30 / 53
惑星ヴァージャ (五)
しおりを挟む「オリジナルのヴァージャにはプレミアがついてすっごいお値段になってたから、復刻はファンの間で大評判よ」
どうしてそんなことに。
戸惑いどころではない。クロエは混乱していた。確かに祖父アーサーの金と権力とでばんばん前面に押し出されてはいたがタレントとして歴史に残るほどの存在でなかったのはクロエ自身がよくよく分かっている。
「人類が地球から旅立っておよそ三百年、宇宙は空前の地球ブームに沸いてるの。わたしたちのルーツを知りましょう、ってね。シシーはこの星で義体研究開発企業アルケを起ち上げてそっちで有名だったんだけど、地球ブームにもがっちり乗ったの。シシーはビジネスパーソンとしてもすごいわ」
「シシーって、誰?」
祖父や両親は資産家だったし、自分でも事業や何やらで稼いでいたから地球では確かに金はあった。だからといってここまでたいそうなことができるほどの資産だっただろうか。
――そういえば。
地球から旅立つ前日、祖父アーサーの書斎でさんざっぱら書類にサインさせられた。そのときに聞いたこともない惑星いくつかの所有権に関するものもあったような気がする。まるで昨日のことのようだが遠い昔のよう――体感ではつい昨日でも実際は時間も空間も大きく隔てられていた。もう三百年も昔のことだ。
それはともかく、シシーって誰?
聞けばシシーなる人物は惑星ヴァージャも企業集団としてのヴァージャも成功させておいて自分のものにせずすべてクロエをオーナーとしているという。しかしクロエにはシシーという名の人物に覚えがなかった。
「えっ? シシーを知らないの? あの子、あなたのことすっごくだいじにしてるけど――ああ、シシー! やっと来た!」
部屋の戸口でナース・クロエに入室を促されている女がいる。術衣姿でベッドに横たわる自分もクロエだし医師のカチャもクロエだしナースもクロエだがおどおどしたその女、シシーも外見はクロエだった。ぱりっとした白いシャツに黒い細身のタイトスカート、ポインテッドトゥのピンヒールという仕事中のキャリアウーマンそのもののシャープな装いなのにみょうに腰が引けている。自分と同じ顔だが眉を八の字に、唇をへの字にしてうつむくその姿に既視感があった。まさか――。
「あの、あのあの、お、おじょ、お嬢……」
嘘。驚きで言葉を失う。シシーと名乗る自分と同じ姿の女の中身は祖父の忠犬、ごりごり強面の中年男だ。
どうしてこうなった、セシル・バーリー。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる