錦秋

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〈二十四〉 ★

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注: 主人公が暴行を受ける場面があります。残酷描写が苦手なかたはブラウザバックをお願いいたします。

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 じりり、じゃり、じゃりり。
 体の中に割れたかわらけの破片がつまっているかのようだ。

「ほおら、どうだ女、吐く気になったか」

 びち、と頬を張られた。割れたかわらけがさらに粉々に砕けるように痛みがちりちりじりじりと体をさいなむ。
 焚き火の前から逃げたがすぐに捕まった。暴れ抵抗したが背中を斬られすぐに捕らえられた。
 土間の柱にくくりつけられ、るいは鮫島に殴られている。深手ではないが、斬られた背中の傷から滲む血が柱と土間を汚している。

「黒江はどこに逃げた? 吐けばもう殴らないぞ。――ん?」
「…………」
――勝五郎さまが何もいわず出て行かれて、よかった……。

 口を割らずに済むのはありがたい。知らないことは白状のしようがないからだ。
 問題は、どうやって勝五郎の時間を稼ぐかだ。
 背中の斬り傷にしても、殴りかたにしても、手ぬるい。鮫島ほどの手練てだれであれば一刀で斬り伏せることも可能だし、気を失うくらい強く殴ることも容易いはずだ。

――たのしんでいる……。

 気力を削ぎ、且つ簡単に気を失わない程度に力を加減して暴力をふるっている。ひいひい泣き赦しを乞えば陵辱ののちに殺されるに違いない。痛みと屈辱で心が折れるのを見せればおそらく、鮫島は飽きる。
 時間を、――一日でも一時いっときでもただ半時はんときであっても――勝五郎のために時間を稼がなければ。遠くへ、今のうちできるだけ遠くへ行ってほしい。

――抵抗してやる。

 腫れあがった目蓋の隙間からるいは鮫島を睨みつけた。塞がりかけた視界から、鮫島のくらい喜びが波のように伝わってくる。

「黒江はここに来たか? 来たんだろう?」

 粘っこい声色で嬉しげに、鮫島がるいの顎を掴み上を向かせた。その拍子に衿が乱れ、胸もとが露わになる。

「ほう……、これはこれは」

 鮫島のねっとりした視線が鮮やかに紅葉の散るるいの肌を這う。

「おまえ、やっぱり黒江の女だな? だいぶかわいがられたと見える。新しい吸い痕だ。今朝までやつはここにいた、――そうだな?」
――いけない。

 知りたいことを手に入れれば、鮫島の次の一手は陵辱だ。そして、殺される。
 こうなったら、陵辱を避けて通れるとは思えない。殴って昂揚したのか、鮫島はるいがきもしないのにべらべらと雇い主の話をした。生国のこと、金回りのこと、潜伏先のこと、――おそらくるいを生かしておくつもりがないのだろう。

――一矢いっし報いてやりたい。

 陵辱で時間が稼げるのは、精力の強い者相手のときのみだ。暴力で支配することに快楽を覚える者は、精力が弱い傾向がある。――そう御婆に教えられた。聴いた当時は「そんなものか」としか思わなかったが、今なら分かる。ここで陵辱に移られてしまえば間違いなく時間を稼げなくなる。
 るいは歯を食いしばり、うめいた。

「黒江なる者は、――ここへ来ていない」
――おまえの遊び相手は、私だ。私を見ろ。

 ばし、と頬を張られた。割れたかわらけのような痛みがじりじりじゃりじゃりと体を苛む。

「女、嘘をつくんじゃない」
「――考えても、見るがいい。黒江なる者が来ていないという、私の言が事実ならば答えは否だ。変わらない。――仮におまえのいうとおり、私が黒江の女ならばそれでも答えは変わらない」

 痛みで朦朧もうろうとしてきた。るいは気力を振り絞り、鮫島を睨み上げて
 に。
 腫れあがった口もとを歪め笑った。

「その者がここへ来たなどと、いうと思うか? ――下郎が」
――かかった……!

 びし、ずし。
 膨らんでぜそうな喜びに満ちた拳が頬にめり込む。右に、左に、なぶられるように殴られる。
 ぬぼうとした男の声が取りなすように割って入った。

「鮫島先生よう、顔がぐちゃぐちゃじゃ、勃つものも勃ちゃしませんよう。先生の次はオレなんですからもうちょっと――」
「やかましい、黙れ――ッ!」

 つれの男が入り口まで殴り飛ばされた。

「ひでえ、痛えじゃねえか!」

 男は乱暴に戸を開け放し愚痴をこぼしながら

「ケチ臭え、女くらいさっさと抱かせろってんだ。……んぎゃっ」

 出て行ったが外でまた転んでしまったようだ。叫び声と尻餅をついたらしい鈍い音が聞こえる。

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