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〈二十二〉
しおりを挟むこれまでできるだけ視界に入れないようにしてきた。打飼袋に袴、手甲、脚絆、足袋。刀掛けのそばにいつも荷物がきちんとまとめてあった。いつふらりと旅立ってしまうか、毎夜毎朝不安だった。
いざそのときを迎えてみれば諦めは案外すんなりと心に馴染む。
「……」
目覚めてみれば刀掛けは空、荷物もなくなっていた。念のため家を見て回ったが、勝五郎の姿はなかった。書き置きもない。
――意外だ。
別れのときがくれば泣き喚き追い縋り、勝五郎を困らせるものだと思っていた。それだけの執着がるいにはあったし悟られてもいたから、抱き潰して挨拶もなく男は消えたのだろう。そしてそうなれば自分はめそめそ泣き暮らす。そう思っていた。
不思議なことに、涙が出ない。
まるで勝五郎がはじめから存在しなかったかのよう、――とまではさすがにいかない。
男が皆そうなのか、勝五郎がまめな質だったのかは分からない。意識を失ったるいの肌はきれいに拭われていた。が、純潔を散らした跡の残る敷布の始末までは手が回らなかったようだ。表面のぬめりはなくても、名残はくっきりと体に留まっていた。乳首や秘所はじくりと熱を持ち
「まるで、紅葉」
きつく吸われた跡が肌に赤く点々と浮いている。
「んっ」
重い腰を上げると
とろ。
甘苦しい疼きとともにぼってりふくらんだ秘唇から何かが滲んだ。
「御たね……」
初めて、涙が出た。
幸せな夜だった。そしてほんとうに、行ってしまった。
――掃除と洗濯とそれから……。
泣くのは後始末をして、鶏の世話をすませてからだ。今日くらいはめそめそしたっていい。誰も見ていないのだから。
るいは涙を払い、立ち上がった。
――そろそろ雪が来そうだ。
昼過ぎまでは天気がよかった。貴人のために用意され、勝五郎が使った布団を日に当てた。敷布は水を張った桶につけてある。血の跡がとれるかどうか、分からないけれどやるだけやってみよう。
昼前にとりこんだとき、洗濯物はからりと乾き、布団はふかふかになっていたけれど、西の空に重たげな雲がみえた。
重い体に鞭打ってやらねばならないことに精を出すうちに、思いのほかてきぱきとはかどった。奥の間はあっという間に片付いた。体の疼きや軋み、鬱血痕はいずれ消えるだろう。勝五郎も仇討ちを果たして故郷へ帰るだろう。そうなればるいのことなど忘れてしまうに違いない。
るいは掃き集めた落ち葉に火をつけた。落ち葉焚きだ。ついでに、と紙ごみ、どさくさに紛れ納戸から持ち出した手箱の中身――御婆手製の張型と作法書も焚き火に突っ込んだ。卑猥な挿絵がめらめらと炎に呑まれ、男根にあまり似ていないぶかっこうな張型にも火がうつっていく。
もう乙女ではない。
御婆が存命ならば火を噴いて怒りそうなことをしでかした。もっと罪悪感に打ちのめされるかと思っていたが、そうでもない。却ってすがすがしくせいせいした気持ちだ。
ただ体に快楽を刻みつけられただけのことなのに、どうしても去った男へと思いが向かう。
――それも、しばらくのこと。
時が過ぎれば記憶はすべて薄まり消えていく。
――寒い。
まだ冬本番ではないというのに、寒い。
るいは棒での焚き火を掻き熾した。ぱちりと小さく炎が爆ぜる。
分かっている。
きっとどれだけ枯れ葉を足しても、肌が焦げるほど火を熾しても、あたたかくはならない。
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