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第四十二話『嵐の予感』
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「本当に、効果覿面ね……」
キャスが辺りを見渡しながら言う。
昨日あれだけ襲われ続けたダンジョンの通路が、今はすっかり静まっている……。
昨夜、偶然再会したヴィンセントの頼みを、俺は悩んだ末に引き受けた。
『魔物除けのクリスタル』の設置ーーその効果が本物なら、俺達もダンジョン探索が捗ってキャス達が喜ぶと思ったからだ。
そして、明けて翌日の今日、ダンジョンに再挑戦ーー襲い来るリザードマンどもを退け、増援が来ない隙にクリスタルを通路の脇に埋めて設置した。
その効果は本物だった。
設置すると、昨日と打って変わって、リザードマンの増援がピタリと途切れたのだ。
余りの覿面っぷりに驚かされた。
最初こそ半信半疑だったが、2度・3度と回数を重ねて、クリスタルの効果を実感するともう疑いはなくなった。
勿論、クリスタルの効果も完璧とはいかない。
効果の範囲は凡そ半径30メートル、また物理的な壁の類いを発生させるものではないので、こちらを見つけて戦闘態勢に入った魔物は効果範囲にも侵入してくる。
それどころか、クリスタルの忌避効果が逆に魔物の苛立ちを煽る様で逆に凶暴になる……。
だが、そんな多少のデメリットは気にならない。
昨日のエンドレス戦闘状態に比べたら遥かにマシだ。
「ふぅ~、危ねえ危ねえ……!」
「もう、突っ込みすぎだよ、ジョージったら。はい、水」
「サンキュー!」
戦闘があっても、終わった後に解体作業や休憩が出来る。
「ん~……あっ、ジロウ!ここに何か化石っぽいのがあるわよ!」
「どれどれ?」
周りの壁や地面を調べて、何か無いかを探す余裕がある。
これでこそ、ダンジョン探索ーーこれならヴィンセントの頼みを引き受けたのも悪くないと言える。
このままクリスタルでルートを確保しつつ進んで行けば、最奥にあるされる通称『地竜の寝床』まで辿り着く事も出来るかもしれない。
地竜は、地球のモグラの様に地中を掘って巣を作り、その1番奥に寝床を構える習性がある。
そして、竜の御多分に洩れず、自身の財宝というか一種のコレクションを収集する習性も持っており、それらは寝床に纏めて置いてある事が多い。
竜の財宝、その定番は金銀財宝だが、過去の例では膨大な量の書物だったり、何故か古今東西の植物の種だったり、ある時は帆船の残骸の山なんてものもあったそうだ。
ここ『地竜の巣穴』の最奥はまだ発見されていない。
そこにどんなお宝が眠っているか、考えるとワクワクするーーが、俺達はそこに行けたとしても今は行く事はない。
何故なら、その最奥にこそ帝国の工作員がいる可能性が高いからだ。
昨夜、ヴィンセントから聞いた……。
奴らはここだけでなく、各地から竜の財宝や化石を発掘して、以前聞いた『帝国筆頭魔導士』直轄機関『帝国魔導研究所』に送っているという話だ……。
何に使うのか詳しくは分からないが、凡そ碌な事には使わないだろうと。
ヴィンセントは妨害工作の一環として、その実行部隊……或いはその指揮官を倒し、『帝国筆頭魔導士』とやらが行っている怪しげな企みを何とか挫きたいと言っていた。
そんな連中のせいで俺達のダンジョン探索が邪魔されていると思うと軽く業腹だが……やはり戦争に関わってしまう事を思うと、自分でブッ飛ばしにまでは行きたくない。
俺は、海辺に家を買って、のんびりと暮らしたいのだ。
「さて、今日はこのくらいにしよう。帰るぞ」
結構進んだし、リザードンの皮や持っていた武器は大量、幾つかの鉱石、更に竜の鱗や爪と思しき化石も発見した。
これなら、十分黒字になるだろう。
侵攻ルートの確保も、最奥まではまだまだ距離があるとはいえ、ヴィンセント達も開拓しているはずだから、俺達が慌てる事はないだろう。
「え~?もう少し探検していこうぜ~?」
「ジョージ、リーダーのジロウさんの指示には従う約束でしょ」
「それはそうだけどさぁ、まだまだ余裕じゃんか」
「余裕がある内に戻るのよ。体力使い切るまで探索してたら、帰れなくなる。稼ぎも体力も欲張らない、これがダンジョン探索のコツよ」
探索を続けたがるジョージを、リリーとキャスが嗜める。
まあ、ジョージの気持ちも分からなくはない。
今日の探索は順調だったからな。
しかし、キャスの言う通り、体力に余裕のある内に戻るのが合理的だ。
それにダンジョン内で野営する準備もしてこなかった。
「今日のところは我慢しな、ジョージ。ダンジョンは逃げやしない」
「ぅ~……分かったよ」
ジョージも折れたので、サッと荷物を纏めて帰路に着く。
行きは良い良い帰りは恐いーーなんて事はなく、俺達は無事に地上へと帰還した。
「それにしても……あの男、一体何者なの?」
酒場で夕食を楽しんでいると、キャスが聞いてきた。
あの男とはヴィンセントの事だ。
ついさっき、今日クリスタルを設置したルートについて話していた。
そして開拓ルートをマップに書き込み、ヴィンセントは俺に追加のクリスタルを置いて、すぐに去って行った。
そのクリスタルをしげしげと見つめ、キャスは目を細める。
「この魔道具、そんじょそこらで手に入る様な代物じゃない……それこそ国のお抱え魔導士が作る様な一級品だわ……。そんな物をポンと渡してくるなんて、只者じゃない。アンタとどんな繋がり?」
うーん、怪しんでいるな……。
どう話したもんか……というか、どこまで話していいやら……。
「……悪い、話していい事か分からんし、話せるとしても上手く説明できそうにない。秘密って事でどうかひとつ」
「そう言われると逆に気になるんだけど……いや、いいわ。聞かれたくない事もあるわよね」
そう言うとキャスは手元のハムを口に運び、麦酒を呷った。
「美味えー!自分で稼いだ金で食う飯は格別だぜー!」
「確かに美味しいけど、調子に乗って食べ過ぎないでよ、ジョージ。今日の稼ぎ無くなっちゃうよ」
ちなみに、今の会話をジョージとリリーは今日の稼ぎで頼んだ食事に夢中で聞いていなかった様だ……。
そうして、ダンジョン探索は慌てず急がず進めていき……あっという間に半月が過ぎたーー。
値崩れしたリザードマンの素材はともかく、数日に1度のペースで化石を見つけてくる俺達のパーティーは、昨今のダンジョンの状況も相俟ってビクスビーのギルド支部で少しずつ注目を浴びる様になっていった。
順調な探索の秘密を探ろうと、他の冒険者が接触してくる事もチラホラ……下手をすると俺達の後を尾けて来る連中もいたぐらいだ。
そんな連中は俺の探知魔法ですぐ分かったので撒いてやった。
『魔物除けのクリスタル』で出来た安全ルートにぼんやりと気付いて探索に利用する別のパーティーも現れ始めている。
が、それに比例して、安全ルートから外れたり、調子に乗って奥へ行き過ぎて命を落とす冒険者も増えてしまい、何もかも好転とはいかない様だ。
しかし、それも冒険者・探索者の側からしたらの話……ヴィンセント達の側は頗る順調だそうだ。
「旦那達のおかげで、最奥までの道筋が見えてきた。近々、本命に仕掛けられそうだぜ」
喜色の中に闘志を漲らせたヴィンセントが先日そう告げてきた。
これは、またひと騒動ありそうな予感……。
キャスが辺りを見渡しながら言う。
昨日あれだけ襲われ続けたダンジョンの通路が、今はすっかり静まっている……。
昨夜、偶然再会したヴィンセントの頼みを、俺は悩んだ末に引き受けた。
『魔物除けのクリスタル』の設置ーーその効果が本物なら、俺達もダンジョン探索が捗ってキャス達が喜ぶと思ったからだ。
そして、明けて翌日の今日、ダンジョンに再挑戦ーー襲い来るリザードマンどもを退け、増援が来ない隙にクリスタルを通路の脇に埋めて設置した。
その効果は本物だった。
設置すると、昨日と打って変わって、リザードマンの増援がピタリと途切れたのだ。
余りの覿面っぷりに驚かされた。
最初こそ半信半疑だったが、2度・3度と回数を重ねて、クリスタルの効果を実感するともう疑いはなくなった。
勿論、クリスタルの効果も完璧とはいかない。
効果の範囲は凡そ半径30メートル、また物理的な壁の類いを発生させるものではないので、こちらを見つけて戦闘態勢に入った魔物は効果範囲にも侵入してくる。
それどころか、クリスタルの忌避効果が逆に魔物の苛立ちを煽る様で逆に凶暴になる……。
だが、そんな多少のデメリットは気にならない。
昨日のエンドレス戦闘状態に比べたら遥かにマシだ。
「ふぅ~、危ねえ危ねえ……!」
「もう、突っ込みすぎだよ、ジョージったら。はい、水」
「サンキュー!」
戦闘があっても、終わった後に解体作業や休憩が出来る。
「ん~……あっ、ジロウ!ここに何か化石っぽいのがあるわよ!」
「どれどれ?」
周りの壁や地面を調べて、何か無いかを探す余裕がある。
これでこそ、ダンジョン探索ーーこれならヴィンセントの頼みを引き受けたのも悪くないと言える。
このままクリスタルでルートを確保しつつ進んで行けば、最奥にあるされる通称『地竜の寝床』まで辿り着く事も出来るかもしれない。
地竜は、地球のモグラの様に地中を掘って巣を作り、その1番奥に寝床を構える習性がある。
そして、竜の御多分に洩れず、自身の財宝というか一種のコレクションを収集する習性も持っており、それらは寝床に纏めて置いてある事が多い。
竜の財宝、その定番は金銀財宝だが、過去の例では膨大な量の書物だったり、何故か古今東西の植物の種だったり、ある時は帆船の残骸の山なんてものもあったそうだ。
ここ『地竜の巣穴』の最奥はまだ発見されていない。
そこにどんなお宝が眠っているか、考えるとワクワクするーーが、俺達はそこに行けたとしても今は行く事はない。
何故なら、その最奥にこそ帝国の工作員がいる可能性が高いからだ。
昨夜、ヴィンセントから聞いた……。
奴らはここだけでなく、各地から竜の財宝や化石を発掘して、以前聞いた『帝国筆頭魔導士』直轄機関『帝国魔導研究所』に送っているという話だ……。
何に使うのか詳しくは分からないが、凡そ碌な事には使わないだろうと。
ヴィンセントは妨害工作の一環として、その実行部隊……或いはその指揮官を倒し、『帝国筆頭魔導士』とやらが行っている怪しげな企みを何とか挫きたいと言っていた。
そんな連中のせいで俺達のダンジョン探索が邪魔されていると思うと軽く業腹だが……やはり戦争に関わってしまう事を思うと、自分でブッ飛ばしにまでは行きたくない。
俺は、海辺に家を買って、のんびりと暮らしたいのだ。
「さて、今日はこのくらいにしよう。帰るぞ」
結構進んだし、リザードンの皮や持っていた武器は大量、幾つかの鉱石、更に竜の鱗や爪と思しき化石も発見した。
これなら、十分黒字になるだろう。
侵攻ルートの確保も、最奥まではまだまだ距離があるとはいえ、ヴィンセント達も開拓しているはずだから、俺達が慌てる事はないだろう。
「え~?もう少し探検していこうぜ~?」
「ジョージ、リーダーのジロウさんの指示には従う約束でしょ」
「それはそうだけどさぁ、まだまだ余裕じゃんか」
「余裕がある内に戻るのよ。体力使い切るまで探索してたら、帰れなくなる。稼ぎも体力も欲張らない、これがダンジョン探索のコツよ」
探索を続けたがるジョージを、リリーとキャスが嗜める。
まあ、ジョージの気持ちも分からなくはない。
今日の探索は順調だったからな。
しかし、キャスの言う通り、体力に余裕のある内に戻るのが合理的だ。
それにダンジョン内で野営する準備もしてこなかった。
「今日のところは我慢しな、ジョージ。ダンジョンは逃げやしない」
「ぅ~……分かったよ」
ジョージも折れたので、サッと荷物を纏めて帰路に着く。
行きは良い良い帰りは恐いーーなんて事はなく、俺達は無事に地上へと帰還した。
「それにしても……あの男、一体何者なの?」
酒場で夕食を楽しんでいると、キャスが聞いてきた。
あの男とはヴィンセントの事だ。
ついさっき、今日クリスタルを設置したルートについて話していた。
そして開拓ルートをマップに書き込み、ヴィンセントは俺に追加のクリスタルを置いて、すぐに去って行った。
そのクリスタルをしげしげと見つめ、キャスは目を細める。
「この魔道具、そんじょそこらで手に入る様な代物じゃない……それこそ国のお抱え魔導士が作る様な一級品だわ……。そんな物をポンと渡してくるなんて、只者じゃない。アンタとどんな繋がり?」
うーん、怪しんでいるな……。
どう話したもんか……というか、どこまで話していいやら……。
「……悪い、話していい事か分からんし、話せるとしても上手く説明できそうにない。秘密って事でどうかひとつ」
「そう言われると逆に気になるんだけど……いや、いいわ。聞かれたくない事もあるわよね」
そう言うとキャスは手元のハムを口に運び、麦酒を呷った。
「美味えー!自分で稼いだ金で食う飯は格別だぜー!」
「確かに美味しいけど、調子に乗って食べ過ぎないでよ、ジョージ。今日の稼ぎ無くなっちゃうよ」
ちなみに、今の会話をジョージとリリーは今日の稼ぎで頼んだ食事に夢中で聞いていなかった様だ……。
そうして、ダンジョン探索は慌てず急がず進めていき……あっという間に半月が過ぎたーー。
値崩れしたリザードマンの素材はともかく、数日に1度のペースで化石を見つけてくる俺達のパーティーは、昨今のダンジョンの状況も相俟ってビクスビーのギルド支部で少しずつ注目を浴びる様になっていった。
順調な探索の秘密を探ろうと、他の冒険者が接触してくる事もチラホラ……下手をすると俺達の後を尾けて来る連中もいたぐらいだ。
そんな連中は俺の探知魔法ですぐ分かったので撒いてやった。
『魔物除けのクリスタル』で出来た安全ルートにぼんやりと気付いて探索に利用する別のパーティーも現れ始めている。
が、それに比例して、安全ルートから外れたり、調子に乗って奥へ行き過ぎて命を落とす冒険者も増えてしまい、何もかも好転とはいかない様だ。
しかし、それも冒険者・探索者の側からしたらの話……ヴィンセント達の側は頗る順調だそうだ。
「旦那達のおかげで、最奥までの道筋が見えてきた。近々、本命に仕掛けられそうだぜ」
喜色の中に闘志を漲らせたヴィンセントが先日そう告げてきた。
これは、またひと騒動ありそうな予感……。
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