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〈十八〉
しおりを挟む「住民は年寄りが多いというが、却って潜伏しやすいんじゃないのか」
「そうかもしれませんけど、さすがに山奥すぎやしませんか。こんなところ探したって――」
「おまえ、――ほんとうに黒江を斬ったのか」
るいはおののきを呑み込んだ。
くろえ、――黒江。
隣で静かに身を潜める男が初対面のときに黒江勝五郎と名乗った。
「き、――ッ、斬りましたよ」
「ではなぜ骸が見つからぬ」
「けも、獣が喰っちまったんですよ、きっと」
「ならばその跡が残るはずだ。――ほんとうに、斬ったんだろうな」
冷たい靄が曲がり角の向こうで不穏に凝る。
「きッ、……斬って、ません……。んひぃッ」
緊迫した空気が弾けた。
ず、るる。
納刀の音とともに大きなものが地面をたたく音が伝わってきた。
「ひっ、ん、ひ……ッ」
「おまえの嘘で何日無駄にしたと、思っている」
「す、すみ、すみま、せんッ」
「おまえごときが斬れる相手ならばこうまで手こずってはおらん。莫迦ものが。――しかし黒江が姿を消したのは、確かだ。嘘偽りなく、いってみろ」
「い、んいひッ、いいますッ」
がさがさばさばさと、落ち葉がかき回される音がする。
「や、山道のとちゅ、途中で、すき、隙を突いてお、落としました……ッ」
「隙を突いた、――おまえが?」
「ひいいいッ、ほ、ほんとは山道でオレが転んで難儀しているところを、く、黒江がその、手助けしてくれて……それで谷底に向かってどん、と突き飛ばしたんでございま、して……」
「おまえは何かとすっころぶからなあ。ま、やつを殺れたんなら手段は問わない。――で、場所は」
「こんな奥でなくってたぶん、もっと手前の山道で、……あっ、やっぱりもっと向こうだった、かも……」
「だから場所はどこかと、訊いている」
「わ――ッ、分かりませんッ、山道なんてどこも同じに見え、……もしかしたら、別の道だったかも――ッんひいい、ッ」
がっさ、がさばさ。
ふたたび納刀の気配があった。
「はあ、まったく――。おい、戻るぞ。黒江を落とした場所を思い出せ」
「そ、そんな……、ひ、必要ですかね、骸なんて」
「褒美はいらんのか」
「欲し、い、欲しゅうございますがしかし、場所が定かでなく、――そ、そうだ、山狩り、山狩りはど、どうですか」
「莫迦ものが」
ばささ、さ。
「大がかりにできぬからこそ、オレやおまえのような者に出番があるというものだ。死んでいてくれればいいが、そう簡単には――。こうしている間にも黒江は麓から街道へ出ているやもしれん。他所へ逃げられると面倒だ。いったん山を下りるぞ」
靄に霞む山道を、男たちの声が遠ざかっていく。
す。
気配が感じられなくなったとき、刀を戻した勝五郎が腰を上げかけた。るいははっし、と男の袖を掴んだ。
「どちらへ」
「決めていない。これ以上世話になるわけには」
「行ってはなりません」
「しかし……」
手を振り解かれないことに力を得て、るいは言い募った。袖をたぐり、懐へ身を寄せる。首をかき抱き、唇を押しつけた。香ばしい肌のにおいを吸う。
「閨の手ほどきを、してくださるとお約束なさってはありませんか。行っては駄目」
「るい殿」
おずおずと、片腕が背中にまわされた。
怯え。ひるみ。
冷や汗からわずかににおう。
「行かないで」
ひし、とるいは男に縋りついた。
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