10 / 14
〈十〉
しおりを挟む好き、っていわれた。
――何度か、俺の気持ちは伝えたつもりなんだけど。
ともいわれた。どれだ、どのシーンだ。心の動画フォルダを根こそぎ検索するも、どれがそれなのだかさっぱり分からない。
高橋さんは知的でクールで、私みたいな元体育会系筋肉デカ女からすれば高嶺の花だ。片思いだったはずなのにそうではなかったらしい。そのうえ私の好意はぼんやりとしか伝わっていなかったみたいで釈然としない。
そうなると、どうなんだ。
私たちの恋の矢印は互いを指していたにもかかわらず、双方向ではなかった。それが「あれっ? 実はお互い好きなんじゃね?」という気づきに至ったのが今だ。じゃあ、これからどうする。どうすればいい。
戦術上のポイントをがつがつ攻略するようなボルテージの高まりには覚えがあった。でも今は試合じゃない。高橋さんをゲットすれば勝ち、できなければ負け。恋人という関係に落ち着くことを勝利と定義するならば、もうゴールは目の前だ。でも恋は試合に似ているのに勝負ではない。ゴールの先に私たちそれぞれの人生がある。恋人になってもならなくても、勝ちでも負けでも成功でも失敗でもない人生が続いていく。
だからこそ、次にどうすればいいか分からない。
ただ確かなのは、
「好き。私、高橋さんが好きです」
これだけだ。
キスが止まらない。
唇と口の中が、こんなにも繊細だとは思いも寄らなかった。
口といえば呼吸をするための器官の一部であり、摂食のための器官でもある。熱々のラーメンだとか、燃えるような辛さの火鍋だとか、ぴりぴりびりびりくる刺激の摂取にも――ちょっと驚きはしても――おっとり健気についてくる。舌は味覚をつかさどるから口の中でも少し敏感かもしれない。でもチリペッパーで真っ赤っかのフライドチキンだってばっちこいな私の舌は丈夫な質だ。翻っていえばタフな分、少々鈍いところもあるかなくらいの印象しかなかった。それなのに、なんだこれは。こんなのは知らない。
私は夢中で貪った。
闇雲につけて離してを繰り返していたはずの互いの唇が
ちゅ、ちゅむ。
同じリズムで互いを吸う。
「鈴芽さん、気持ち、いい?」
「……んぅ?」
何と答えればいいのだろう。きっと「気持ちいい」と答えるのが正解で、私の今の感覚もそこに近いところにいると思う。でもはっきりと「気持ちいい」といえない。分からないからだ。
「じゃあ、訊きかたを変えましょう。――鈴芽さん、嬉しい?」
「はい、嬉しいです。……っんぅ」
ちゅむ、ちゅ。
やわらかく湿ったものに包まれ、唇が少し強めに吸われた。
「どきどきして切なくなって、体の奥がしゅわしゅわして、唇もほっぺたも背中もおっぱいも、高橋さんとくっついてるとこぜんぶ、嬉し、い……んぅ、これって、気持ちい、いって、ことですか」
「俺も嬉しい。嬉しくて気持ちいい。鈴芽さんが嬉しそうにしてて、たまらなく嬉しい」
ばっさばさの睫毛に縁取られたクールで知的な高橋さんの目がとろんとろんになっている。こんな高橋さん、見たことがない。心の写真フォルダのさらなる充実を喜ぶより前に、心臓がばくばくしてきた。
もっといろんな高橋さんを、見たい。
望んでいいものだろうかという躊躇を、欲望が軽々と飛び越えた。
「もっと、いっしょに嬉しくなりたい、です。……駄目?」
晒で巻き締められたおっぱいをさする大きな手に自分の手を重ねる。掌に関節のなまめかしい動きが伝わってきて、――ああ、こんなところまで気持ちいい。
「駄目じゃ、ありませんよ」
後ろを振り返り気味に反る私に、高橋さんが口づけた。
ぬるれるる、る。
あたたかく濡れた舌が忍び込んでくる。
20
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる