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学園祭準備うさぎ 2

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 早朝、二人で職員室に行き、三年生の学年主任へ昨日の事を報告し、自分たちの事は伏せて、生徒には痴漢被害に合わないよう気を付けることだけを伝えてもらうようお願いして職員室をあとにする。お互い言わない、と約束してそれぞれの教室へ向かった。

「早く来すぎたし、まだ誰も来てないよねー」

 報告のために一時間早く家を出たが、いつもは停まる駅を素通りしてたので思ったより早くついていた。

「絵も乾いてるし、後ろに立てといて、机並べとこうかな」

 寄せたままの机を並べてると、もぶことわきこが教室に入って来た。

「え!やだうさぎどうしたの!?」
「うさぎ?今日はやけに早いのね。私も手伝うわ」
「私も!お家で嫌なことでもあった?」
「ううん、早起きしたから。朝早い電車だと何時に着くのかなってやってみただけなの」
「「なーんだ」心配して損したかも」
「何だは何よー!別に何もないけどいいでしょー!」
「…まぁ、そういう時もあるわね」

 二人の疑うような反応に、咄嗟に嘘をついてしまったので申し訳なく感じる。でも言わないって約束したから絶対内緒にしなければ!

「ところで二人っていつもこんなに早いの?」
「そうだよ!パレードのために朝練してるから放課後は早く帰ってるの!」
「放課後も練習してる子もいるけど、私たちは何というか、楽譜見ればすぐに出来ちゃうから…」
「わーぉ、もしかして絶対音感とかあるの?」
「そうね、曲聞けばすぐに吹けるしそういうものなのかも」
「何っていうか、りんご目の前にしてりんごって答えてるだけなんだよね。ラの音ちょうだいって言われてラで吹いて、ズレてたら気持ち悪いじゃん。赤くて丸いりんごは売ってるのに、傷があるりんごとか変色したりんごとか売ってないじゃん。あっても手に取らないだろうしそんな感じ」
「最後の例えは私でも良くわからないけど、でも音に気持ち悪さを感じるのはよくあるわね。歌ってても音程ズレると不快に感じるわ」
「あー分かるー」

 吹奏楽部員あるあるなのか絶対音感あるあるなのか分からないけど、二人で共感しあっているならそういうものなんだと頷いておく。

「終わった!よし、行ってくるね!」
「ホームルーム前には戻るから後でね」
「うん!また後で!頑張ってねー!」
「行ってきまーす」


 その後はクラスメイトもぞろぞろ増えてきて、その度にいつもギリギリで駆け込んでくるうさぎがすでに教室で座って待っていたのでみんなに心配された。
 そして六時限目の準備時間で、板の余白をざっくりとカットしてヤスリをかけて、自立するように接着剤や釘で木の棒に打ち付けて固定した。アーケードの看板は一通り終わったので、みんなでうぇーいってして今日はおしまいになった。

「うさぎってノコギリ慣れてるのね」
「足で板踏んでギコギコやるのかっこいいけど、うさぎがやると違和感すごいね!」
「島では自分で切った木を加工してブランコ作ったり、ウッドデッキに置く椅子作ったりしてたから慣れてるの!」

 うさぎ、DIYのプロでした。

 次の日は、二日目と三日目のコスプレ喫茶の接客のローテーションを決めた。三十人いて九時から十六時までなので、十人一組で二時間交代、三組目だけ三時間になるのでそこは公平にあみだくじで決まった。
 うさぎ達いつものメンバーと四人をあわせた組は二日目の三組目と三日目の二組目となった。
 
「うさぎ、この四人も一緒でいいか?」
「いいよ!一緒に頑張ろうね!」
「「「「はひゃぃいい!よ、よろぴくおねがひしまふぶっ!」」」」

 いつもヒソヒソ四人で話してるヤバそうな奴らが仲間になった。

 学園祭前日は飾り付けで終わる。ヘリウムで風船を膨らませて飾ったり、赤い大きなリボンと薄ピンクの布で柱や窓を彩ったり、ホワイトボードと黒板はクラシカルなデザインで絵や文字が描かれたりした。生き生きとしただるまくんとほらおくんが指示を出す。

「こっちの端を画鋲で止めて、布を引っ張らないよう少し垂らしたらこっちの柱に画鋲で止めるんだ。次はこっからそっちの柱もやるんだ。布が終わったらリボンの端を裏側から目立たないように壁に指して飾り付けて。そこ!曲がってるぞ!右上にもう少し!もうすこ、行き過ぎだ下げろ」
「喫茶店なんだから、そんなゴシック体じゃつまらないっしょー?ほら、このクラシックでアンティークな字体参考にしてね。レタリングいける?いけるよね?ちょっとー!タピオカドリンクやるけど、雰囲気合わないから描かないでよ~つぶつぶ消してやり直し!喫茶店の雰囲気ぶち壊すような絵、描かないでねー」

 筋肉だるまは女子力があった。
 法螺ほらおはゴシック体は好まないがゴシック建築の文化が好きで、彼の筆跡はオシャレだった。オシャレを他人に押し付けるゴシックハラスメントが起きていた。


 今日は学園祭当日の金曜日。
 午後は開会式とパレードなので、午前中で看板をアーケードの柱の前に置いてロープで固定する。それと花弁先生がメニュー表をラミネートしてくれたので、机の上に並べた。
 もぶことわきこはパレードに出るため朝から練習でいなかったし、他のクラスメイトも出る人はいなかった。お昼ご飯を食べて教室で待っているとアナウンスが流れる。

「全校生徒は開会式が始まるので、三年生から順番に体育館に移動してください」

 そして学園祭の開会式が始まった。
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