甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、はしゃぎ過ぎの代償を払う

9.

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――帰る、って……。

 当たり前のように上司宅へ上がり込んでいる。そして当たり前のように上着を脱ぎネクタイを外しただけでほぼ仕事着の広居主任がエプロンを着け

「簡単なもので済まないが」

 食事の支度を始めた。いいんだろうか。会社の上下関係がどうのこうのかかわりなくよくない気がする。が、樹子は広居主任の武骨な手が無駄なく動くのに見惚れてしまった。
 オリーブオイルを温めているフライパンにつぶしたにんにくをひとかけ、キッチン鋏でちょきちょきとベーコンを刻み、スライスした玉葱とともに入れ
 ばき!
 ふたつに折ったスパゲティと塩、ひたひたになるまで水を注ぎ入れ火を強めた。トマトをすぱすぱカットしてさらに加える。

「スパゲティって、別に茹でるんじゃないんですか」
「そのほうがうまい。これはあくまで次善の策、な。ワンポットで済ませればソースもいっしょに作れるし、洗いものの少ないから楽だし」

 フライパンのスパゲティと同時進行でレタスを水洗いしちぎり、作り置きだという鶏胸肉のピカタとブロッコリーのマリネ、キャロットラペを取り出し皿に取り分ける。煮詰めてソースと絡んだスパゲティに黒胡椒をごりりと挽き、粉チーズを添える。
 ものの二十分もかからず夕食ができた。
 樹子が手伝ったのはデザートのグレープフルーツの皮を剥いたくらいだ。それも途中から主任に手伝ってもらった。

「すご」
「慣れだ、慣れ。店で出てくるようなものには太刀打ちできないが、毎日のことなら気楽に続けられるやりかたのほうがいい。あと、食材の使い切りとか献立のローテーションとか、会社のタスク管理と似てるとこがあって、考えながらやるとけっこう面白い」

 広居主任は苦笑いした。

「せっかく定時で上がれたのに仕事の話なんて、やめよう。――駄目だな」

 いただきます、と手を合わせる。ローテーブルを挟み向かい合い、しばらく黙って食べた。二度週末をともに過ごして何度も手料理をご馳走になっている。やさしい味つけに慣れてきた。

「おいしいです」
「口に合ってよかった」
「胃袋を掴まれている……」
「こんな飯で掴めるならいくらでも作る」
「……」

 いいんだろうか。いざ胃袋を掴まれて甘やかされることに慣れきったところで梯子を外されるのではないだろうか。

――ちは、る……。

 寝ぼけて元の恋人の名を呼ぶ声が忘れられない。
 樹子の腹の奥底でもやもやと小暗いものが頭を擡げた。
 そもそも主任がちはるさんとかいう元カノに未練があるのは分かっている。分かった上で始めた関係だ。なのに自分は何が不満なんだ。
 デザートのグレープフルーツを食べながらはたと、樹子はこの日の上司宅訪問の目的を思い出した。

「あの、主任」
「ん」
「乳首、おかげんいかがですか」

 樹子は顔を上げた。
 げっふ、げふ。
 炭酸水を飲んでいた広居主任が盛大にせる。

「だいじょうぶですか」
「……問題ない。えっと、ち、くび、だがその、出先で何度か絆創膏を換えた」

 俯き加減の角度からちら、と視線が合った。

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