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クロエ (十一)☆
しおりを挟む「――待たせたね」
診療所を閉めたスタージョと、プランテーション内の街路を並んで歩く。
茜。濃藍。濃紅。黄金。薄葡萄に、金赤。夏至近く、暮れ泥む空に浮かぶ切れぎれの雲を残照が染める。
「今日も、お疲れさま」
スタージョが手をとる。他の仮装体たちはすでに近場のアパートメントへ帰っていって辺りに人影はない。それでもクロエは手を解き、距離をとった。
クロエはもう若くない。
バージョンがひとつだけのクロエ仮装義体をまとえばいつでも若いころに戻れはするが、中身は中年女だ。仮装義体を脱いでも若々しい他の女たちとは違う。
払っても払っても、クロエの心には嫉妬に炙られ黒ずんだ焦げ跡が残った。
「やめましょ。人に見られてしまう」
「かまうものか」
メタセコイアの陰に引きずりこむ。スタージョがクロエを抱き締め、口づけた。
「好きだ。愛してる。おれのクロエはきみだけだ」
「知ってる」
疑ってはいない。
仮装義体をまとい他の仮装体ラーシュたちに紛れていても、クロエはオリジナルとスタージョを見分けることができる。同様にラーシュもスタージョも他の仮装体クロエたちとオリジナルの自分とを混同しない。再会から二十年、クロエとオリジナルのラーシュ、複製体のスタージョの三人は深く愛し合っている。
でも、おかしい。
他の複製体や仮装体の人となりや感情の変遷を知れば知るほど、スタージョが都合よくクロエを愛するようになったように思えてならない。
しかし、手放せない。
クロエは切実にスタージョを必要としていた。
広い背中に腕をまわし、口づけに応える。吐息と舌を絡め互いを貪り合った。惑星ヴァージャの夜空を彩る星々のようにちかちかと快楽が火花を散らす。こうして義体をまとったままスタージョと睦み合うたびにクロエは驚いた。移住者用に支給される仮装義体は出来がよすぎる。こんなに忠実に快楽を拾うだなんて。
溺れそうになってクロエは慌てて体を離した。
「――早く帰らなきゃ」
時間がない。
初夏の夕空もさすがに暮れて一日が終わってしまう。
「そうだね。急ごう」
プランテーションの隅、木立に囲まれた屋敷へふたりは帰って行った。
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