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惑星ヴァージャ (十四)
しおりを挟む〈そちらの用事が終わり次第連絡がほしいって、シシーに伝えてもらえるかしら。できればこちらに来てもらえると助かる〉
〈もちろんです、シシーに伝えます!〉
前のめりの勢いで請け負う相手に礼をいい通話を切った。冷めてしまったホットミルクを飲み干す。口もとを拳で拭うとクロエは窓辺に寄りカーテンを少しだけ開け外の様子をうかがった。
「――――!」
焼け焦げた生け垣の穴から顔をのぞかせたまた別の男と目が合う。何ごとか叫びながら男が銃を構えた。
――撃たれる……!
がっ。
防弾ガラスが懼れていた衝撃を阻む。
へたりこみ、クロエはキッチンから廊下へ這い出た。建物の奥にいると戸外の剣呑な喧噪は伝わってこない。しかし危険がどの程度迫っているか分からず、それはそれで恐ろしい。
今回はガラスがもった。次の弾ももちこたえるかもしれない。でも、その次は? 同じ場所を何度も撃たれたらいつか亀裂が入ってしまうかもしれない。
怖い。死にたくない。
「ラーシュ……」
危機に瀕するこんなときに地球で骨も残っているか定かでない恋人の名前など、呼んでも仕方ない。それでも会いたかった。最後にひと目でいい、ラーシュに会いたい。
腰を抜かしたままじりじりと這い進むクロエは隠れ家唯一の出入り口、玄関にたどり着いた。
〈セキュリティロック解除対象者二名、到着しました。セキュリティを解除しますか?〉
案内の音声が玄関ホールに響き渡る。
クロエは顔を上げた。
――ロックを解除……? 対象者……?
緊急事態だと察してシシーが駆けつけてくれたに違いない。先ほど通話で頼んだ伝言が届いたのだろう。
〈セキュリティを解除しますか?〉
案内音声が繰り返す。縋るようにクロエは答えた。
「解除、して!」
〈了解。セキュリティロックを一時的に解除し、対象者二名の入館を許可します〉
び、びび。
短い警戒音とともにガラス戸、格子戸、さらに向こうの金属の扉が開く。
「クロエ!」
怒号や爆音をかいくぐり、懐かしい声が聞こえてきた。
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