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〈四〉
しおりを挟む夜明け、里を見回る。
――ほんとうはもっと、まめにしなければならないのだけど。
冬支度が忙しく、おろそかになっていた。境界の罠仕掛けに綻びを見つける。
手持ちの道具でなんとかなるところばかりで助かった。急場の間に合わせで繕い、里の入り口へ向かう。夏場は厭というほど鬱蒼と茂り道を覆わんばかりだった木々もすっかり葉を落としている。冬の訪れが近い。
「やはり……」
境界の柱をつないでいた道切りが落ちてしまっていた。最後に替えたのはいつだったろうか。御婆を看取るのでせいいっぱいでここも手が回っていなかった。
「しめ縄の用意と……」
やらなければならないことのひとつに加える。
「もう冬になるし」
ただでさえ人の訪れもない。雪で鎖されればなおさらだ。道切りは春になってからでもよいかもしれない。住む者を失い朽ち崩れた家々が薄明に浮かび上がる。面倒とは思わないが、今は家に怪我人が逗留している。るいの物思いは奥の間で眠る大柄な男へと向かった。
意識を失うほどの熱はひと晩かけず引いたものの、勝五郎は二日間、寝込んだ。昼間はそうでもないが夜になると「寒い、寒い」と魘されるので結局なし崩しに同衾してしまっている。
――今夜こそ、お断りせねば。
勝五郎を迎え入れて以来、稽古ができていない。未通のままですんでいるとはいえ男と同衾してしまって、るいは自分がもはや乙女とはいえないのでは、と考えている。貴人以外の男と睦んではならない。その決まりを今さら守ったところでかれはやってこないだろう。しかし乙女であること、ありつづけることは深山の里びとの誇りだ。
――今夜こそ。
意気込んで戻り、戸を開けると
「るい殿……!」
土間に勝五郎が立っていた。丈の足りない絹地の寝間着一枚で、素足のままだ。るいは驚いて駆け寄った。
「いつから、こちらへ」
「目が覚めたら、るい殿がいなくて」
片腕で抱きしめられた。巻き付けた添え木の先にはみ出た指も、乱れたかけ衿からのぞく肌も冷え切っている。
「独りになってしまったかと――」
「すみません、里を見てまいりました。これから、出るときは声をおかけしますね」
「ああ、あたたかい……」
ぎゅむぎゅむと懐に揉み込むように抱きしめられた。
――ひとりで修行の旅をしているというのに。
寂しがり屋なのか、寒がりなのか。大きな獣になつかれたような気持ちだ。
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