにアタシの足の速さは世界一よ!いつでもすぐに戻れるからいいの」
「じゃあ、行こっ」
「その前に!この湖の水を持って行けないかしら…。ここは回復の湖で、アタシが入って清めたり飲水として利用してたから」

 え!?ユニちゃん自分の汚れを自分で飲むの!?キタナくぼぁっ!?
 ユニの前脚が腹部にめり込んだ。
 少し痛い程度だけど、これ手加減してないよね!?

「ごめん!そんな悪気無かったんだよ!」
「アタシの角は毒や瘴気を浄化するし、身体は癒やしの波動が出てるのよ!決して汚くないわ!!!」
「ホントごめんなさい!申し訳ないですこの通り平にお許しを」

 イクトは怒り狂うユニに向かって、渾身の土下座を披露する。もちろん頭は地面にめり込ませたぜ。

「いいわよ。もぅ。許してあげるからその代わり、二度と不潔なんて言わないでよね!」
「はぃい!大変申し訳ございませんでした!」

 それからイクトはポーチの中を漁る。グルグル渦巻くブラックホールに手を突っ込むのは怖ろしかったがさっさっと入れたり出したりを繰り返して安全なのを確認した。何があるかな?と思うと頭の中に何が入ってるのかリストが分かった。

「剣、ナイフ、盾、ハンマー、斧、杖、鍋、お玉、包丁、皿、コップ、スプーン、フォーク、それと何だこれ?真っ白な本?」

 ポーチには身を守るための普通の武器や生活できる調理器具と、表紙も中身も何も書かれてない本が入っていた。

「こりゃあ、食料は現地調達か買って食べろって事なんだろうな。それにしてもこの本どうすりゃいいんだ?」
「ブルルン。その本が何かは後でもいいでしょ。それより回復の湖よ。これを持ち運べるなら入れて欲しいけど、無理ならバリアハウスのように回復の湖の水を呼び出せる道具や繋げて取り出せる道具を作りなさい」
「いや、そんな無茶なっ!」

 神様じゃないから出来ないと断る。

「無茶じゃないわよ。アナタのその溢れる魔力を用いれば魔導具くらい簡単でしょう。アタシも補助するからやるわよ」

 オレ、魔力ダダ漏れなの?溢れるって魔力見えるの?オレ見えないけど。
 ユニは鍋を手に取る。

「形は何でもいいのよ。要は魔力を注いで水が手に入ればいいの。ほら手を貸して」

 そうしてイクトに鍋を持たせて魔力を注がせる。

「そうよ!しっかり握って、全身の力を手から鍋に注ぐのよ!そう!いい感じ!」

 ハンドパワー!アニメみたいに手から光の玉を作って発射するって感じでやってみた。
 イクトの手にユニが手を重ねると、何かがカチリとハマる感覚があり、すると鍋は水で満たされていた。女性に触られたのは母親を除くと中学の文化祭のフォークダンス以来だ。

「成功ね!これでいつでも回復水を飲めるわ。ありがとう!」

 可愛らしい満面の笑みでお礼を言われる。
 鼻の下が伸びるのをこらえて鼻穴を広げながら手を上げて答えた。

「よっしゃ!そしたら早速出発だな!人がいる街や村に行きたいけど、まずはどこ行けばいいのかな?知ってる?」
「知らないわ。童貞の匂いを感じたらすぐに分かるけど」
「うーん、あ、そう言えば神眼ジャッジ

 眩しい光の流れに呑まれる。頭が焼けるように痛んで混乱した。

「うわぁ!」
「イクト!??」

 目を瞑って手の平で覆うと落ち着いた。

「何だったんだ……」
「イクト?何があったの?」
「亀仙人から神眼ジャッジってのをもらったから、何か分かるかと思って使ってみたら急に辺りが眩しくなって…」
「それは鑑定スキルかしら?もしかしたらそれよりも強い上位版かも。使う魔力を弱めたり、発動範囲を狭めたら?」
「あ、あぁ、やってみる」

 ユニの言うとおり蛇口を少し閉めるイメージで、深呼吸してもう一度使ってみると、今度は知りたい情報だけ出て来た。


【聖獣ユニコーンの湖】
 ハンプベルク村と辺境シェルバーグの境にある湖。その水はユニコーンの身体によって清められており、回復、浄化効果がある。SSSランク


【ハンプベルク】
 ここより北に5キロ進むと辿り着く。人口百人程の小さな村。


【シェルバーグ】
 ここより南に9キロ進むと辿り着く。人口二千七百人程の街。最南端の辺境。


「出来たみたい!あっちに進むと村があって、こっちだと少し遠いけど街があるみたいだよ!」
「良くやったわ!街に行ってみましょう!アタシに乗って!」
「いや、レディに跨るなんて!それに乗馬経験ないし、綺麗なユニコーンが目撃されたらそれだけで狙われそうだよっ!」
「アタシが騎手を揺らすと思う?それに不本意だけど、普通の白馬に変化してあげるから感謝なさい?」
「うぅっ…」

 あっさり逃げ道を塞がれたので、しぶしぶ乗って進んでもらう。時々何となくで神眼ジャッジを発動すると鉱物や植物が表示されたので、見つけた都度止まってもらって拾ってポーチにしまう。

「アナタ良く貴重なもの見つけるわね」
「昔はこういった素材採取したり、武器を集めてコンプリートするのが好きだったんだ!」

 大学生まで暇な時はゲームをして武器や素材を収集し、マップは全て通って攻略しまくった。攻略後の裏ステージでは何度か詰みかけたがしっかり完全攻略している。

「イクトはいろんな所に行っていろんな人と関わっていろんな依頼をこなして来たのね」

 ユニにはイクトの心が聞こえるので何となくだがすごい事を成し遂げたのだと理解した。

「そんな大それたやつじゃないよ。けど、いつも楽しかったし、今はまた楽しみでワクワクしてるよ!」
「それはアタシもよ!アナタと過ごして行けるなら楽しくてドキドキだわ!」

 こうしてイクトは異世界をのんびり楽しんで歩んで行くのだった。






ステータス
 名前:藤巻育人(イクト)
 種族:人族(ギリギリ人間?)
 称号:魔導王 最終童貞兵器 賢者
 魔法:創造魔法(魔導具作成)
 技能スキル神眼ジャッジ 回復ヒール 
 固有ユニーク魔力増殖炉マギブルード(常時) 
      世界言語ワールドランゲージ(常時) 
      無限収納アイテムボックス(常時、帰還機能)
 耐性:物理魔法耐性 


 名前:ユニコーン(ユニ)
 種族:聖獣
 称号:癒やしの聖女
 魔法:水属性魔法 聖属性魔法 
      光属性魔法
 固有ユニーク:童貞感知
 耐性:物理魔法耐性 精神耐性
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