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〈九〉
しおりを挟む「こらえてはならぬ」
「でも、……はしたない声が、出てしまいます……」
「かまうものか。さ、口を開けて」
左腕を添え木で固められ、右腕をるいの腰にまわして両手が塞がっているからであろう。口づけで促された。
「ん、んぁ、あの、っ、あのっ、お口なのです、か? その、あそこ、に指でなく……」
「うむ。まず口を吸う」
「なぜ、なのでしょう、か……」
「気持ちよいからだ」
「口を吸うと、貴人さまが気持ちよくなるのですか?」
「――貴人なる者はともかく、るい殿はどうだ」
ちゅ、ちゅ。
勝五郎がまた口づけてきた。ついばむように厚い唇にふわりと包まれる。
「気持ちいい、かも……」
「それでよい。目合おうとすれば、痛みは避けて通れない。――なればこそ、痛みでなく先に快楽を覚えるのだ」
「かい、らく……」
「そうだ。――舌を出して」
いわれたとおりぺろ、と舌を見せる。子ども同士の面罵の態で面映ゆい。が、すぐに面映ゆいどころではなくなった。
初めはゆっくり舌で互いを撫で合って控えめにはふはふと息を荒らげていたのみだったが、勝五郎の舌の動きはどんどん大胆になっていく。
じゅぶ、じゅぶぶ。
どちらのものともつかないよだれがはしたなく水音を立てる。舌が触れあい絡み合うたびにしゅわしゅわと体の奥深いところが泡立って、もどかしくいたたまれなくなる。かくかくと体が小刻みに震え、口中を我が物顔に蹂躙する勝五郎の舌に歯を立てないようにしようとすれば自然、口を閉じることはかなわない。自分の鼻にかかった甘えた声が部屋の壁に跳ね返りみだりに大きく響くのが恥ずかしい。
「しょ、勝五郎、さま、……んっ」
るいは泣きそうになっている。実際目に涙をたたえてもいる。
「男は、自分の手で女が感じ入るさまに喜びを見いだすものだ」
「しょ、ごろう、さま、は……?」
「気持ち、いい。るい殿が俺の腕の中で乱れれば、乱れるほど」
ぶじゅ、じゅう。
唇からあふれたものを、ひくひくわななく胸もとから厚い舌でれりれりと舐めあげ、勝五郎はきつくるいの白い喉を吸った。
「あっ、やああっ――あん」
「厭か、るい殿」
「ん、んううんっ、厭じゃ、ありません……っ、もっと」
るいはきつく目を閉じおとがいを上げ、背中をしならせた。無防備に喉を晒す。勝五郎が
ちゅ、ちゅ。
喉から首筋を、唇で吸いながらのぼり
「――こう、か?」
るいの耳に囁きかけながら舌を這わせた。
「そこも……、ん、いい、……ん、口を、ん、ぁ」
「来ませい」
唇と舌が触れあう。
巌のように大きく、鍛え抜かれて険しい体つきなのに、唇はやわらかい。触れあってぽってりと熱くふくらむそのやわらかさにうっとり溺れる。結局るいは奥の間へ戻り、唇と舌で戯れ合い勝五郎とともに眠った。
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