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惑星ヴァージャ (七)
しおりを挟むクロエは視線をシシーから窓の外へ移した。リムジンは子ども向けプレイゾーンを進む。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!」
吸血鬼や魔女、フランケンシュタインや骸骨、妖精など思い思いのコスチュームに身を包んだ子どもたちが楽しげに練り歩いていた。テーマパークスタッフや客のおとなの中にはクロエの仮装義体をまとう者も多い。
「かちこちアースに、さよなら」
「ぐるんぐるんにエナジー」
園内に流れる音楽に合わせて子どもたちが歌う。皆、楽しげに遊んでいる。
シシーが窓の外を見やり目を細めた。
「わたしたちが地球を離れたのもハロウィンのころでした。こうしてお嬢といると、昨日のことのようです」
子ども向けのエリアから、リムジンは別の街へ差しかかった。
「こちらはおとなのみ入場を許される街のひとつヴィーゼです」
「他にもあるの」
「増えました。ここは最初の街ですが古い分、定住者も落ち着いていて何といえばよいのか――お嬢のコアなファンが集う街といえます」
ヴィーゼは輪のようになっていて、中央の住宅街を産業地区が囲んでいるという。ここもハロウィンを祝い街全体が賑わっていた。
複製体作製の年齢制限はないが、仮装体は成人のみとなっている。おとな向けの街だけあって菓子や軽食、射的などのほかに酒を売る屋台もちらほらあった。窓外の街並みは蝙蝠やかぼちゃ、オレンジや紫のネオンで飾られている。
「うわ……」
頭を抱えたくなった。花火で遊んでいるのもクロエ、歩きながらチュロスを頬張っているのもクロエなら自身の顔より大きいジョッキからビールを呷っているのもクロエ、行き交う者のほとんどがクロエだ。
「毎年、地球暦のハロウィンに向けて郊外のブルワリーが特別なビールを仕込んでおりまして、なかなかによいと評判です」
「私も飲みたい」
酔って道端で大の字になっているパンプキン・キング・クロエをミニスカポリス・クロエや救急隊員クロエが介抱している。けったいな夢を見ているかのようだ。飲まなきゃやってられない。
「お嬢はまだ覚醒したばかりですから、控えていただきます」
「みんな楽しそうで、いいな」
遠慮がちに微笑むシシーから落ち着いた石造りの建物の並ぶ通りへとクロエは目を逸らした。
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