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惑星ヴァージャ (十)
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地球最後のアイドル、クロエ・フレーザーのテーマパークを擁する惑星ヴァージャは観光地だけあってスペースポート入星管理窓口の待機列にあっても退屈させない。
スペースポートですでにテーマパークが始まっている。具体的には窓口の係員も案内係もセキュリティもショップやカフェの店員も皆、姿だけはクロエだった。子どもらが長蛇の列でも飽きないよういっしょに歌ったり踊ったり、菓子やグッズを配ったりしている。
「うわ……」
ラーシュ・ヨハンソンは気まずくうつむいた。初めのうちは「お、お嬢?」「ラーシュさま、お嬢がほら!」「あれっ、あちらにもおじょ、――んんん?」と眼帯で隠れていないほうの目を白黒させて驚いていたセシル・コピーだが今はラーシュとともに気まずげに巨躯を竦めている。
見られている。やたらに周囲から見られている。
「どこかで見たような……」
「ほら、あの人に似てない? クロエ・フレーザーの最後の恋人だったとかいう」
「確かに……伝記の画像より老けてるけど」
ショップスタッフ・クロエたちが、セキュリティ・クロエが入星管理窓口の待機列に並ぶ観光客と、ひそひそと語り合っている。じろじろ見られてつらい。
「――!」
通信が入ったらしい。フロア各所に散らばるセキュリティ・クロエたちの間に緊張が走った。が、観光客たちの前だからか、すぐに朗らかに表情を改める。数人のセキュリティ・クロエがラーシュたちの隣の列に並ぶカップルににこやかに声をかけた。
「別室へご案内します」
「さあ、どうぞこちらへ」
にこにこと手荷物を取り上げようとするセキュリティ・クロエたちに男女が抗う。
「触るな!」
「逃げるぞ」
どこから取り出したのか、男がナイフをふりかざした。
「お嬢!」
ラーシュとほぼ同時に走り出したセシル・コピーがセキュリティ・クロエと男の間に割って入る。男と女、どちらを取り押さえるか迷ったラーシュは一瞬、出遅れた。
「避けるんだ、セシル!」
怒号と悲鳴が入星管理窓口前のロビーに渦巻く。
鈍い光がセシル・コピーの腹に吸いこまれる。
厭だ。やめろ。やめてくれ。三百年、いっしょに旅をしてきたんだ。長い旅だった。やっとクロエとセシル・オリジナルに会える。もう少しなんだ。
セシル・コピー、きみが咄嗟に守ろうとしたクロエはクロエじゃない。別人だ。分かっていても動かずにいられないきみだからずっといっしょにいられた。頼む、俺から友を奪わないでくれ。
「――っ!」
同時にセシル・コピーのもとにたどり着いた別の男が暴漢を取り押さえる。
「早く、救命処置を、――!?」
暴漢の腕をひねり肩を膝で押さえつける男はかつてのラーシュと同じ姿をしていた。
* * *
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