ぽち

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〈十〉

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 好き、っていわれた。

――何度か、俺の気持ちは伝えたつもりなんだけど。

 ともいわれた。どれだ、どのシーンだ。心の動画フォルダを根こそぎ検索するも、どれがそれなのだかさっぱり分からない。
 高橋さんは知的でクールで、私みたいな元体育会系筋肉デカ女からすれば高嶺の花だ。片思いだったはずなのにそうではなかったらしい。そのうえ私の好意はぼんやりとしか伝わっていなかったみたいで釈然としない。
 そうなると、どうなんだ。
 私たちの恋の矢印は互いを指していたにもかかわらず、双方向ではなかった。それが「あれっ? 実はお互い好きなんじゃね?」という気づきに至ったのが今だ。じゃあ、これからどうする。どうすればいい。
 戦術上のポイントをがつがつ攻略するようなボルテージの高まりには覚えがあった。でも今は試合じゃない。高橋さんをゲットすれば勝ち、できなければ負け。恋人という関係に落ち着くことを勝利と定義するならば、もうゴールは目の前だ。でも恋は試合に似ているのに勝負ではない。ゴールの先に私たちそれぞれの人生がある。恋人になってもならなくても、勝ちでも負けでも成功でも失敗でもない人生が続いていく。
 だからこそ、次にどうすればいいか分からない。
 ただ確かなのは、

「好き。私、高橋さんが好きです」

 これだけだ。


 キスが止まらない。
 唇と口の中が、こんなにも繊細だとは思いも寄らなかった。
 口といえば呼吸をするための器官の一部であり、摂食のための器官でもある。熱々のラーメンだとか、燃えるような辛さの火鍋だとか、ぴりぴりびりびりくる刺激の摂取にも――ちょっと驚きはしても――おっとり健気についてくる。舌は味覚をつかさどるから口の中でも少し敏感かもしれない。でもチリペッパーで真っ赤っかのフライドチキンだってばっちこいな私の舌は丈夫なたちだ。翻っていえばタフな分、少々鈍いところもあるかなくらいの印象しかなかった。それなのに、なんだこれは。こんなのは知らない。
 私は夢中で貪った。
 闇雲につけて離してを繰り返していたはずの互いの唇が
 ちゅ、ちゅむ。
 同じリズムで互いを吸う。

「鈴芽さん、気持ち、いい?」
「……んぅ?」

 何と答えればいいのだろう。きっと「気持ちいい」と答えるのが正解で、私の今の感覚もそこに近いところにいると思う。でもはっきりと「気持ちいい」といえない。分からないからだ。

「じゃあ、訊きかたを変えましょう。――鈴芽さん、嬉しい?」
「はい、嬉しいです。……っんぅ」

 ちゅむ、ちゅ。
 やわらかく湿ったものに包まれ、唇が少し強めに吸われた。

「どきどきして切なくなって、体の奥がしゅわしゅわして、唇もほっぺたも背中もおっぱいも、高橋さんとくっついてるとこぜんぶ、嬉し、い……んぅ、これって、気持ちい、いって、ことですか」
「俺も嬉しい。嬉しくて気持ちいい。鈴芽さんが嬉しそうにしてて、たまらなく嬉しい」

 ばっさばさの睫毛まつげに縁取られたクールで知的な高橋さんの目がとろんとろんになっている。こんな高橋さん、見たことがない。心の写真フォルダのさらなる充実を喜ぶより前に、心臓がばくばくしてきた。
 もっといろんな高橋さんを、見たい。
 望んでいいものだろうかという躊躇を、欲望が軽々と飛び越えた。

「もっと、いっしょに嬉しくなりたい、です。……駄目?」

 さらしで巻き締められたおっぱいをさする大きな手に自分の手を重ねる。掌に関節のなまめかしい動きが伝わってきて、――ああ、こんなところまで気持ちいい。

「駄目じゃ、ありませんよ」

 後ろを振り返り気味にる私に、高橋さんが口づけた。
 ぬるれるる、る。
 あたたかく濡れた舌が忍び込んでくる。
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